第2話「答えを見つける覚悟」

「精霊と縁を切っても、魔物が消滅するとは限りません」

「確かに、やってみないとわからないね」

「精霊と縁を切ったら、魔物に支配される可能性があります」


 エグバートさんが毛布の中から手を出して、その手を私へと伸ばしてきた。

 伸ばされた腕に急激な寒さを感じ、エグバートさんの体温が低いと気づいた。


「そんな未来を迎えたときの予行練習って感じかな」

「……嫌な未来ですけど、そんな感じです」


 伸ばされた腕を毛布の中に戻そうとすると、エグバートさんは私の手をそっと握る。


「どんなに魔物が蔓延はびこる世界でも、精霊との縁を切るべきではないって考えもわからなくもない」


 とても弱い力だったことが気がかりだったけれど、満足げな表情を浮かべたエグバートさんは自身の腕を毛布の中へと収めた。


「そんな考えを押し切って俺たちは行動するんだから、今から少人数に慣れるのもいいんじゃないかな」


 毛布の中へと戻ったエグバートさんの腕を見て、早く彼の体に熱が戻るようと祈りを込める。


「十四家の中から、どうやって犯人を絞る?」

「確信は持てませんが、ある程度は絞れるのかなと」


 ユウが、重たい口を開いた。

 シャロ家の魔女に忠誠を誓うからこそ、慎重に事を進めたいという気持ちが伝わってくる。 


「さっきも言ったけど、家族だからって信用しすぎるのは……」

「ノクティス・アカデミアを訪れたことのない森契の盟シルヴァン・アコードは、除外していいと思います」


 エグバートさんが私たちに時間を費やして体の負担が大きくならないように、必死に頭を動かして言葉を紡ぐ。


「犯人は一般の魔法使いに手渡した契約札エテル・カードが、どういう現実をもたらすのか知りたいはずです」


 四体目の遺体が見つかった現場で、人々の歓声を集める森契の盟シルヴァン・アコードはいなかった。

 あの場には、私が顔を知っている森契の盟シルヴァン・アコードしか集っていないということでもある。


「精霊と約束を交わしたことのない魔法使いに契約札エテル・カードを配るなんて暴挙は、これが長い歴史の中で初めて。相手は、何が起きるか観察したいってことかな」

「おっしゃる通りです」

「一般の魔法使いが精霊を使えるようになったら、森契の盟シルヴァン・アコードなんて組織は必要なくなると」

「犯人は、を壊したいのだと思います」


 エグバートさんは天井を見上げながら、自分の目で現状を確認ができなかった現場のことを思いやる。

 四体もの遺体が見つかっているというのに、その現場に赴くことができない悔しさがエグバートさんの瞳を通して伝わってくる。


「遺体が見つかったときに、現場にいた森契の盟は……」

「俺とアスマ、フェリーくんの三人」


 ユウは、はっきりと言葉にした。

 シャロ家の魔女が、森契の盟シルヴァン・アコードを疑っていると口にしないように配慮したのかもしれない。


(こういうところが、優しい……)


 私は、アスマさんとフェリーさんを疑っていると口にせずに終わった。


契約札エテル・カードを魔法使いに手渡しているのは、アスマかフェリーくんの二択」

「疑ってかかるのは良くないですが、前代未聞のことが起きているからこそ……」

「犯人は、現状を確認したい。だろ?」


 ユウの意見に対して、首を縦に振って肯定の意を示す。


「俺は、自分の無実を証明するために動く」

「ユウは、私の命令に忠実でした」

「それだけだと、説得力に欠ける」

「でも、それがユウを信じると決めた理由で……」


 私とユウが畳みかけるような勢いで言葉を交わす様子が、エグバートさんの何かを揺さぶったらしい。

 エグバートさんは面白がって、この場に相応しくない笑いを溢した。


「気が合うって、大事なことだよ」


 打ち合わせもなしに、こんなにも言葉が上手くかみ合った私とユウも同時に驚いてしまって、二人で顔を見合わせた。


「炙り出すのが正解か、殺人事件を防ぐために行動すべきかって問いだったね」


 私の素人推理を信じてくれたエグバートさんは、ゆっくりと深く息を吸い込んだ。


「精霊と約束を交わしていいのは、代々、シャロ家と森契の盟シルヴァン・アコードの血を引く人間だけという決まりがある」


 エグバートさんが落ち着いた口調で話し始めると、私に懐いていた光精霊たちは部屋を照らす多すぎる光の量に配慮して庭へと駆けていった。


「それは、精霊の驚異的な力で魔法使いが破滅に向かわないようにするため」


 エルドミアで精霊の生贄となることだけを考えていたときは、月の光しか存在しない部屋の中を心もとなく思ってきたはずなのに。


「俺たちは、人間を守るために精霊と約束を交わしている」


 それなのに、今は月の光が心地よい。

 こんなにも柔らかな月の光に、もう涙することはないだろうと強い気持ちが芽生えてくる。


「魔法使いに、契約札エテル・カードを手渡している人物を特定してほしい」

「はい」


 話し合ったわけでもないのに、私とユウの声が重なった。

 同時に、二人の覚悟が固まったことを心強く思った。


「では、エグバートさんは、ゆっくりとお休みくださ……」

「あー、俺、敷地内にいる精霊の様子、見てきます」


 エグバートさんへの報告が終わり、体を休めてもらうために部屋を出ようとしたときのことだった。

 不自然すぎる物言いを残し、ユウは私を置いて立ち上がった。

 その際にユウはエグバートさんと目を合わせ、軽く会釈をして部屋から立ち去ってしまった。


「二人きりにしてくれるのはありがたいけど、下手くそすぎだよね」


 ユウの姿が消え、ほんの少しの緊張が体を走り抜ける。

 それでもエグバートさんの笑顔に勇気をもらい、恥ずかしさで顔を背けないように心がけた。

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