第9話 静馬の返答

 帝都・黒江堂の夜。 静馬は、椿子から届いた手紙を何度も読み返していた。 その文字は、整っていて、静かで、そして揺らいでいた。 語ることの責任を知った者の筆跡だった。


 彼は、仮面棚の奥から一枚の便箋を取り出す。 それは、澄子から託された紙と同じ質のもの。 沈黙の中で語るために、選ばれた紙だった。


 静馬は、筆をとり、ゆっくりと書き始める。


「椿子様へ

 あなたの手紙、確かに受け取りました。

 語ることを選ばれたあなたの言葉は、 私の沈黙よりも、ずっと遠くまで届くでしょう。

 私は、語らないことで誰かを守ろうとしました。

 それが正しかったかどうかは、今でも分かりません。

 ですが、あなたが“理解するために語る”と書いてくださったこと―― それは、私の沈黙に初めて“意味”を与えてくれました。

 ありがとうございます。

 私は、これからも語らないかもしれません。

 ですが、あなたの語る声に、耳を傾け続けます」


 静馬は、手紙を封筒に入れ、白面の印を小さく添えた。 それは、沈黙の中で交わされた“理解の証”だった。


 彼は、封筒を藤村に託す。


「椿子様に。 声はなくとも、届くはずです」

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