第7話 クリストフの末路
アンネマリーはクリストフとの婚約を解消することにした。
ライナー伯爵からは婚約の継続を頼み込まれ、多額の慰謝料も提示されたが、アンネマリーはそれらを却下した。
(クリストフとはもう関わり合いになりたくない。あの人、嘘吐きだもの)
ライナー伯爵家がアンネマリーとの婚約継続を望んだのは、もちろんベルクヴァイン侯爵家と縁をつなげたいということもあるだろうが、それ以上に、醜聞に悩んでいたからだ。
――ライナー伯爵家のご子息のお話、お聞きになりました?
――ええ、ええ、恐ろしいお話ですわね。
――侯爵家の乗っ取りを企てるなんて、ねぇ……。
ライナー伯爵家の三男クリストフは、ベルクヴァイン侯爵家乗っ取り事件の容疑者の一人として身柄を拘束され、取り調べを受けた。
クリストフはアンネマリーの婚約者でありながら、罪人イルザと恋仲になっていたからだ。
だがクリストフは平民ではなくライナー伯爵家の三男だったことと、アンネマリーに婚約破棄をしたいと発言したのみで、実際には婚約は継続されたままだったので釈放された。
しかしクリストフがアンネマリーの婚約者でありながら、罪人イルザと恋仲になり、イルザと一緒にアンネマリーを虐げたことが社交界で噂になった。
この噂を流したのは、大叔父アベール・アルトナーの家族たちを始めとするアンネマリーの親族たちだ。
――平民の娘の言いなりになって、侯爵令嬢を虐待するなんて……。
――ライナー伯爵家はどういう教育をしていたのかしら。
――身分について教えていなかったのかしら?
――ライナー伯爵令息は、平民娘に骨抜きにされていたそうよ。
――あらあら……。
――その平民女性はそれほど魅力的だったのか?
――いや、十五、六の小娘らしい。
――ライナー伯爵の小倅は、初めて女性を知って溺れたのだろう。
――平民など愛人にすれば良いものを。
――ライナー伯爵家は息子に教育をしていなかったのか?
平民娘に溺れ、平民の言いなりになっていたというクリストフの不名誉な噂により、ライナー伯爵家は教育方針を疑われ立場が危うくなっていた。
ここでアンネマリーと婚約解消をしようものなら、クリストフが罪人イルザと恋仲になっていた噂を肯定することになる。
すなわち、クリストフは貴族を害した平民の側についていたという噂が肯定されてしまう。
それはすべての貴族を敵に回すような醜聞だった。
「ベルクヴァイン女侯爵、どうか……」
ライナー伯爵は、ベルクヴァイン女侯爵アンネマリーに婚約破棄をどうにか思いとどまらせようとしたが。
アンネマリーの心は変わらなかった。
「婚約解消の話し合いに応じていただけないのであれば、こちらから破棄します。理はこちらにあります」
そしてアンネマリーは一方的に婚約破棄した。
クリストフの実家ライナー伯爵家は、アンネマリーの父の実家ブラント伯爵家とともに社交界で爪はじきにされることになった。
◆
「父から手紙が? 私に?」
アンネマリーの父トビアス・ベルクヴァインから、アンネマリー宛てに手紙が届いた。
アンネマリーのことをずっと無視していて、見て見ぬふりをしていた父から。
手紙どころか、母が亡くなって以来ろくに会話もしたことがなかった父から。
「ええ、まあ、相手にする必要はないと思うけれど」
叔母ルドヴィカは皮肉っぽく微笑んだ。
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