召喚された二人の聖女 

@tea_kaijyu

第1話 召喚の光

エルダルド王国。古の神殿で、輝く魔法陣が二つの影を吐き出した。


一人は、都会的な雰囲気を纏った女子大生、絵梨奈。黒髪のロングヘアをサラリと流し、洗練されたメイクとファッション。彼女はスマートフォンを握りしめ、目を丸くしていた。


「え、なにこれ? コスプレイベント?」


もう一人は、ちょっと田舎っぽいオタク女子大生、沙羅。髪は徹夜のコミケ準備でボサボサ。無造作にヘアゴムで後ろにまとめてある、伸びかけたTシャツにヨレヨレのジャージ姿。背中には大きなリュック。両手にもコミケの荷物を抱えたまま、ぽかんと口を開けている。


「へ……、まさか……異世界召喚……?」


神殿の司祭たちがざわめく。神の声が響いた。


『癒しと浄化。この国に必要なる力なり。』


「ようこそ、聖女よ! この国を救いたまえ!」

 

キラキラの金髪の青年が前に出て来た。

濃い顔のイケメンだ。


「え……? 聖女? 私?」


絵梨花は目を見開いて、キョロキョロした。一瞬、沙羅と目が合うと驚いた表情になり、すぐに目を逸らした。そして、金髪の青年を上目遣いに見つめる。


「あの……。どういう事でしょう。ここは、何処なんですか?」


『ちょ、今、目を逸らした?』


沙羅は絵梨花が、沙羅を見なかった事にしたように見えて、ちょっと引っかかった。


青年は、舞台俳優のように両手を広げ、絵梨花を見つめ、良く通る声で言った。


「此処はエルダルド王国の神殿だ。私はこの国の第二王子のセレスティンだ。我が国は今、魔獣の脅威に晒されている。そこで神に祈り、国を救う聖女を呼び寄せる事にしたのだ」

「お……、王子様……」


王子と聞いて、絵梨奈はポッと頬を赤らめた。

セレスティンが絵梨花に歩みより、手を差し伸べた。


「名前を聞いても?」

「絵梨花です。坂上絵梨花。あ、エリカ・サカガミです」

「エリカ……。聖女は、癒しの力を持つと聞く。私の護衛騎士ヘインズの傷を癒してみてはくれないか?」


セレスティン王子はそう言うと、背後に控えていた騎士を手招きした。アッシュブラウンの一際背が高い騎士が、一礼してから一歩踏み出した。


「ヘインズは昨日負傷したのだ。私を庇って……」


ヘインズと呼ばれた騎士が、袖をまくると、腕に包帯が巻かれていた。血が滲んでいるようで、赤黒い染みが浮き出て来ている。


「わ、私……、やり方とかよく分からなくて」

「ああ、焦らないで。無理にとは言わないから」


セレスティン王子が微笑みを浮かべると、絵梨花はきゅっと唇を引き結び、ヘインズに近寄った。傷のある辺りに手を翳して、ぎゅっと目を閉じて、唱えた。


「な……、治れ! 傷よ、治って!!」


絵梨花の手からキラキラした光が溢れ、ヘインズの腕に光が降りかかる。響めきが広がった。


「どうだ、ヘインズ!」

「痛みが……、消えたようです」

「本当か!」

「はい……」


ヘインズが腕の包帯を外してみせた。そこには傷のない皮膚があった。更に響めきが湧き上がる。


「素晴らしい! 流石、聖女様だ!」


セレスティン王子は、ヘインズの傷が消えた腕に触れてみたりした後、笑顔で、絵梨花に手を差し出した。


「改めて。我が国にようこそ。聖女エリカ」

「あ、はい!」


絵梨花はキラキラした表情でセレスティン王子を見上げた。王子の手の上に、自分の手を重ね、暫し見つめ合う。そして、ふと思い出した様子で、沙羅の方に目を向けた。


「何だ?あの者は?」

「わ、分かりません。……もしかして、巻き込んじゃったかも……」


絵梨花は気まずげに首を傾げた。


「ふむ……。そこの者、傷を癒して見せよ。誰か負傷している者は居らぬか」

「ここに……」


一人の騎士が隣の騎士の腕を掴んだ。強引に腕を引くようにして、負傷しているらしい騎士を沙羅の前に連れてきた。

少し小柄なその騎士は手の甲に傷があった。


「え?」

「傷を癒してみせよ」

「えー……。……治れ?」


沙羅は、絵梨花が唱えた呪文のような台詞を思い出しながら、念じた。しかし、目の前の騎士の傷が回復する事はなかった。


「やはり、こっちの娘は……ハズレか? ……そのものを追い出せ」


セレスティン王子の一言で、甲冑を着た騎士達が一斉にざっと動いた。

ビクっと、沙羅は肩を跳ねさせた。半歩後ろに下がり、逃げる方向を伺った。


「セレスティン様、お待ちください」


鈴を転がすような声が響く。ふわりと裾が広がったドレス。キュッと締まったウエスト。絹糸のようなサラサラした長い髪をした美少女がキリッとした目でセレスティン王子を見つめていた。


セレスティン王子が眉を歪めた。


「なんだレイチェル、邪魔する気か?」

「国が召喚の儀式を行って呼んだものを、その場でそのまま追い出してしまうなど、外聞がよろしくありませんわ。

せめて、当面の生活を保証するだけの金銭を渡すべきだと思いますわ」

「はあ……。そう思うなら君が手続きしてくれ」

「……承知しました」

「はあ……」


セレスティン王子は面倒くさそうに溜息をついた。チラッと絵梨花の方を見やる。

大胆に開いた胸元。膝上のスカートから伸びる脚。

国の貴族令嬢であれば考えられない格好だが、不思議と絵梨花には似合ってみえた。


ふと、セレスティン王子は閃いてしまった。


「そうだ、レイチェル」

「はい」

「君との婚約を破棄する!」

「……は?」

「私は、聖女をサポートしなければならないからな。……ああ、手続きしておいてくれ」


レイチェルの表情は人形のように固まった。

パサリと長い睫毛が音を立てそうに揺れた。

パッと口元を扇で隠す。


「……少々、複雑なお手続きですので、わたくし一人の力では及ばない部分もあるかと、存じます。

後で、書類を手配いたしますので、ご協力いただけますか?」

「フン。その位、一人で処理出来ないのか。君も、まだまだだな」


セレスティン王子は鼻で笑ってプイと横を向いた。


(え? 婚約破棄だよね?

一人で手続きしろとか、正気?)


沙羅は全力でツッコミたかったが、余計な口は挟まなかった。流石にツッコミを入れられる余計がある状況ではなかったからだ。


結局、沙羅に対する「追放」は中断し、先にセレスティン王子や絵梨花達が何処かに消えていった。



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