第1話

「総員傾注!」

 

血みどろの開戦から5年後。空の彼方、母なる地球から離れた土星の小惑星基地であるル・ナビスに緊張が走る


「同志よ!志同じく集いし猛者達よ!今こそ我らディアズ帝国の力を示し、侵略国であるヤードルナ連邦に正義の鉄鎚を降す時である!」


ル・ナビスの兵士たちは真剣な眼差しで演説をするダスティン・アタライ少佐を見つめ、または武者震いなどをし、戦の時を今か今かと待ち望んでいる。

その様子を画面越しに見つめる、明らかに目が死んだ青年がいた。名をラルフ・シグムントと言う。ラルフは同僚であるフリードリヒ・ヴァイセンベルクに小声で話しかけた。


「見ろよ、少佐殿はまた新兵達を地獄に案内するつもりだ」


「黙ってろラルフ、お前のせいで怒られるはもうこりごりだ。それに、今回ばかりは違うだろう?いつもは新兵だらけだが、今回は部隊が出動するんだからさ」


「そりゃお前、相手さんだって同じことだろうに。」


などと話していると、


「おい貴様ら!なにを喋っていやがる!大隊長傾注すらできんのか!またボロ雑巾のようにされたいか!!」


とかつての教官が後ろの艦長席から怒号を飛ばす。


「申し訳ありません!ラルフ准尉より話しかけられ、応じてしまったであります!」


とフリードリヒが上官に謝罪した。


「フリードリヒ!お、おま…」


「ラルフ…貴様か…!」


こちらを睨む。今にも掴みかかって来てしまいそうな眼力である。


「申し訳ありませんでした!」


「謝罪はいらん!態度と行動で示せバカタレ共が!」


「「はっ!」」


ラルフは意識を画面に戻した。

少佐の演説はまだ終わりそうにない。


「我が国が侵略されてから5年、我々は遂に戦争を終わらせるべく、この部隊をここル・ナビスに集めた。もはや恐れる事はない!今ここに宣言する!本作戦で敵主力を殲滅し、この戦争に勝利する!」


演説が終わり、歓声に包まれる画面を見ながら、ラルフは呟いた。


「ま、精々死なないように頑張りますか…」

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