第38話 「わたし、シンイチと、深く愛し合いたいの」

 それは知り合って一カ月後の、週末の夜のことだった。二人はマンハッタンを一望できる瀟洒なホテルの展望レストランでフレンチを賞味して心愉しいディナーの時を持った。

エレベーターに同乗した人やレストランへの通路で行き交う誰もが皆、ブロンドの髪を揺らして颯爽と闊歩するキャサリンの姿に見惚れて振り返った。そんな彼女に腕を組まれて並んで歩く慎一も少なからず得意げであった。彼の心には若い男の一人として、魅惑的なキャサリンへの熱い思いが芽生えていた。

芳醇なワインを飲み、オマール海老のローストや牛フィレのグリエ、野生青首鴨等のコース料理を賞味し、新鮮な魚介類と瑞々しい野菜のハーモニーを二人は愉しんだ。

「わたし、シンイチと、もっと深く愛し合いたいの」

彼女はそう言って、その夜、彼を実家の別荘に誘った。

 

 マンハッタンから車で二時間も走ると、ニューヨーク郊外のロングアイランドにあるハンプトンに着いた。日本の軽井沢や葉山を思わせる高級避暑地で多くの富豪の別荘が連なっていた。慎一は夜の車窓から眺めるだけでそのスケールの大きさに圧倒された。

キャサリンが流れる風景を見ながら彼に説明した。

「此処は“東のハリウッド”と呼ばれているの。ニューヨークは今、バケーション・シーズンの真っ盛りで、週末ごとにリゾートへ出かける人や、まとめて休みを一月近くも取って旅行へ出かける人も居る。七月から九月の間はマンハッタンからニューヨーカーが居なくなる時期なのよ」

 キャサリンの別荘も巨大だった。オーシャン・ビューのデッキが付いて居る部屋が二十室以上も在った。慎一は眼を見張った。

一年に数カ月しか利用しない別荘なのにこの規模なのか?・・・

シャワーを浴びて浴室から出て来たキャサリンが直ぐに唇を重ねて来た。その唇は熱かった。激しいキスを繰り返しながら彼女は言った。

「アイ・ラブ・ユー」「アイ・ラブ・ユー」

それから、彼女は慎一を隣のベッドルームへ誘った。

再び熱いキスを重ねながら、キャサリンは慎一をベッドに導き、バスローブをはらりと脱ぎ捨てた。彼女の躰はグラマラスではなかったが、見事なプロポーションだった。大きく盛り上がった胸に括れた腰、ツンと突き上がったヒップのラインは将にヴィーナスのそれだった。

ベッドに倒れ込んだキャサリンの乳房を慎一が掴もうとしたが、それは片掌に余るほど大きく豊かなものだった。彼の掌が乳房の上に乗った時、キャサリンの肉体がピクリと動いたようだったが、直ぐに力を抜いて慎一を受け容れる態をした。彼女の恥丘はキラキラと金色に輝く細く薄い恥毛の下にピンクのクレバスが覗いて見えた。

喘ぎながら躰を開いたキャサリンが慎一を促した。

「来て!」

彼女は優しかった。

押しては引き、引いては押す喜悦の中で、寄せては返えし、返しては寄せる恍惚の拡がりの中で、二人は果てた。

「アイ・ラブ・ユー」「アイ・ラブ・ユー」

キャサリンは譫言のように繰り返した。

 翌朝、人気のレストランでパンケーキの朝食を堪能した二人は、その後、ビーチへ向かった。真っ白い砂浜が遠く遥かまで拡がっていた。

 ビーチでたっぷりリラックスしたキャサリンはモントークの灯台へ慎一を案内した。

「此処は、全米で現在稼働している灯台のうち、四番目に長い歴史を誇っているの」

ロングアイランド半島の最南端に在る灯台からは、青い海と果てしなく広がる空を見渡すことが出来た。

 午後は乗馬やポロのイベントを愉しみ、夜は連日催されるチャリティ・パーティーに出かけた。

「ハンプトンはニューヨーク社交界にとっての避暑地なの。この街を包み込むエレガントな雰囲気は、ソーシャライツと呼ばれる財界の著名人たちが挙って好むからこそ生まれるのよ」

 翌日曜日には、金持の別荘が立ち並ぶイーストハンプトンへ出かけ、高級ブランドショップやレストランが軒を連ねるメイン・ストリートでショッピングを愉しんだ。キャサリンは主に慎一の身嗜みを整える用品を調達した。テーラーでジャケットとパンツを誂え、サングラスとハットを購入した。

 

 夏の季節が終わって別荘を締めた後、彼女は慎一のマンションへやって来ることが多くなった。リビングと寝室とダイニング・キッチンしか無い狭い部屋だったが、それほど気にする風でもなかった。

「良く片づいているじゃない?綺麗好きなのね、シンイチ」

「一人暮らしで、必要最小限の物しか無いからだよ」

「ふ~ん、そうなの」

それから、近くのスーパーへ出かけて、カップやグラスや皿やナイフやフォークなどの日用品を二人で二人分揃えた。彼女は夜には、騒音とパンクっぽい若者が集うロックのクラブやジャズ喫茶へも慎一を連れて行った。

へえ~、こんな所へも出入りしているんだ・・・

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