第2話
「田舎育ちの皆様は特に、迷子に成らない様御気を付け下さい。何度も来ている私でさえよく迷って仕舞いますので」
僕等は強く頷き、例を述べてから街の散策に向かった。
コルグさんの言って居た様に、チスアンタスの街はとても広く、道路の幅も僕四人分程もある。両端に無数に並ぶ露店では反対端迄届かせる為か、声を張り宣伝を行って居る様だ。
「なんか見たいもんでもあるのか?」
ルラさんがそわそわしている事に気付いたリツさんが声を掛ける。僕もそうだし、多分マイちゃんも思ってるのだろう。であれば、ルラさんが思うのも無理は無いし、リツさんも同じ思いだからこそ声を掛けたのかもしれない。
「じゃあさ、辰刻に其処の噴水で集合、とかどうかな?」
「いいじゃねぇか!じゃあ俺は先に失礼するわ~」
リツさん凄い浮かれてる...。兎も角、全員が思って居た様で安心した。養兵学校に入学する為とは謂え、折角都市に来たのだから、買い物したいに決まってる。少し見回すだけで視界に広がるのは、チスアンタス名物のチス大福、冒険者御用達の装備屋、マイちゃんの好きそうな薬品店...とか思ってたら窓の奥には彼女の影がある。だよね、行くと思った。
「あ、アルさん。一緒に食べますか?」
此の声はルラさん...何処に居るのか分から無い、広すぎるし人も多い所為で視界が遮られる。と、僕より少し冷たい腕に掴まれ引っ張られる。
「へへっ、やっぱりチスアンタスといえばチス大福ですよね~...あっ、すみません。若しかしてあまり好きではありませんか...?」
「何処居るのか分から無くて...」
「あっ、そうですよね。矢張り都市は混みますし...どうぞ。」
ルラさんがくれた大福は、湯気が出ていて暖かかった。少し青み掛かった色をしている。
「如何して青いのかな...」
「其れはですね、チス大福はチスアンタス周辺に生息するシアンパペットという魔物の素材であるシアパペルシュガーという砂糖と近くにあるミラサリアという町の特産品であるミロロットという植物を使って作られるのですが其の何方も青系統の色をしているからで、此の独特な色が話題になり国王陛下の耳に入り、国王陛下が好評された事で大衆に根強い人気を...誇る様に...なっ...ごめんなさいごめんなさいつい話過ぎてッ!?」
高速で回転する唇から発せられた文字列を理解するのに少しだけ苦労したが、ルラさんがそんなに物知りなんて知ら無かった、可愛い。
「ル...ルラちゃんって呼んでもいい?」
「も、勿論です!ルラちゃんルラちゃん...少し恥ずかしいですね...でも凄く嬉しいの
です!!私もアルさんの事、アルちゃんって呼ばせて頂いても大丈夫ですか!?」
「うん!でさ、ルラちゃんは前に此処来た事あるの?」
笑顔が少しだけ悲しそうな顔に成り、首を振ってから頷いた。
「はい...父が此の辺りへ出張に行く機会が多く、よく連れて行って貰って居ました。大丈夫ですよ、家族を失って辛いのはアルちゃんもですし、他の皆さんだって同じじゃないですか。」
そうだ、僕等は皆自身の家族を失って此処に立って居るのだ。都市に来たからと浮かれていては、二人の仇が取れない、あの生臭さに対する無力感を、もう味わわ無い様に。
「もう少し時間がありそうですね、なにか見たい所でもありますか?うろ覚えですが道案内しますよ?」
「じゃあ、御薦めの装備店に案内して欲しいかな」
「確かに、私達は兵士に成る為に来ましたもんね。武器防具探すの良いですね。それじゃあ、少し大通りを外れますよ」
脇道を暫く進んでは曲がり、入組んだ道を進んで征く。彼女の足運びは軽やかで、何度も通って居た様な、慣れた調子で左折した。
「此処です、失礼しま~す」
「お、ルラ嬢じゃねぇか、でっかく成りやがって...そっちはお友達かい?」
木製の年季の入ったドアを無造作に開けたリツちゃんは、魔獣の様に大きな方店員さん?に撫でられて居た。
「初めまして、アルっていいます。ルラちゃんとは同郷で、メカッタ戦陣学校に入学しに来ました」
「ほぉ、メカッタに入学かい、物騒だね。お母さんの後を追う気か?プーロは何故止めないんだ...」
「父は、死にました」
ルラちゃんは表情を変えず、巨人を見つめる。
彼の顔は信じられ無いと言って居る様で在った。
「そうか、分かった。但し、くれぐれも死にに行くんじゃねぇぞ。帰って来い。アルって言ったか、ルラを宜しくな。」
僕はこくりと頷いた。彼の表情が一気に明るくなり頷き返す。
「そうと決まれば...いらっしゃいませ、お探しの商品は御座いますか?」
「アルちゃんに使いやすそうな武器と、私には成るべく硬めで大きい盾をお願いします」
「任せな、とっておきがあるんだ」
店長は店の奥に姿を隠し、暫くしてからやってきた。背中には大きな盾を背負い、手には木製の木箱を大事そうに抱えて居る。
「先ずはルラ嬢、約束の盾だ。シアノスにマゼルノスを練り込んだ逸品だぞ」
「マゼルノス...!?其れって高級品だよね!?私なんかが其れ程の高級素材...持てる訳無いよ...第一、私は大富豪じゃ無いし」
「そうだな、其れはルラ嬢、御前のお母さんからだ。俺からの品はちょっとだけ待ってくれ、先にアル嬢に是を見せなきゃな」
シアノス?マゼルノス?高級な素材なのは分かったが、如何して其処迄高級なのか分からない。第一、何故練り込むんだろう。後で聞いてみようかな。其れで、僕に見せてくれる物って、どんな得物だろう。
「ノーツゴライアスの曲腕...!?!?」
「良く分かったなルラ嬢。如何にも、ノーツゴライアームを素材として作られた斬鞭だ。」
斬鞭...切断が可能な鞭と謂った処だろうか。黒光りする灰色の鞭は、見た者を魅了する様な、不思議と吸い込まれる感覚で在った。今迄見て来た中で、一番美しい武器だと思った。父の打ったミスリル製の直剣も大好きだが、其れとは別の美しさが僕を呑み込む様だ。
「こ、是にします!!」
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