『加藤尽だ!ヨロシク!』〜ヤンキー漫画みてぇなオレたちの青春譚〜

ZEIN

プロローグ


 2015年10月25日 北海道恵庭えにわ

 

 北海道の夜風は、ひと足早く冬の匂いをまとい始めていた。


 モールを抜けて裏通りに入ると、遠くに赤と青のネオンサインが揺れている。


 店の名は——

 R66【ルート・シックスティシックス】

 通称【ロクロク】


 壁には色褪せた古いポスターやブリキの看板、ネオンクロックが飾られている。

 

 オールディーズが流れる「R66ロクロク」のカウンター右端には、少し疲れた様子の女がひとり腰を下ろしていた。

 


「ギムレットです。カクテル言葉は"遠い人を想う"——離れているからこそ、届く想いもきっとあります」


 


「離れているからこそ届く想い……ありがとうマスター。遠距離でもこの一杯で、なんだか頑張れそう」

 

 グラスのふちを指でなぞりながら、女はかすかに笑った。

 


「それは良かった」

 

 

 マスター 加藤かとう じんは、静かにグラスを磨きながら応じた。

 


「マスターはいつも落ち着いて話を聞いてくれるから、居心地がいいんだ。マスターは昔からこういう感じなんだろうなぁ」


 

「ありがとうございます。どうですかね……まぁ昔から、落ち着いていた方だったかもしれないですね」

 


 その言葉に、カウンターの左端で飲んでいた二人組の男が、互いに顔を見合わせて——



 「くっくっくっくっく……」

 「ぶっはっはっはっは!」


 突然笑い声をあげた。


 マスターは思わず、短く息を詰める。

 

 「くっ……!」

 


 「お嬢さん」

 

 男の一人が肩を揺らして言った。

 

「こいつはね、そんな上等なもんじゃないんだよ。くっくっく……」


 もう一人がグラスを掲げ、いたずらっぽく続ける。

 

「こいつの高校時代の話を聞かせてあげようか? そうだな……もう40年も前になるか? 」

 


「や、やめろ! バカッ! この、てめぇら〜〜〜!!!! 」

 


 普段の落ち着きを忘れ、カウンター越しに声を荒げるマスター。

 

 その瞬間——店内の空気はゆらぎ、ドア近くの色褪せた"古いポスター"が剥がれかけた。


 同時に、グラスの中の氷がゆっくりと時をさかのぼるように溶けていった。

 


 そして物語は、42年前。高2の秋へ——


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る