力が欲しいか?――魔王とゴリマッチョ女のラブコメ同棲記
茶電子素
最終話
「力が欲しいか?」
絶望に打ちひしがれていた私を前に、
そう言ってのけたのは、筋肉の塊みたいな魔王だった。
肩幅はドア二枚分、腕は丸太、声は地鳴り。
正直、怖いというより
“大手トレーニングジム魔界支店の名トレーナー?”って感じだった。
「欲しいです!」
反射的に答えた。
だって、魔王に聞かれて「いりません」なんて言ったら
即プロテインシェイクにされちゃいそうだし。
次の瞬間、光が爆ぜた。
――そして、世界は反転した。
魔王はゴリマッチョを失い、イケメン細マッチョに。
まるで少女漫画の王子様みたいな輪郭に、爽やかな笑顔。
一方の私は……鏡を見て絶句した。
肩幅は壁二枚分、腕は屋久杉、顔は「惜しい!」って感じのブサイク寄り。
つまり、ゴリマッチョ女爆誕。
「……え…」
「……あ…」
互いに見つめ合った瞬間、心臓がドンッと鳴った!
なんだこれ、ラブコメか?いや、ラブコメだろ完全に。
魔王――いや、今やイケメン細マッチョは頬を赤らめて言った。
「君、最高にタイプだ……!」
私も思わず叫んだ。
「え、私も!そっちの細マッチョ顔、ドストライク!」
気づけば、二人で抱き合っていた。
ゴリ筋肉と細筋肉がぶつかり合い、バキバキ音が鳴る。
勝負的には圧倒的に私が優勢。
まるで岩盤浴の岩同士がハグしてるみたいなド迫力。
だけど心は柔らかく、甘く溶けていったの……。
――こうして始まった、魔王と私の同棲生活。
最初の一週間はカオスだった。
私がドアを開けると蝶番が吹っ飛び、
魔王が料理すると、
包丁を持つ手が繊細すぎてトマトが芸術的な薄切りになった。
二人で散歩すれば「美女と野獣……いや逆か?」とざわめきが広がる。
でも、そんなことどうでもよかった。
だって毎日が楽しい。
筋肉でベッドが軋み、笑い声で天井が震える。
魔界の覇者と人間の私が、ただのバカップルになっていた。
ある夜、魔王が真剣な顔で言った。
「俺は力を失った。でも……君といると、別の力が湧いてくるんだ」
私は笑って答えた。
「私も。ゴリマッチョになったけど、あなたに愛されてるって思うと、世界最強になった気がする」
沈黙。次の瞬間、二人で爆笑した。
「何そのポエム!」
「いや、言った本人も恥ずかしいから!」
結局、笑いながら抱き合って眠った。
筋肉の重みで布団が潰れ、翌朝はペラッペラになっていたけど、それもまた愛の証。
――こうして私は悟った。
「力が欲しいか?」
なんて問いは、ただのきっかけにすぎない。
本当に欲しかったのは、筋肉でも美貌でもなく、隣で笑ってくれる人だったんだ。
だから今も、魔王と私はイチャイチャ暮らしている。
ゴリマッチョ女と細マッチョ王子。
見た目はアンバランス、ただのコメディ。でも心は完璧!
そして今日もまた、魔王は私に囁く。
「力が欲しいか?」
「うん、あなたの愛の力がね!」
力が欲しいか?――魔王とゴリマッチョ女のラブコメ同棲記 茶電子素 @unitarte
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