第11話 渦
痛いお腹を気にしながらも、空は雲ひとつなく、あまりにも平和な青だった。
校門をくぐると、私は無言で靴を履き替え、昇降口を抜けて教室へと向かった。
廊下は、いつも通りザワザワとしていて、色々な気持ちが入り混じるっている。
教室の扉を開け、静かに自分の席へ歩いていく。椅子に腰を下ろした瞬間、ふわりと背後から腕が巻きついた。
「みーうーちゃん! おはよう!」
声と同時に、耳元に柔らかな吐息がかかる。
私は反射的にくすぐったいと肩をすくめながら、声の方に振り返った。
「陸斗.....おはよう」
彼は小島陸斗。
その見た目は、どこにでもいる明るいムードメーカー的な存在な男子高校生。
でもその正体は、小笠原組の構成員の一人。
学校では私の“彼氏のふり”をしながら、ボディーガードとして私を守っている。
「昨日、学校で待ってたのに美優ちゃん来なくてさ。心配したよ?(.....美優さん、今日も可愛いな)」
「ごめんね。気分が乗らなくて、サボっちゃった」
「そっか~。.....じゃあさ、今度サボる時は俺も一緒にサボるからちゃんと教えて?(親父に怒られるし)」
そう言って、陸斗は私の頬に軽くキスをした。
その一瞬だけクラスの注目が集まればまた背後から声をかけられる。
「いや~、朝からラブラブですな~(朝からお熱い事で)」
茶化すような声が飛んできて、私は顔を上げる。
「美紀.....おはよう」
「おはよう、美優。陸斗くんも」
美紀は、私の唯一の親友。
裏表のない性格で、組のことも全て知っている。私は彼女に心を許していた。
「昨日はどうしたの? 顔色悪いよ?(なにかに巻き込まれたとか)」
「朝から体調が悪くて.....それでサボったの」
「無理しちゃダメだよ? ホントに(本当かな?)」
「うん.....ありがとう」
私は今朝から、自分の“能力”をあまり使わないようにとずっと思っていた。
心を読まない。気持ちを拾わない。
誰の感情にも触れぬよう、強く、強く意識する。
最後の授業までは順調だった。
このまま、何事もなく終わってほしい。
そう、思っていた。
.....でも、現実はそう甘くなかった。
何かに気を取られていたのか気持ちが揺らいだ時だった。
耳ではなく、頭の奥に吸い込まれりように響く“声”たち。
クラスメイトの心の声が、一斉に私に流れ込んできたのだ。
(退屈……)
(あの子、最近調子乗ってるよね)
(なにあの目つき……)
(近寄りたくない)
(また休んでたくせに)
(気持ち悪い)
やめて。
聞きたくない。
やめて。
知りたくない。
やめて。
止まって!!!!!!!
そう思っても止まらない。
私が未熟だから。
胸が苦しい。気持ちが悪い。吐き気がする。
しまいには視界がぐらつき傾いた。
机が遠ざかっていく。
そのまま私は椅子から崩れ落ちるとそのまま床に倒れて気を失った。
クラスメイトたちの驚いた声が、
遠くで聞こえた気がした。
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