第2話 諦めた初恋

(ライナス様は、私がライナス様に恋していると勘違いなさっているのかしら。まだ二回しかお会いしていないのに……)


 ライナス様の口ぶりからは。

 私がライナス様を好いていることが前提になっている気がします。


 ライナス様はすらりとした長身で、銀髪碧眼、美貌の令息でいらっしゃいます。

 とても優れた容姿をお持ちのお方ですから、ライナス様にぼうっとなる女性は多いのかもしれません。


 銀髪碧眼も、お顔立ちも、ご両親から受け継いだ生まれつきのもので、ライナス様の努力や実績とは別物ですが。

 ライナス様の魅力の一つには変わりありません。


 ですが世の中の全ての女性がライナス様を望むわけではありません。


 とはいえ「ライナス様のことなど何とも思っていません」と本当のことを言うわけには行きません。

 ライナス様に失礼です。

 ましてや、これから結婚する相手に言うことではありません。


(私が、どれほどの思いでこの結婚を承諾したのかを、ライナス様は全くご存知ないのね……)


 私には初恋の幼馴染アーサーがいました。

 お互いに年頃になったのでそろそろ結婚しては、と、アーサーとの縁談が持ち上がっていました。


 ですが今年、我がスタンリー伯爵家は、大雨による水害で領地が大打撃を受け経済的な窮地に陥ってしまったのです。

 アーサーとの縁談を進められる状態ではなくなりました。


 そんなとき、クレイトン侯爵家から資金援助の申し出があったのです。

 私への結婚の申し込みとともに。

 私がクレイトン侯爵令息ライナス様と結婚するなら、クレイトン侯爵家はスタンリー伯爵家に莫大な援助をしてくださるというお話でした。

 我がスタンリー伯爵家はそのお話を、感謝とともに喜んでお受けしました。


 初恋のアーサーに心残りがないわけではありません……。

 でも貴族の娘なら、家のために親が決めた相手と結婚するのは当たり前のことです。


 初恋の人と結婚できることが幸運すぎる夢のような話なのです。

 初恋など叶わずに親の決めた相手と結婚するのが普通なのです。


 私は、初恋は子供の夢だったのだと、身を切る思いで割り切り、大人になる決心をしました。


 ライナス様と結婚するからには、妻として、これからは夫となるライナス様に尽くそうと決心していたのです。


 それが……。


「二年間、お飾りの妻として役目を果たしてもらう」


 ライナス様は、まるで敵を見るような冷たい目をして、私にそう言いました。


 そしてさらに酷いことをおっしゃいました。


「寂しいなら、愛人を持ってもかまわん」


「は……?」

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