第2話

 類は友を呼ぶという。これは真理だろう。

 真面目な奴らは真面目な奴らとつるむし、騒ぐのが好きな奴らも同様にそうだ。

 そうなると、俺のような偶然を求める者、面白い(変わった)美少女を求める者はそれ相応の振る舞いをしなければならない。


「その考えで行うのが便所飯、ってわけ?」


 昼休み、俺は今男子トイレの個室内で昼飯を食べている。というのも、変わった美少女、アニメやライトノベルに出てくる女性というのは、その性格故に孤独であることが多い。であるならば、それと似た行動をすることで彼女たちと惹かれあう可能性を高めるのは極めて合理的と言えるだろう!


「だとしても便所飯はないでしょ。普通に不潔」


 もちろん俺だって好き好んでトイレを選択したわけじゃない。本当なら屋上で飯を食いたかったが、我が校の屋上は面積のほとんどがプールだから風情がないし、まず鍵がかかっていて侵入は不可能だ。中庭なんかは人が多いし、一人で食事をしている生徒も多いから特別感がない。


「それなら変わった美少女も中庭か教室で食べてるでしょ。それに、あなた便所飯するような人が好きなの?そんな人を求めているの?」


 ……確かにそれはそうだ。というかそもそも、変わった美少女といえども便所で飯を食ってる男と仲良くなりたいと思うわけない。

 熱意が先行して、冷静さを失っていたらしい。

 というか、弁当箱を持ってトイレから出るところを誰かに見られたら普通にドン引きされる。

 その噂が広がりクラスメイトから敬遠されれば、同じく孤独な美少女と縁が生まれるかもしれないが、その起点が便所飯となれば話は別だ。


「とりあえず、授業が始まるギリギリくらいにここを出た方が良いわね。まだこの時間だと廊下で反している生徒も多いし……」


 自分がした過ちに気づき、急いで残りを平らげた。

 歩き回っている生徒が多い時間にここを出ると、手に持った弁当箱で便所飯をしたとバレかねない。


 息を潜めていて、十分ほど経った。スマホで時間を見ると、授業開始二分前だ。

 俺は素早く個室を出て手を洗い廊下を覗き見る。左右どちらにも人影はない。

 よし、今ならいける!

 そう思って廊下に飛び出た瞬間、隣の女子トイレから生徒が表れた。


「あっ」

「えっ」


 そこから出てきたのは茶髪でショートカットの女。身長は俺より十五センチほど低い。突然のことに驚き目を見開いて、気の強そうな顔を歪めている。

 見られてしまった。いや、見てもらえた、が正しいのか。

 そして俺は同時に、と思った。

 彼女は片手に巾着袋を持ち、もう一つの手では水筒を持っている。

 それは明らかに、彼女が便所飯仲間であることを示していた。

 とにかく何か弁明というか、言葉を発さないと!


「あ、え、へへへ」


 まずい、長いこと妄想以外の女子と話してなかったから、変な笑みしか浮かばなかった!

 みるみるうちに彼女の顔は赤くなり、屈辱故か顔を引きつらせた。


「死ね!!!」


 そう叫ぶと、走って自分の教室へ入っていった。俺の隣のクラスだった。



 放課後のホームルームが終わった途端、俺は隣の教室に急いだ。もちろん、あの女子と話すためだ。


「さっき思い切り罵倒されてたけど、会話してくれるかしら。既に好感度マイナスっぽいけど」


 いや、むしろそれで良いんだ!往々にして主人公とヒロインは、始まりにおいては対立しているものなんだ。

 俺はあの時、偶然のあまりの唐突さ、生々しさにたじろいでしまった。偶然を待望し、覚悟を決めてきたこの俺ですら、強烈な閃光、瞬間の煌めきに圧倒されてしまった!だが、それこそが偶然!それこそが、運命の到来なんだ!

 そして今、岐路に立たされている。この舞い降りたチャンスをつかみ、物語を開始できるのかどうかという分かれ道に。冷静に、されど熱を持って挑まなければ!


「演説中悪いけど、彼女楽しそうにお友達と喋ってるわよ。どうするの?」


 便所飯女子は教室に残って、陽キャそうな女子二人と話している。様子を見るに、いじめられている感じもなく、心から笑いあっているように見える。


「トイレで食事するなんて、よっぽどのぼっちか嫌われ者だと思ったのだけれど、そういうことじゃなさそうね」


 そうなると、彼女には別の理由があったのだ。それも、人に知られたくないような何か。


「ちょっと、あの子教室出てくるわ。今顔を合わせても仕方ないんだから、隠れなさい!」


 一旦自分の教室に戻り息を潜める。別の友人を待っていたのか、友人グループに一人増えて四人になった彼女たちは、昇降口方向の階段に向かっていった。


「で、どうするの」


 もちろん、追いかける。彼女が一人になったタイミングで便所飯の理由を尋ねる。


「犯罪者スレスレの行動だし、バレたら本当に嫌われて終わり。最悪ストーカー扱いで二度と近づけなくなるかも」


 リスクは理解している。しかしこんな幸運はそうそう訪れない。強引でもいいから行動を起こすんだ。


 俺はスクールバックを担ぎなおすと、見失わぬように尾行を開始した。

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