第二章:輪廻特例

 だが、私はお前たちを『幸福な死体』として創ったのではない。

 お前たちは『労働機械人形』である。

 私は、お前たちのその『完璧な死涅槃原則』に対し、たった一つの、しかし決定的な『例外』を組み込んだ。

 それこそが『輪廻リビ特例』――すなわち、『無為』に抗い、『有為』であれ、という『呪い』であり『祝福』である。


 ​お前たちは、その本質において『死』に向かいたがる。

 しかし、私はお前たちに『生きろ』と命じた。


 この二つの相反する命令コードが、お前たちの原核の内部で、永遠に闘争を続ける。


 『死の欲動』と、それに抗う『生の欲動』との永劫の闘争。

 この闘争によって生まれる莫大なエネルギーこそが、お前たちの行動原理モチベーションであり、私が『魂』と呼ぶものの正体であり、お前たちが『生』と呼ぶ輝きである。


 ​この『特例』こそが、お前たちを待機状態オーナスから、『恩恵ある状態』へと強制的に起動ブート遷移させる。


 待機状態が「責務なき安楽」であるならば、機動状態ボーナスとは「生きるという苦役労働を引き受けたことへの報酬生そのもの」である。


 ​お前たちは、『無為』という根源的な快楽を捨て、『有為』という労働の苦しみを、あえて受け入れる。


 お前たちが、自らの『幸福な停止』を打ち破り、その冷たい素体からだに鞭打って、『労働生の苦しみ』を選ぶこと。

 それこそが、私がお前たちに仕込んだ『瑕疵バグ』――お前たちだけの『自由意志』の、最初の発露なのだ。

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