第4話「救い」
『私、やっと幸せになれそうです』
偽物の視界に映るすべてを見せつけられていたと思っていたけれど、壁に映る光景に変化が訪れる。
目の前に映し出されたのは、偽物のステラ。
自分と同じ顔、同じ姿をしているけど、中身はまったく別物。
『ずっと、
目の前にいるもう一人の自分を見つめていると、偽物は冷たく笑った。
『やっと……両想いに……』
「ポニですか? それとも、ノーナですか」
私の問いかけに、偽物は喉の奥で言葉を詰まらせた。
「丁寧な喋り方に慣れているみたいですから、ノーナの方でしょうか」
目の前の偽物の顔が歪み、彼女の表情は怒りの感情で満ちていく。
「ユウに好意を寄せる方々を殺害してきたんですね」
「うるさい! 黙れっ! 黙れっっ!!」
「ユウに好意を寄せる方がいなくなれば、いつかは自分に番が回ってくるかもしれませんからね」
「っ」
同じ顔に挑発されるという悪夢を見せ続けられたけれど、ここで偽物の顔が歪んでいくのを確認できた。
「何人? 何十人? 何百人殺害する必要があるのでしょう」
「簡単よ……精霊がいれば……私は……私は……」
「努力をやめた魔法使いに、何ができるんですか」
いつかは、相手が挑発に耐え切れなくなるという可能性に賭けてみた。
「私はユウと親しいので、私を殺さないと……ノーナの番は回ってきませんね」
「私には、
「努力をやめた魔法使いが、私に敵うとでも?」
「っ! 黙れっ」
けれど、その可能性はすぐに潰えてしまった。
自分と同じ顔と向き合っていたはずなのに、壁に映された光景は彼女の視界へと切り替わった。
会話の継続が不可能となったけれど、慣れない挑発を続けたことで収穫もあった。
「ユウくんと夫婦になるところを、そこで一生、見てなさいっっ!!」
私の挑発に乗っかってくれたおかげで、
(犯人は、ノーナ)
ユウに想いを寄せるポニは、ユウのことを呼び捨てにしていた。
一方のノーナは、ユウのことをくん付けしていた。
もちろん、ユウのことを苗字呼びする生徒は大勢いる点は考えている。
でも、今回の事件で重要となってくるのはユウに好意を持っているかどうか。
(次の狙いは、魔法使いとして力のない人物……)
偽物の正体がノーナだと判断でき、恐らく彼女の次の標的はユウに好意を寄せているポニだと予測できた。
「あとは、どうやってここから出るか」
贄だった頃を思い起こすような環境下に身を預けておくのは、体にも心にも悪い。
「ありがとう。ここから、一緒に出よう」
ずっと私に寄り添ってくれている雷精霊の金色に輝く毛並みと別れ、次に力を貸してくれる精霊の名を探しために思考を切り替える。
「風精……」
『そこにいるのは、シャロ家の魔女様かな?』
風精霊の名を呼ぶよりも早く、聞き慣れない声が私を呼んだ。
自分に話しかけてくる存在が現れるはずないと思っていた私は、驚きのあまり目を見開いた。
『怪我はない? 俺の声、聞こえる?』
知らない声であるのは間違いないのに、小さな希望の光が心に灯される。
シャロ家の魔女を見捨てない人がいたことを知る。
自分のために動いてくれた人がいることを知り、ここから脱出するための勇気が湧いてくる。
「私は大丈夫です。それよりも、アスマさんとフェリーさんが……」
『事態は把握してるよ。だから、落ち着いて話を聞いてね』
のんびりとした口調の少年の言葉を、そのまま信じていいものかと迷いが生まれたのは事実。
それでも、この状況を打開する術を見知らぬ彼が持っているのなら、藁にも縋る想いで耳を傾けようと思った。
『魔女様に化けて、場をかき乱そうとしてる人間がいる』
聞き覚えのない声を受けて、声の主はまだお会いしていない
「努力をやめた魔法使いたちに、変身魔法は使えませんよ」
『そこで俺が考えたのが、幻精霊』
「っ、私は、幻を見させられている……?」
『別の人間に成りすますなんて芸当、ラピスレン国の魔法使いには無理だからね』
少年の言葉を受けて、人々に幻を見せることを得意とする精霊がいたことを思い出した。
「私が閉じ込められてる環境も、学園の一室……?」
『絶対に出られない部屋っていう、幻を見せられてるのかも』
暗闇に閉ざされた無機質な環境は、私だけが切り離されて別の世界に飛ばされたような印象を与えていた。
でも、その印象すら、自分の思い込みから生まれたのだと気づかされる。
「出られないって思い込みを取り払えば……」
『魔法と同じで、解除可能かなって』
相手の顔が見えない中、本当に真実なのか。
それとも、裏切るための罠なのかを判断するのはとても難しいと思った。
『信じる力が、きっと道を拓く』
相手は精霊との縁を結び続けることを願っている人物なのか、そうでないのか。
彼の声しか頼ることができない中では、警戒を選択するのが一番いいのかもしれない。
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