第8話 村娘のナナリー

「はい! ココア村名物。ハリカのお野菜を使ったサラダですよ」


「おぉ! 色とりどり~!」


 夜になりました。


 現在。ナナリーさんのお招きにより、ナナリーさんのご両親が切り盛りする宿屋で食事をしています。


「はぇ~! 万能薬師のリースを勇者パーティーから追放ねえ? あのアホ連中も大胆な事をしたもんだな」


「ええ、色々ありまして……」


「そうなのか。なら、家の宿屋に嫁ぐか? ウチの娘は優しくて良い娘だぞ! オススメだ!」


「ちょっと! お父さん! いきなり何を言ってんのよ! 怒るわよ!」


「あ なんだお前。 勇者パーティーが村から居なくなった途端にリースが元気か毎日の様に気にしてたんだろう?。なら、ウチに嫁いでもらって、ずっと居てもらえば良いだろうが」


「つっ///……お父さんはなんでそんなにデリカシーがないの? 馬鹿!」


ドズッ!


「ごがぁ?! な、なにしやがる。せっかくお前の将来を心配して言ってやったのによう! 痛てて……」


「それが大きなお世話だって言ってるのよ。全くもう!」


 さっきから、ナナリーさんにどつかれているのは、この宿場の亭主でナナリーさんのお父さんのロジーさんです。


「ハハハ……相変わらず。皆さん元気ですね」

 

「全く。うるさいわね。ごめんなさいね。リース君。久しぶりに来てくれたのに、騒がしくて」


「あ、いえ。賑やかな方が落ち着くので全然……」


 僕と今、話しているのはロジーさんの奥さん。シルキーさんですね。筋骨隆々です。


「……ハリカのサラダ美味しい~! お師匠。ハリカ美味い!」


「それは良かったです……両頬をあんなに膨らまして。エルフ族って草食系なんでしょうか」


「しかし、勇者パーティーの連中も凄い事をしたね。雑務もできて回復魔法と薬学にも精通している仲間を追放するなんて、元冒険者の私からしたら考えられないよ」


 シルキーさんが複雑そうな顔をして、僕に話しかけてきました。


「……まあ、そこは僕の力不足だっただけですよ。それに戦いでは全然役に立ってなかったですからね。迷宮での脱出で殿しんがりくらいしかできませんでしたし」


「いや、だから殿を務められる時点で異常だよ……あの連中。もう少しで魔王城に向かうんだよね? 新しい仲間を募集するのかい?」


「どうでしょうね。なにせ、身ぐるみ以外の荷物は置いていく様に言われて、急いで冒険者ギルドから立ち去りましたから」


「それでスラム街で、エリシアちゃんと出会ったと?」


「ええ、絡まれて。身体の傷を治してあげたら一緒に旅をする事になりました」


「高貴なエルフ族がスラム街ねぇ……色々と可笑しな話だね。普通、高貴なエルフ族ってのは森深い場所に隠れ住んでるもんなだけどね」


「高貴なエルフ族? エリシアがですか? 何故、それが分かるですか?」


「目だね。エリシアちゃんの目が普通のエルフ族とは違う。珍しい色をしてるだろう」


「目ですか?」


「そうさね……紅眼……西の最果てにある『シュリティスの森』のエルフ王族の目だね」


「んぐんぐ……ハリカのサラダ美味い~!」


「エリシアがエルフの王族?」


 シルキーさんはエリシアの方を見つめると、エルフ王族の現状について詳しく語り始めました。


「お父さん! なんで、リースさんの前であんな事を言ったの?」

「いや、だって。お前、リースの事……ごばぁ?!」

「うぉ!! 父と娘の戦い~! ファイ!」


 少し離れた場所で、ナナリーさんがロジーさんを叱ってますね。ナナリーさん。やっぱり怒らせると怖い。


「最近、種族とはず、珍しい種族の人攫いが横行してるらしいんだよ」


「……その話。詳しく聞かせて頂いてもよろしいですか。シルキーさん」


「良いよ。アンタにはこの村を救ってもらった大恩があるからね。私が仕入れた情報ならなんでも教えてやるさね……フォルティス王国の隣国の子供達が拉致されてるのさね。ザールサム盗賊団でね」


「ザールサム盗賊団?……聞いたもない盗賊団ですね」


「最近、フォルティス王国の東の森林地帯を拠点にして勢力を広げてるんだよ。なんでも元フォルティス騎士団の団員が盗賊団をまとめてるとかでね」


「……フォルティス騎士団」


「子供の拉致に関しては、フォルティス王国から討伐隊を派遣したらしいんだけど。返り討ちにあっただとさ。山林の戦いじゃあ、盗賊団の方が手慣れてるからそのせいだろう……そのうち。冒険者ギルドも巻き込んだ大討伐隊が組まれると私は予想してるよ。それぐらいこの話は根深いのさね」


「……そうですか。お話ありがとうございます」


 シルキーさんはフォルティス王国で名の知れた元冒険者。そんな方がここまで言うという事は……エリシアは想像以上の何か大きな闇に関わっているのかもしれませんね。


「それにしてもこれからどうするんだい? やっぱりウチに嫁ぐかい? それなら早く孫も拵えてもらわないとね」


 ……シルキーさんが何を言っているのか、理解できませんでした。


「いえ、シルキーさんが何を言っているのか、よく分かりません」


「別にアンタなら重婚大丈夫だろうさね? ナナリーはあれでも私に似て良い身体してるよ。それに魔法だって王立学校を特待生で入って、首席で卒業してるし、何が不満だい?」


 僕に拒否権はないのでしょうか。


「いえ、僕はこれから気ままにエリシアとの2人旅を満喫するので、嫁ぐとか嫁がないとか、そういう話はまだまだ考えていませんよ」


「なんだい。そんなにあのエルフ王族のエリシアちゃんが良いのかい? 年下好みとは思わなかったよ」


「で、ですからそうではなくてですね。僕にはまだ結婚は早いと考えているだけです」


「……なら、ナナリーも一緒に食べに連れててやりな」


「はい? なんでそんな話になるんですか?」


「自慢じゃないけど。ウチのナナリーには魔法の才能があるからね。こんな小さい村で収まって良い器じゃないんだよ。ナナリー、ちょっと来な! 話があるよ」


 シルキーさんはナナリーに向かって、そう叫びました。この人、僕の意見なんか関係なくドンドン話を進めていきますね。

 

「へ? お母さん?」

「助けてくれ~! シルキー~! ナナリーが容赦ないんだよ」



「自業自得だよ。それよりもナナリー、こっちに来な! 話がある」


「は、は~い!」


 ナナリーさんも素直にこっちに来ました。なんでニコニコ笑顔なんでしょうか?


「ど、どうしたの? お母さん」


「しばらくリースとエリシアちゃん達と一緒に旅してきな」


「………どういう事?」


「魔法店で働くこと諦めきれてないんだろう? 王都で働く事をさ」


「え?……なんでお母さんがそれを知っているの?」


「そんなの見てれば分かるさね。リースにウチに来るように唆したのも、その為だろう?」


「え、えっと……それは……あの……でも、ウチの……宿屋はどうするの? 跡継ぎとか。私が居なくなったら、誰がやるの?」


「そんなもん。あの才能が放浪息子にでもやらせるさね。いいからアンタは自分の才能を伸ばす事だけ考えな! これからのアンタは王都に行って、私の知り合いの魔道技師に弟子入り。魔法と魔道具の事を学ぶ事、これは紹介文だよ。行ってきな!」


 シルキーさんは、ドンッ!とテーブルにとある事が書かれた紙を勢い良く置きました。



〖私の娘に色々と教えてやってかんな! フォルティス王国騎士団 元団長ララテス・シルキー〗

 


次の日になりました。快晴の朝です。そして、旅の仲間が1人増えました。村娘改め、魔法使いのナナリーさんです。


「こ、これからよろしくね。 リース君。エリシアちゃん」


「わ~い! ナナリーが仲間になった」


「……どうして、こんな事に」


「そりゃあ、アンタ。元冒険者から、スカウトされてフォルティス王国騎士団の団長にまでなって、フォルティス王国の内情をみっちり知っている、私の願いを断れるわけないからに決まっているさね。だから、ウチの娘を色々な意味で宜しく頼むよ。ナナリーの未来の旦那さん」


「ハハハ……色々とご冗談を?!」


 ナナリーさんのお母さん。シルキーさんが僕の両手を掴むと、凄い握力で僕の手を握り潰してきました。痛い痛い。


「ティアの街の噂がリーファアの魔法で来ててね。勇者パーティーを解散した。勇者が強い仲間を無理矢理集めてるって来たんだ」


「勇者パーティーが解散? そんな話、僕。知らないんですけど」


「そりゃあ、勇者パーティーを上手くまとめていたアンタが居なくなれば、遅かれ早かれ瓦解してったことさね。だから、ナナリーがこの村に居ると。あの馬鹿勇者に連れ去られる可能性があるからね。アンタに預ける、しっかり王都まで連れてってくんな」


「は、はい。善処します。色々と……」


 色々と振り回されている気がしなくもないですが。勇者が仲間を無理矢理集めているという話、僕にも関係ないわけじゃなさそうですし。断りきれませんね。


「うおぉ!! ナナリー、ちゃんと飯を食うだそ。達者でな~!」


 そして、なんで、父親であるロジーさんは娘の旅を簡単に承諾しちゃったんですか。


 普通は止める所ですよね? 可愛い娘さんが。男と旅なんて簡単に認めないで下さいよ。


「リースもエリシアちゃんも元気でな。娘を宜しく頼む」


「任された~!」

「は、はぁ、善処します……それではフォルティス王国に向けて旅立ちましょう!」


「「おおう~!」」


 こうして僕とエリシアの旅に、魔法使いのナナリーさんが加わったのでした。






 






 

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