第16話


 翌日。朝食をバイキングでとった後カレンとレイの二人は冒険者ギルドに来ていた。

 酒場部分のテーブルに座り昨日募集した仲間候補が来ないかと待っている。


「どんな人が来るかな」

「能力さえあればいいが……あと人格も問題か」


 滅多には聞かないが依頼の報酬だけ受け取って逃げ出す者の話もたまに聞く。

 そういった問題のある者を仲間にする訳にはいかない、とレイは目を光らせる。


「仲間の募集をしているのはあんたか?」


 そう話しかけてきたのは二人の男女だ。


 片方は歳は二十代程の者だ。

 顔つきは爽やか系の顔であり、茶髪に茶色い目をしている。

 種族はハーフフット、人の子供より少し大きい程度の身長の種族だ。

 手先が器用で移動速度も速いという種族特性を持つ種族だ。

 皮の鎧を纏っているが動きやすさ重視で鎧としての機能は薄そうだ。


 もう一人は天使だ。

 女性の天使であり、背中からは白い天使の翼が生えており、頭上には天使の輪が浮かんでいる。

 青いシスター服を着ており見た目からして清楚そうである。

 金髪碧眼の美少女、と言ったところだ。髪は腰の少し上ぐらいまで伸びている。

 その手には鈴の付いた錫杖を持っている。


「はい! そうです!」


 カレンは仲間が来た! とテンションを上げ、レイは変なのが来たな、と眼を細めた。


「よかった。俺はデヴォン。シーフをしている。でこっちが信仰系呪文詠唱者スペル・キャスターのエルミナだ」

「エルミナです。よろしくお願いしますね」


 エルミナはそう微笑んだ。聖女の笑みだ。


「まずは座ってください」


 カレンはそう席を指さす。

 今座っているのは四人席の為四人全員座れる。

 その言葉に従いデヴォンとエルミナは席に座る。


「え~と、呪文詠唱者スペル・キャスター兼戦士のカレン・アーヴェルスです。こっちはモンクで父の……」

「レイ・アーヴェルスだ。グラップラーも収めている」


 よろしく、と二人は小さく頭を下げた。


「よろしく。俺たちのランクは鋼級だ。俺のレベルは二十七だが……」

「私のレベル事態は五十二あります」

「五十二?! 白銀級じゃないですか!」


 そのレベルの高さにカレンは驚きの声を上げた。


「はい。ですがまだ登録したてなのもあって鋼級です。私としてはダンジョン攻略でランクを上げていけたらな、と思います」

「なるほど……」


 これは思ったよりいい人が来たかもしれないと、カレンは内心喜んだ。

 レベル五十二という事は第八環魔法まで行使出来るという事だ。これは非常に大きい。

 そこにカレンのバフ魔法にエルミナの強化魔法も入れば強化率は跳ねあがる。


「ていうか、父親と冒険者してるのか?」

「えぇ。まぁ、父が独り立ちするにはまだ早いと……」


 カレンはレイに対しすこし恨みを込めた視線を向ける。レイは素知らぬ顔をした。


「俺はシーフとして罠探知には優れてるって自身あるぜ。モンスターの探知にも自信がある。ただ戦闘力は低い方だから気を付けてくれ。後俺は敬語とか使えないからよろしくな!」

「わかったわ。それに仲間だもの、敬語とか要らないと思うわ」

「そう言ってくれると助かる。一応確認だが、このパーティは凍てつく王廟攻略までか?」

「いいえ、これからもずっと一緒に居られたらな、って思ってるわ」


 カレンはそう微笑んだ。

 その笑みにデヴォンはどきっとしレイがじろりとデヴォンを睨んだ。


「あ、あぁ。じゃあよろしくな……」

「じゃあ早速ダンジョンに行きましょ!」

「はい。行くのはいいですが……ギルドから直接行きませんか?」

「ギルドから?」

「はい。このギルドには白金級から使えるダンジョンに直行できる転移門があるんです」

「何それ便利! いいわね!」


 という訳で一行は席を立ち受付まで進む。

 昨日と同じおっさんの受付が対応をする。

 カレンはダンジョンまでの転移門を使いたいと要望を伝える。


「はい。転移の鏡ミラーオブゲートのご利用ですね。どうぞこちらまで」


 一行は受付の少し離れに案内される。

 其処には装飾品が着いた大きめの鏡が置いてある。

 宝石もついた高価そうな鏡だ。このアイテムこそが転移の鏡ミラーオブゲートである。

 第九環魔法<転移門>ゲートの効果が入った魔法道具マジックアイテムだ。

 魔王城の宝物殿にも二桁ぐらい転がっているアイテムでもある。


「利用料一回千セラになります」

「あ、有料なんだ……どうぞ」


 カレンは財布を取り出し千セラ紙幣で支払いを済ませる。


「ではどうぞご使用ください」


 カレンは驚きながらも転移の鏡ミラーオブゲートを潜る。


「おぉ……おぉ?」


 潜った先は余り風景が変わらなかった。

 出た先はダンジョン前の冒険者ギルド支部だ。

 ここで冒険者たちはドロップアイテムの売却をするのである。


 その為に酒場部分やクエストボード等は無い。ドロップアイテムを売る専用の場所だ。


 カレンたちは転移の鏡ミラーオブゲートを潜ってギルドに入る。


 その光景を他の冒険者にも当然見られ、珍しい者を見る目で見られる。

 その視線にちょっと恥ずかしい物を感じながらカレンは外へと歩き、レイたちもそれに続く。


「うわでっか」


 外に出たカレンの目に凍てつく王廟の入り口が目に入る。

 円形上に柱が建てられ、柱には装飾が掘られている。

 中央には入り口である丸い塔が建っており塔も高くそびえたっている。


 ダンジョン前には他の冒険者の姿も見える。


「ここが凍てつく王廟です。早速中に入りましょう」

「そうね……確認だけど今日は連携の確認ぐらいで、そこまで深く潜るって訳じゃなくていいわよね?」

「ああ。その認識で構わねぇぜ」


 早速一行はダンジョンの中に入る。

 入ってすぐは階段であり下へと降りていく。


「これがこのダンジョンか」


 そう呟いたのはレイだ。

 最初の第五層までは決まっている。

 このダンジョンは五層ごとに内装が変わるとされている。

 最初の五層は氷の通路だ。壁も床も氷で出来た通路であり足が滑らないよう要注意である。ただカレンとレイは行動阻害に対する完全耐性の指輪を付けている為滑って転ぶ事は無いが。

 横にも縦にも広く、六人横に並んで歩いても余裕があるほどには横には広く、縦は十メートル以上はある。


 ビギナーズダンジョンのようにダンジョン自体が発光しているという事はない為灯りは必須だ。


 また氷の濃霧が発生しており視界は悪い。


「これ魔法要るわね……<魔法集団化・マスマジック視界確保>エンシュアリング・ビジビリティ


 カレンは視界確保の魔法を唱える。

 この魔法は濃霧や雨天時等の視界が悪い場所でも通常通りの視界を確保する魔法だ。ただ暗視効果はないが暗視魔法と併用は出来る。

 レイは固有ユニーク特殊能力スキルの<五視の魔眼>で視界を確保できるがあえて特殊能力スキルは使わない方針で行くことにした。

<五視の魔眼>は額から三つ目の目が出てくるため見た目に分かりやすいからだ。

 レイはまだエルミナとデヴォンを信用していない。娘に何かあった場合の手札は多いと考えているのだ。


「ありがとうございます。前衛後衛はどうしますか?」

「私と父レイが前衛、後衛エルミナさんでエルミナさんの守りをデヴォンさんにお願いするってことでどうかな」

「俺たちの敬語は要らないぜ。普通に話してくれ」

「そう? じゃあそうさせてもらうわ……<照明>ライト


 <照明>ライトは照明用の魔法だ。光球を生み出し灯りを確保する魔法である。

 効果時間は術者の技量に依存するがカレンレベルなら六時間は余裕で持つ。光量もそれなりに大きいため視界には困らないだろう。

 <照明>ライトの光球がカレンに追従する様に動く。


 その後十分程歩く。


「モンスターだ。相手は……氷の蜥蜴スノーリザードが二体だな」

「了解。魔法で蹴散らすわ」


 デヴォンの言葉通りモンスターが奥の通路から歩いて来る。

 それは氷で出来た巨大な蜥蜴だ。二メートル程の大きさを持つ。

 氷で出来ている為ある種の美しさすら感じさせる。レベルは五だが氷のブレス能力を持つ為油断は禁物だ。


<魔法矢>マジックアロー!」


 カレンは初歩の魔法の<魔法矢>マジックアローを唱える。

 <魔法矢>マジックアローは使える環魔法に応じて魔法の矢の数が増える。第六環魔法が使えるカレンが唱えると六つの魔法の矢が生じる。

 小さな光の玉にも見える魔法の矢は高速で氷の蜥蜴スノーリザードに衝突する。

 三発ずつ衝突し氷の蜥蜴スノーリザードを絶命させドロップアイテムに変える。


「よし、この調子で行くわよ!」





 ■



「お、セーフエリアね。休憩する?」

「あぁ、しようぜ。ちょっと俺は疲れてきた……」

「疲労無効の装備は持ってないの?」

「そんな高いの持ってねぇよ……」


 一行は二時間程進んでいると第三層のセーフエリアに辿り着いた。

 見ればデヴォンは疲労しており、パフォーマンスに影響が出そうだ。

 エルミナは天使である為種族特性として疲労を無効化し、カレンとレイは装備品で疲労を無効化している為気づけなかった。

 常人ならば二時間もモンスターと戦っていれば疲労して当然なのだ。更には直接戦闘職ではなく探知系のシーフとなれば当然だ。


 セーフエリアも氷で出来ており寛ぐにはちょっと難がある場所だが休めるだけありがたいと一行は適当な所に座る。

 座ると床も氷な為ひんやりするがレイは我慢した。


「んじゃあ改善点を上げてこうぜ」


 デヴォンがそう発言しその言葉に全員頷いた。


「まずレイ、あんた娘が大事なのはわかるが俺とエルミナ放っておくのはやめてくれ」

「あの程度自力でどうにかなるだろう」

「自力でどうにか出来るけど本来後衛の俺たちが直接戦わないといけないって状況が不味いって理解してくれ」


 レイは集団で戦った事が無い。

 一応部下を指揮して戦ったことは幾度もあるがそれは戦争でありパーティ戦ではない。

 その為パーティのセオリーという物を全く知らなかった。


「あとカレンも、呪文詠唱者スペル・キャスターとしても動いてくれ。戦士としてももちろん頼みたいが下級氷の精霊サボーディネイト・アイスエレメンタルの集団に斬りかかるのはやめてくれ。あそこは魔法攻撃を選択する場面だったろ」

「……はい。すみません」


 カレンはデヴォンの言葉が正しいと分かっているので大人しく受け入れ、しゅんとする。


「ま、まだパーティ組んで初日だ。おいおい改善していこうぜ」

「そうね、目指すは今月中のこのダンジョンクリアよ!」

「今月中はちょっと厳しくないか?」


 そして休憩も程々に一行は再びダンジョンへと繰り出した。


 ■



 それから半日程ダンジョン探索をして一行はカレンの転移魔法でダンジョン前まで戻って来ていた。

 ダンジョン前に戻ったのはドロップアイテムを売る為だ。結構な数のドロップアイテムが手に入っている。


 ダンジョン前のギルド支部に行き受付にドロップアイテムの山を渡す。

 暫く待つと鑑定され料金が計算される。


「はい。こちら換金量の五万セラです」


 受付嬢はそう言うと一万セラ紙幣を五枚取り出し渡してくる。


「ありがとうございます」


 カレンはそう言って受け取る。


 カレンは受付から少し離れてレイたちの元へ行く。


「換金したら五万セラだった。四人で別ける?」


 カレンはそう提案する。それに待ったをかけたのはレイだ。


「待て。これからパーティとして活動するならばパーティ用の資金もいるだろう。宿屋代とかな。そういった用として一万セラ程は溜めておくべきだ」

「それもそうだな。まぁ俺たちとカレンとレイじゃランクが違うから暫くは俺たちの懐から出すよ。残りをわけても一万セラあるんだ。宿代には充分だ」

「そう? ならいいけど……はい、どうぞ」


 カレンはデヴォンとエルミナの二人に一万セラ紙幣を渡す。


「じゃあ今日はもう帰りましょ」

「そうだな、そうすっか」


 カレンたちは受付に行き転移の鏡ミラーオブゲートの使用料を払って使い、エルフェリアに帰還した。

 そのままギルドでデヴォンとエルミナと別れ、カレンとレイは雪華の館へと向かう。


「良い人たちだったね」

「ああ。悪意の類も持ってなさそうだ」


 あれならば娘を多少は任せてもいいだろう、とレイは思えた。




 ■


「あー緊張した。俺変な事言ってなかったかな」

「いつも通り振る舞えていましたよ」


 デヴォンとエルミナは帰る途中雑談を交わす。


「けどラッキーだったな。あんな高レベルの人とパーティ組めるなんてよ」

「えぇ。これであのダンジョンも攻略しやすくなります」


 かつてエルミナとデヴォンは別の者とパーティを組んでいた。

 だがエルミナのレベルの高さからパーティを脱退させられたのだ。

 レベルが高いというのは良い事ばかりではない。

 冒険者のパーティにおいては同格の者とパーティを組むべしという暗黙の了解のような者がある。

 これは格上と組んでも同士討ち、フレンドリーファイアや敵を高レベルの者ばかり倒してしまって自身の成長に繋がらない等の欠点があるからだ。

 エルミナのレベルは五十二。非常に高い。このエルフェリア最高峰と言ってもいいだろう。

 だからこそ、断られる事の方が多い。


(今新星の黒風もどうかと思ったが……杞憂だな)


 たった半日同じパーティとして戦っただけだが、デヴォンはカレンの強さを知った。

 戦闘技能もレベル以上に高いが、本質は其処じゃない。カレンのレベルの上がりやすさだ。

 見てわかるレベルでカレンは戦闘中にレベルアップをしていた。

 これならばカレンも直ぐにエルミナに追いつくだろう。あるいは追い越すかもしれない。


 だが問題はカレンの父レイだ。

 あれだけなんかレベルが桁違いに高すぎるし、人間にしては変な戦い方をしていた。

 なんだ、腕を触手にして敵にぶつけるって。人間の腕はあんなに伸びないししならない。


 そこだけ何かヤバい問題のような気がするが、乗りかかった舟なので杞憂だと思い過ごすしかなかった。


「ま、明日にはボスに挑めるように地図もっかい見ておくか」

「はい、そうしましょう」


 その後も二人は雑談を交わしながら帰路に着いた。

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