第16話 転生者、二人

私——赤城晃帆あかぎあきほの意識が目覚め、その事実に気がついたのは彼…ノクトが産まれた日のことだ。


この世界は、『ルミナスファンタジー』を元にした世界で、私はそのアニメのラスボスとして登場するノクト・ウェイカーの義姉、アリアに転生してしまったようだった。


何が起きているのか、まるで理解できずに数日の間混乱し取り乱していたけれど、ノクトや義母…ルリアのことを思うと——『助けたい』。そんな事ばかり考えるようになっていた。



アリアが12歳になると鑑定式を行うため、私たちが暮らす名も無き村に黎明教会から司祭が派遣される。


外部との交流なんてまるでないこの村に、何故12歳になる子供がいるとわかるのか。それは黎明教会が所有している女神が残した遺産、『神の眼』という聖遺物によって12歳になる子供の位置を特定することができるからだ。


さらに『神の眼』は万物を見通す力があるそうで、それを再現しようと作られた鑑定眼という魔道具によって鑑定式を行うのだけれど、鑑定式当日、アリアと一緒に司祭の元へ訪れたノクトもついでに鑑定する事になる。


「寂れていて人口も少ない、王都からの距離も遠く娯楽もない…そんな場所に何度も訪れるなんて面倒だ」


そんな調子で、不真面目な司祭が横着してしまった事でノクトの中に眠る魔神の力が発覚する。


「悪しき魔神が目覚める前に殺してしまえ!」


大勢の聖晃騎士が村に押し寄せ、『女神の敵を殺せ』と、何の罪もない村人達や——母、ルリアが殺された。


その時ノクトの力…魔神の力が暴走し騎士を一人残らず、跡形もなく、この世から消し去ってしまう。


全てが虚無に帰り、アリアとノクト、二人だけが生き延びその地獄から逃れることができたけれど、その代償にノクトの心が壊れてしまう。

アリアの顔を見るだけで、あの地獄絵図を思い出してしまうのか避けるようになり、いつしか一人で何処かへと出向き、そのまま姿をくらませてしまうのだ。


「そんな未来は嫌だ!」


シナリオの改変なんて大それた事、どうやれば良いのかわからない。でも、ノクトが女神への復讐のために、あがき苦しむ様は見たくない。


ノクトは何も悪くない、だから幸せでいてほしい。そんな彼への願いを叶えるためにできることはあるだろうか。


アニメの原作はRPG…ゲームだ。どうやら三作ほど発売されたようだけど、私は未プレイのまま転生してしまった。だからよくわからないけれど、もしかするとゲームみたいに魔物を倒せばレベルが上がって、ノクトを守れるくらいに強くなれるのではないだろうか。


「確かアリアは付与術を使えたはずだから、私でも戦える…よね?」


それからの日々は大変だったけれど楽しくもあった。母と共にスライム退治をしたり、魔力の使い方——身体強化を覚えたり、レベルアップの概念を教えてもらったりと充実していたと思う。ノクトと過ごす時間にも幸せを感じる事ができた。けれどどうしても、気になることがあったのだ。


「なんだかノクトの様子が変…どうして?」


「魔石が気になってるみたいね、キラキラしていて綺麗だし欲しがるのも無理ないわね」


なんだか納得できない、ノクトは時々私に見惚れるかのように見つめてくることがある。つぶらな瞳で真っ直ぐと、愛しい人を見守っているような。


これではまるで私達が両思いみたいな———


「…ふふっ、顔が真っ赤よ、どうしたの?」


「なんでもない!」


義理とはいえ姉弟なのに、これじゃあ私の方が様子のおかしな人よ。


———そう、義理なんだよね。アリアの本当の両親、家族は魔王ルシフェルの手によって既に亡くなっている。ルリアは元々、商人として大成したアリア達家族の住む屋敷で私の世話係として働いていた。名前が似ているということもあり、歳の離れた姉妹のように仲が良かったのだ。


でも、そんな日常は魔王によってあっけなく崩れ去る。ルリアの肉体は魔神の器として適性があるらしく、彼女に魔神の子を孕ませようと魔王が画策するが、両親がそれを阻止しようとしたために皆…殺された……。


アリアが生き残ったのは、ただの気まぐれ。


魔王でも子供を殺すのは躊躇われたのか、それとも別の理由があったのかは知らない。二人は記憶を改竄され親子だと認識するようになり、ノクトが産まれた日、私の意識がアリアに乗り移ったことで、前世の記憶により現状を理解する事になった。


ルリアは私のことをどう思っているのだろう。

娘として見てもらえているのかな…なんて。


なんだか寂しい気持ちになり、いつものようにノクトの寝顔を眺めながらそっと頭を撫でる。こうしていると、未来に起こるであろう悲劇なんて忘れてしまうほどに安心してしまうのだ。


そうやって平和な日々を過ごしていたある日、私は気づいてしまったのだ。


ノクトも私と同じように、誰かが転生したのではないか…と。


ステータスだとかボーナスタイムだとか、私が知らない事をいつどうやって知ったのか。それに、一番気になるのは特殊スキルのこと。


アニメにも登場する神書—スキルブック、これは女神ニクスヘメラが直接判断を下し力を持つべき者に与えるはず。魔神の力を宿し、未来で女神と敵対し殺そうとするノクトがどうして?


そんな疑問も、すぐに解消される。




「……アリアも、転生者だったの?」



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モブキャラに転生したはずなのに 橘樹 @hinakana

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