第2話「そして俺は…」
「でも、僕と君じゃ釣り合わないと思う」
ふ、ふ、ふ、振った…!?
陰キャの僕と久遠さんじゃ…ってことか?
ま、まあその思考はわからんでもない。
わからんでもないが貴様…!!
こんな凛としたかわいい子が精一杯の勇気を振り絞ったであろう告白に対して言うことがそれなのか?
まずお前に断るなんて選択肢があると思うか?
「ウヘ、ウヘヘ、よろしくお願い、シマッス」とか気持ち悪くヘラヘラしながらOK出せよ斎藤の分際で何振ってんだお前しばくぞ
「そ、そう…わかった」
久遠さんが悲しそうにしてる〜!!!
かわいそうすぎる〜!!!
今すぐに抱きしめてあげたい〜!!!
けど俺はそんな"どしたん?話聞こか?"ムーブは取りたくないし、そもそもできない…!
「ごめん。それじゃ…」
おい帰るのかよ〜!!!!
気まずすぎて逃げ出してんじゃねえよ〜!!
あ、やばい!
斎藤が教室を出た!こっちに来る!
とりあえず、上の階に避難だ!
斎藤が階段にやってきて、そのまま降りていった。
あれ?
よく考えたら、別に俺逃げなくて良くね?
なんで逃げちゃったんだろう…
いや、逃げて正解だった。
今は、アイツと冷静に話せる気がしない。
単純な嫉妬だ。
俺の好きな人の好きな人と、今は会いたくない。
それが例え友人だろうと、今だけは会いたくない。
この気持ちを一晩寝かせないと、
リセットした気持ちでアイツと話せない。
それはまずい。
俺は急用でとっくに帰ってる、と
アイツは思ってるんだから。
実は残ってて、告白を偶然聞いたなんて
知られるといろいろめんどくさい。
まあ、これ以上残る理由もない。
さっさと帰ろうと階段を降りていた時。
「…ぐすっ」
教室から、泣いてる声がした。
声の主は言うまでもない。
久遠さんが泣いている。
あの久遠さんが泣いている。
失恋したショックで泣いている。
久遠さんのことで、ひとつ分かったことがある。
俺は、久遠さんを"言いたいことをはっきりと言える俺よりも強い人"だと思っていた。
確かに言いたいことをはっきり言える。
だが、いつもじゃない。
時には、例えば好きな人と話す時や告白する時なんかは、
俺みたいに緊張してちゃんと話せなくなるし、
言いたいこともちゃんと伝えられなくなる。
辛いことがあったら、
悲しいことがあったら、
普通に泣いてしまう。
この人はちゃんと弱さも持ってる。
今回の出来事で、俺はそれを知った。
誰も知らない久遠さんの一面を知った気がして、俺は少し嬉しくなってしまった。
良くないことだ。
久遠さんは今も泣いている。
一体、どうするべきか。
好きな人が友人に告白した。
だが友人は好きな人を振った。
そして俺は…?
そして俺は…
そして俺は、教室へ向かった。
教室へ向かうと、久遠さんは驚いた様子でこちらを見ている。
「え、日向くん、なんで」
「ごめん、聞くつもりはなかったんだけど」
「…聞いてたの?」
「ごめん。トイレに籠って出てきて帰ろうとしたらさっきの会話が聞こえてきちゃって」
「…そこまで詳細に話さなくて、いい」
久遠さんが少し笑った気がした。
「…私、振られちゃった」
「…うん」
「"僕と君じゃ釣り合わない"って。
どういう意味なんだろう」
「…さあね」
「日向くんは、あの言葉の意味分かってる?」
「…まあ、そんなにネガティブな意味じゃないとは思う」
「…そう、なのかな」
「斎藤はそんなやつじゃないって、分かってるでしょ?」
「…うん、そうだね」
「とりあえず、その…涙を」
俺はカバンの中にあったハンカチを近くの机に置いた。
「え」
「あ、いらなかった?じゃあ…」
ハンカチを机から回収しようとしたら手を掴まれた。
「えっ」
「…いらないなんて、言ってない」
「あ、ああ、うん…どうぞ」
「…ごめん、ありがとう」
「全然」
久遠さんは俺が手渡したハンカチで涙を拭った。
「…これ、洗って返す」
「え?いや別にいいよ」
「…申し訳ない」
「いや、ホントに大丈夫。
俺が勝手に渡しただけだから」
「…」
久遠さんが無言の圧力を決めてくる。
これは…屈するしかない。
「じゃ、じゃあそれでお願いします」
「…ん」
久遠さんはハンカチをカバンにしまった。
そして、大きく息を吸って吐いた。
「…私、これからどうしたらいいのかな」
「それは…ごめん、わからない」
「…"僕と君じゃ釣り合わない"って
どういう意味なのかは分からないけど」
「うん」
「…今の私とは、付き合えないってことだろうし」
「いや、そんなことはないと思うけど」
「…?」
「別に、久遠さんがどうって話じゃないんじゃない?」
「…どういうこと?」
「アイツ、自分に自信がないんだよ。
だから、久遠さんと自分じゃ釣り合わないって言ったんじゃないかな?
にしても、もっと言い方があったと思うけど」
「…そんなこと、ないのに」
「アイツからすればそうなんだよ、きっと」
「…そっか」
「まあ、これは俺の想像だからあんまり当てにしないでね」
「…うん」
「ホントに気になるんだったら本人に聞いたらいいよ」
「…それが出来たら苦労しない」
「間違いない」
久遠さんと俺は二人で笑い合った。
他に誰もいない教室で、俺たち二人だけの教室で。
不思議な気持ちだった。
好きな人と話すのって緊張するはず。
これまで、中学の時とかに片思いしてた時も好きな子と話すのは緊張したはず。
久遠さんと話す時はあまり緊張しない。
もっと話したい、って思っちゃった。
いや、もっと話してもいいんじゃないか?
斎藤と久遠さんが付き合うなら…と思ったけど、
アイツは久遠さんのこと振ったし、俺が久遠さんにアタックしてみても…いいんじゃないか?
正直、できる気はしない。
でも、久遠さんとずっと話していたい。
その笑顔を俺にだけ向けて欲しい、
なんてワガママをあっという間に思い始めた。
「…日向くん、ありがとう」
何故か久遠さんにお礼を言われた。
ハンカチ以外でお礼を言われるようなことした覚えがないんだけど。
「えっと、何が?」
「…私のこと、励まそうとしてくれて」
「いや、別にそんな…」
「…日向くん、わかりやすい」
「なっ…」
「…ふふっ、面白い」
なんか、久遠さんに馬鹿にされてる気がする。
まあ、悪い気はしない。
俺にその笑顔を向けてくれるなら、いくらでも笑いものになれる。
「…それじゃ、私帰るね」
「ああ、俺も帰るよ」
俺と久遠さんは二人で教室を出た。
特に何か話す訳でもなく、
ただ無言で二人で歩いて。
特に何か話す訳でもなく、
ただ無言で階段を降りて。
特に何か話す訳でもなく、
ただ無言で靴を履き替えて。
特に何か話す訳でもなく、
ただ無言で昇降口を出て。
特に何か話す訳でもなく、
ただ無言で校門を出て。
でも、不思議と気まずくなかった。
久遠さんと話していると、一緒にいると
不思議な気持ちになる。
恋愛的なドキドキが無い訳でもないが、
それよりもどこか安心感がある。
また、久遠さんと話したい。
また、久遠さんと一緒にいたい。
「それじゃ、また明日」
俺は、自分の感情が声に出ていた。
明日も会いましょうって言ってしまった。
いや、まあ同じクラスだから会うけど。
そういう意味では無い。
「…ん、また明日ね」
久遠さんもそう言ってくれた。
なんか分からんけど、すごく嬉しかった。
俺は久遠さんと自宅が反対方向らしく、
そのまま左右に分かれて帰った。
今日はいろいろあった。
久遠さんと初めて話して。
久遠さんの好きな人が斎藤だと知って。
久遠さんが斎藤に告白して。
久遠さんが斎藤に振られて。
久遠さんが振られたショックで泣いちゃって。
そして俺は久遠さんにハンカチを渡した。
俺は、久遠さんともっと話したい。
また明日も、話せるといいな。
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