社交界はパラダイス
リラックス夢土
第1話
「フフフ~ン」
俺は鼻歌を歌いながら今夜の王太子主催のパーティーに行く準備を整える。
自分の瞳と合わせた上質な緑色の鮮やかなベストを身に着け鏡の前で自分の立ち姿を確認した。
金髪で明るい緑の瞳の俺は少し派手な服ぐらいの方が似合う。
それに社交界のパーティー参加者は多いからある程度は目立たないと俺の目的にはそぐわない。
まあ、地味な姿をしていても俺は有名人だから目立つには目立つのだが。
鏡に映る俺の姿は自他ともに認める「社交界の貴公子」だ。
それは姿だけではない。
社交界というのはどこの国でも男は権力争いでより良い権力者と繋がりたいと情報集めとコネ作りに奔走し、女はより良い条件の男と結婚したいと相手を探す場所だ。
だが結婚している女たちも一晩の相手を物色しているのが社交界。
このラウデルン王国の社交界も同じだ。
ラウデルン王国は大陸でも屈指の大国であり経済的にも軍事的にも他国を圧倒している。
しかし今の国王はどちらかというと穏健派。
他国侵略はあまり考えていない。
そうなると貴族や裕福な平民たちは国内で権力を握ろうと躍起になる。
この国で権力を握れば他国にも大きな影響を与える存在になりえるからだ。
そんなラウデルン王国での俺の立場はというと。
王太子であるアドルフの乳兄弟でありアドルフとは親友。そして姉は国内の有力貴族の公爵家に嫁ぎ、俺自身もバールデン伯爵位を持つ伯爵。
先祖代々の資産も潤沢にあるが俺は仕事もちゃんとしている。
俺の仕事は宰相補佐官。官僚の中では宰相に次ぐ地位だ。将来は宰相になると約束されているようなもの。
もちろんそれはコネや立場だけで決まったわけではない。
俺自身の能力も高く評価された結果だ。
そして現在24歳で独身の俺を社交界の女たちが放っておくわけがない。
独身の令嬢も結婚している女も俺に熱い視線を送ってくる。
だけど俺は結婚はお断り。だから俺が狙うのは既婚者の女たちさ。
権力闘争が渦巻く社交界も俺にとっては一晩の相手を見つけるパラダイスでしかない。
最後に上着を着て俺の準備は終わる。
さて今夜の恋のお相手は誰になるかな。
自宅の伯爵邸から馬車に乗り俺は王城を目指す。
今夜の王太子主催のパーティーは王城の宮殿の一つで行われる。
馬車は静かに俺を今夜のパラダイス会場へと連れて行ってくれた。
王城に到着して馬車を降りた俺は案内の者にそっと耳打ちをされた。
「エミリオ・バールデン伯爵様。アドルフ王太子殿下が控室でお待ちになっています」
「アドルフ王太子殿下が? 分かった控室に向かう」
広い王城の複雑怪奇な廊下も俺には庭のようなもの。
アドルフとは乳兄弟で幼馴染の俺は毎日のようにアドルフと王城を探検ごっこをしていたからな。
俺は案内人無しでアドルフの待つ控室の前まで来た。
さすがに扉の前には護衛の兵士がいる。
だが護衛の兵士も俺を止めることはない。
扉をノックすると中から入室許可の声が聞こえる。
扉を開き俺は中に入る。
そこにいたのはこの国の王太子にして俺と同じく24歳の独身の男。
金髪で瞳の色も俺と同じ明るい緑。
俺も美形で名高いがアドルフだって美形の王太子として国内貴族や周辺国には知られている。
当然俺よりも結婚話が多いアドルフだが今のところは婚約者もいない。
アドルフも一人の女にまだ縛られたくないといつもぼやいている男だ。
部屋にはアドルフと俺しかいないのを確認して俺は気楽な言葉でアドルフに声をかけた。
「今夜の主催者にはパーティー会場で挨拶しようと思ったのに何か急用か? アドルフ」
「別に急用ではないさ、エミリオ。またお前と賭けでもしようかと思ってな」
「やれやれまたか。今度はどこの奥様に賭けるんだい?」
アドルフは俺が既婚者の女たちを堕とせるかどうか時々賭けをする。
無作為に選んだアドルフの指名した奥様を俺が口説き堕とせてヤレたら俺の勝ち。
できなかったらアドルフの勝ちだ。
「今回はゼービック侯爵の姪にあたるミランダ夫人だ。現在はロゼント子爵と結婚したからミランダ子爵夫人だな」
「ゼービック侯爵の縁戚か。あの家系は結構美人が多いんだよな。その賭け乗った!」
俺の頭にはこの国の貴族や裕福な平民などの関係図や家系図が叩き込まれている。
伊達に宰相補佐官なんてやってないさ。
「では勝者にはいつものごとく100セランでいいな。エミリオ」
100セランはこの国の4人家族の平民が約一週間生活できる程度の金額だ。
「かまわんさ。俺の無敗の連勝記録を更新してやるさ、アドルフ。ではまた会場で」
アドルフのいる控室を出て俺は再び普通の貴族が出入りする入り口からパーティー会場に入る。
さて、ミランダ子爵夫人を探すか。
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