第7話 初戦闘
帰りの森の中は昼でも薄暗く、木々の間から差し込む光が斑模様を描いていた。鳥の鳴き声、風の音、そして時折聞こえる不気味な唸り声。壮真は慎重に足を進める。
「行きは何もなかったが、なんか空気が違うな……」
「うむ、生き物の気配がする。貴様、剣は持っているか?」
「ナイフならあるけど……戦う気はないぞ。俺はDIYとキャンプが趣味のサラリーマンだ。戦闘スキルなんてないからな」
その時だった。
――ガサッ!
茂みが揺れ、低く唸るような声が響いた。
「……来るぞ」
次の瞬間、茂みから飛び出してきたのは、全身灰色の毛に覆われた巨大な狼だった。目は血走り、口元からは涎が垂れている。牙は鋭く、まるで刃物のようだ。
「う、うわっ……!よりによって狼かよ!」
壮真は思わず後ずさった。
「よし、わたしがスキルで一撃で葬ってくれる!」
「いや待て!お前、また動けなくなるだろ!あれは威力とかは抑えれるのか?」
「いや!できん!放つか放たないかだ!」
「じゃあ放つな!!普通に戦うことはできないのか?」
「いつも、スキルをぶっぱなして終わりだ。」
「マジか!よく騎士になれたな・・・」
「あのスキルを放てばどんな敵も跡形もなくなるからな・・・」
「お前、それを俺に放ったのか!!!本当に死ぬところだったのか・・・」
狼は低く唸りながら、じりじりと距離を詰めてくる。
「サーヤ、剣貸せ!」
「なに!?貴様、戦えるのか?」
「昔、剣道部だったんだよ。竹刀とは違うけど、構えくらいは覚えてる」
「ふむ……ならば、託す!」
壮真はサーヤの剣を受け取り、深く息を吸った。足を開き、腰を落とし、剣を構える。
「面!胴!小手!って、相手は狼だよな・・・、てか本物の剣、重たい・・・」
狼が吠えた。次の瞬間、飛びかかってくる。
「来るぞ!」
壮真は横に跳び、剣を振るった。刃は狼の肩をかすめ、血が飛び散る。だが、致命傷には至らない。
「くそっ……重い!」
狼は怒り狂い、再び襲いかかる。壮真は剣を盾のように構え、牙を受け止める。腕に衝撃が走る。
「ぐっ……!」
「大丈夫か?!」
「大丈夫だ……まだいける!」
壮真は足を踏み込み、狼の脇腹に剣を突き立てた。狼が悲鳴を上げ、後退する。だが、まだ倒れない。
「これで……終わりだ!」
壮真は最後の力を振り絞り、素早く近づき剣を振り下ろした。刃は狼の脳天に突き刺さり、狼は地面に倒れ込んだ。
「……はぁ……はぁ……」
壮真は膝をつき、息を整える。サーヤが駆け寄ってくる。
「見事だ!一般兵と遜色ない動きだったぞ!」
「それは褒められてるのかどうなのか?ってか腕がプルプルする。もう何も持てない、動けない。」
「なあなあ、この狼とやらは旨いのか?」
「どっかで聞いたことあるけど、食べれるらしい。俺は食ったことはないけど。」
「持って帰らないのか?」
「俺は捌き方なんて知らないぞ。」
「多分私ができるぞ!こいつは私の世界にいたギャップルに似ているから。」
「おっそうか、ついでに俺もできるようになりたいから教えてくれないか?」
「いいぞ!まず血抜きをしないといけないからロープで後ろ足を縛って木に吊るす。」
「ロープはある、ちょうどいい高さの木もそこにある。よしここでやろう。」
壮真はちょうどいい高さの枝がある木を見つけロープで狼を吊るした。
「次にその真下に穴を掘り血や内臓などいらないものを捨てる場所を作る。」
壮真は折り畳みスコップを取り出し穴を掘った。
「なんだそのスコップは、ただの四角い板がスコップになった。少し使わせてくれ。」
「スコップはそっちにもあるんだな。いいぞ!ほら。」
壮真はサーヤにスコップを渡すとどんどん穴を掘り始めた。
「これはすごいな!小さいのにどんどん掘れる。わが騎士団でも作ってもらおう。」
「すごいだろ、これはしかも折りたたんで小さくなる。」
「うむ!遠征時の荷物はなるべく少ないほうがいいからな。これはいいものだ」
「穴が掘れたら次は血抜き作業だ。ここの喉元にナイフを入れると血が出るので、ほれやってみろ。」
「おっ!おおう。」
壮真は目の前に吊るされる灰色の毛並みの大きな獣を見ながら、眉をひそめた。体長は優に1メートルを超え、牙は鋭く、目を閉じていても威圧感がある。
言われた通りナイフを喉にあて切り裂いた。
「うぉ!!!・・・いや、俺、これ捌ける気がしないんだけど。」
「ふん、情けないやつだな。だが安心しろ、私が手取り足取り教えてやる。血抜きが終わればまずは腹を裂くのだ。」
「いきなりそこからかよ!」
サーヤは壮真の手にナイフを握らせると、自らは岩に背を預けて指示を出す。
しばらくして血抜きが終わり捌きに取り掛かる。
「まずは喉元から腹部にかけて、毛をかき分けて皮を切る。力を入れすぎるな、内臓を傷つけると臭くなる。」
「お、おう……」
壮真は恐る恐るナイフを狼の喉元に当て、慎重に刃を滑らせていく。毛皮の下の皮膚は意外と厚く、ナイフがなかなか通らない。
「もっと角度をつけて、刃の腹を使うのだ。そう、そうだ……うむ、悪くない。」
壮真は黙ってうなずき、ナイフを進めていく。やがて腹部まで切り開くと、内臓が露わになった。
「うっ……くせぇ……」
「それが命の匂いだ。さあ、次は内臓を取り出すぞ。内臓は・・・うむ!こちらの生き物の構造と変わらないな!まずは胃袋と腸を切り離せ。慎重にな、破るなよ。」
「わかった……って、これどこが胃でどこが腸なんだよ……」
「大きく膨らんでいるのが胃だ。そこから細長く続いているのが腸だ。」
壮真は言われた通りにナイフを入れ、慎重に切り離していく。手袋越しにも伝わるぬめりと温かさに、思わず顔をしかめた。
「……これ、慣れるもんなのか?」
「慣れる。最初は誰でも吐きそうになる。だが、慣れればどうということはない。」
「お前、ほんとに女騎士か?なんか猟師みたいなんだけど……」
「ふん、騎士たるもの、戦場では自らの食を確保せねばならぬ。狩りも捌きも基本だ。」
「なるほど……」
内臓を取り出し終えると、サーヤが次の指示を出す。
「次は皮を剥ぐぞ。首の付け根から切り込みを入れて、ナイフの刃をあてて削いでいく感じでやってみろ。」
「削いでいくって……うわ、けっこう力いるなこれ……」
「そうだ、だが焦るな。皮を破ると使い物にならなくなる。」
壮真は汗をかきながら、少しずつ皮を剥いでいく。やがて、灰色の毛皮が一枚の布のように広がった。
「おお……なんか、達成感あるな……」
「うむ、なかなかの出来だ。これで防寒具などが作れるぞ。」
「マジで?じゃあ、これでマントとか作れるのか?」
「作れる。が・・・裁縫道具などがない」
「さすがに俺も持ってはないな・・・、まあ部屋もあるしダウンとか着るものもあるから優先順位は低いかな。」
皮を剥ぎ終えた後は、肉の解体だ。サーヤの指示で、肩肉、腿肉、肋骨周りの肉を切り分けていく。
すべての作業が終わる頃には、壮真の手は血と脂でべたべたになっていた。だが、その顔には達成感が浮かんでいた。
「……やりきったな……」
「うむ、よくやった。これでおぬしも一人前の狩人だ。」
「いや、俺はただのサラリーマンなんだけどな……」
二人は笑い合いながら、肉を保存する準備に取りかかった。冷凍庫はあるのだがそこまで量が入るものではないので、干し肉にすることにした。
「これでしばらくは食料に困らないな。」
「ふん、次はおぬしが一人でやってみるのだ。」
「えっ、マジで……?」
「大丈夫だ、おぬしならできる。なにせ、私が教えたのだからな!」
「……プレッシャーがすごいんだけど……」
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