好きな子が友人に告白した。だが友人は好きな子を振った。そして俺は…

替玉 針硬

第1話「好きな子が友人に告白した」

俺の名は、日向 湊斗。

どこにでもいる普通の高校2年生だ。


今は、友人の斎藤 泰成に"ちょっと部活に顔出してくる。すぐ終わるから教室で待ってて"と言われ、教室で斎藤が戻ってくるのを待っている。


斎藤は1年の時からの友人。

こいつは文芸部に所属している大人しい奴で、教室でもよくラノベを読んでいる。


俺はそのラノベのアニメを見たことがあったので、ちょっと話しかけてみると俺たちはすぐに仲良くなった。


休日には斎藤に連れられてアニメ系のグッズを取り扱うお店に一緒に行ったりもしている。


そんな斎藤くん、なかなかに遅い。

すぐ終わるとはなんだったのか。


戻ってきたらしばこうかな。


暇だ。


よし、暇だし

ちょっと好きな子に思いを馳せるか。


突然だが、俺には片思いの相手がいる。

その名は久遠 葵といい。

俺と同じ学校に通う高校2年生の女の子だ。


一応、好きになった経緯を説明しておこう。


俺は久遠さんの"言いたいことはズバッと言う"姿勢に憧れている。


俺は言いたいことをハッキリ言ってしまったあとの気まずさなどを考えてしまい、つい自分の意見を押し殺してしまいがちだ。


それは恋愛面に対しても言える。

"自分が好きだ、と伝えることでこの関係が壊れてしまう、無くなってしまうんじゃないか"などと考えるととてもじゃないが告白なんてできない。


そんな俺に対して、久遠さんは違う。

言いたいことをハッキリと言う。


どんな感じでハッキリ言うのか、

イメージがつかないと思うのでちょっと実例を出してみる。


ある日、久遠さんは廊下で久遠さんのいた2組の女子と思わしき人達と会話をしていたことがあったんだが、久遠さんの話し相手の女子が他の人の陰口を言っていた。


そして、その女子は陰口の後にこう言った。


「久遠さんもそう思うよね?」


そう、同意を求めてきたのだ。

これ、俺だったらそう思ってないとしても「そ、そうかもね…」と適当に合わせていた可能性が非常に高い。

だが、久遠さんは違う。


「私は別にそうは思わない。それにこういう陰口は好きじゃない」


ハッキリとNOを突きつけていた。

かっこいい。

俺には真似できないことだ。

そんな感じで、久遠さんは俺が苦手としている"NOを突きつけること"を簡単にできてしまう。

そこに憧れてしまい、それ以来久遠さんのことが気になってしまっていた。


気にはなっているが、俺は恋愛経験が豊富な方ではなく、女子に気軽に話しかけるなんてスキルは持ち合わせておらず、

久遠さんとはほとんど喋ったこともなくそのまま1年生が終わったが、2年生になって、

俺と久遠さんは同じクラスになった。


まあ、同じクラスになったからと言って気軽に話しかけられるわけではないんだけども。


なんて思っていたら。

誰かが教室に向かって歩いてくる音がした。


そうか、斎藤のやつようやく用事を済ませたのか。

全く、時間かかりすぎなんだよな…


「遅いんですけど〜って…あれ?」

「…日向くん、だよね」


久遠さんが教室にやってきた。


噂をすればなんとやら…?

というか、放課後に何しに来たんだろう。


久遠さんと目が合った。

向こうも"こいつ放課後に何してんだ?"みたいな目をしている。


「…何してるの?」

「あ、友達が戻ってくるの待ってて」

「…そう」

「そっちは?」

「…忘れ物」

「そ、そっか」


…気まずい。

久遠さんともっと話したいけど、話題が思い浮かばない。

久遠さんって、何が好きなんだろう…


「友達って、もしかして斎藤くん?」

「え?ああ、そうだよ」

「日向くんって、斎藤くんと仲良いよね?」

「ああ、まあね」

「私、実はその…」

あ。

これ、斎藤のこと好きなパターンか?


「もしかして、斎藤を…?」

久遠さんは静かに頷いた。

これで、確定!!

うわー、ショックだ。

好きな人の好きな人が友人だった。

これは結構心に来るなあ…


「その…なんで斎藤?アイツ、クラスでも目立つほうじゃないじゃん」

気づけば、俺は久遠さんに"なぜ斎藤なのか"と聞いてしまっていた。

どうして俺じゃないの?という気持ちがなかったと言えば嘘になる。


「えっと、それは…」

久遠さんは、なぜ斎藤を好きになったのかを教えてくれた。


斎藤は、教室でひっそりラノベ読んでるタイプの男子だけど、他人に対して思いやりが深い人間だ。


困っている人がいる場所で自分しかいない時、その人に助けようとする。

そういうやつだ。


久遠さんに対してもそうだったらしく、

ある日、生徒から提出物を集めて、職員室まで届けて欲しいとお願いされた久遠さんはクラスの生徒約30人分のノートを1人で運ぶことになったのだが、

それを見かねた斎藤はノートを半分持つと言い、職員室までノートを一緒に持って行って、

両手がふさがってる久遠さんの代わりに職員室のドアを開けて教師を呼び出し、

提出物を渡したらしい。


その後、なにかお礼をしようとした久遠さんだったが、斎藤は例は不要だと言い、そのまま教室へ戻って行ったと言う。


その出来事を機に、久遠さんは斎藤のことが気になるようになり、気づけば好きになっていたらしい。


悔しいが、久遠さんが斎藤を気になり出すのも無理は無いなと思った。

そんなカッコイイことナチュラルにできる辺り、斎藤はああ見えて実はかっこいいやつなんだよなと思う。


「それで、要件は…?」

「…斎藤くんと二人になる場を用意して貰えたら、と思って」

「え?そんなの教室で"放課後時間ある?"とか言って話しかけたらいいんじゃ」

「緊張して…話しかけられなくて」

意外だった。

言いたいことをハッキリと言える久遠さんでも好きな人相手には緊張して上手く話せなくなってしまう、ということが。


その相手が俺じゃないのは悔しいが。


「だったら、もうちょっとここで待ってたらいいよ」

「…斎藤くん、戻ってくるって言ってたね」

「うん。俺は先に帰ってるからさ、斎藤に急用ができたから帰ったって伝えといて貰える?」

「…うん、わかった」

わざわざ斎藤に"久遠さんがお前と話があるらしいぞ"というのもなんか癪だし、

ちょうどいい機会だったので俺はこの場から退散することにした。


荷物をまとめて、教室から出た瞬間。

緊張したからか、催してしまった。


トイレ行ってから帰ろう…



「ふう」

用を済ませてトイレから出て、階段を降りようとしたら近くの教室から声が聞こえてきた。


「お待たせ…あ、あれ久遠さん?」

斎藤の声だ。

部活の用事済ませて戻ってきたんだな。


「あ、斎藤くん」

「あの、日向どこに行ったか知らないかな」

「日向くんなら、急用があるから先に帰るって言ってた」

「え、そうなの?わかった、ありがとう」

「…あの」

「…えっと、何か?」

この会話、ずっと聞いてていいんだろうか。

さっさと帰った方がいいんだろうか。


でも、気になる。

階段付近でも会話が聞こえてくるから、

どうしても聞きたくなってしまう。


別に、聞くだけならいいだろう。

誰かに言いふらしたりとかしないから…


ちょっと、盗み聞きして行くことにした。


「あの、斎藤くんに、伝えたいことが」

「え、えっと…何かな?」

なにが"何かな?"だよ!スカしてんのか!

なんとなく雰囲気で分かるだろうがよ!!


「私、実は…斎藤くんのことが、好きなの。

もし良かったら私と、その…」

「…」

なんか言えよお前!!!!!

乙女の一大決心だぞ!!!!


「私と、付き合ってくれませんか?」

言われてぇ〜!!

俺も久遠さんにこんなこと言われてぇ〜!!

斎藤が羨ましいしィ〜!!

羨ましすぎて友達やめたいな〜!!!


「あ、ありがとう…でも」

でも?

おい、今「でも」って言ったか?

お、お前まさか…嘘だよな?


「でも、僕と君じゃ釣り合わないと思う」

ふ、ふ、ふ、振った…!?

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