episode 009 ~狼と狗③~
「子供の喧嘩に大人が戦車を持ち出すような話じゃないか」
征十郎の言葉に、右京は多少真面目な表情を作って言葉を返す。
「観測局の話によると、今回の〈涯の灰狼〉の動きは不可解な点があるらしい。お前も察しがつくんじゃないか?」
そう言われ、征十郎はすぐさま一つの可能性に思い至った。
「成程? 狼だけじゃなく、余所の狗が紛れている可能性があるってところか」
〈涯の灰狼〉は、はっきり言って終末存在という括りの中で見れば雑魚の部類だ。例え群れであろうと、一定以上の武力を有する個人や集団ならば討ち滅ぼすことは難しくない。
そしてその気になれば、その行動を誘導することも可能だ。
世界が終りかけているというのに、愚かなる人類は未だ相争っている。そういうことをしそうな集団も、得意とする集団も、すぐに思いつくことができた。
「そういうことだ。ただの狼退治ならそれで良いし、賢しい狗が手綱を握っているようなら、ちょっとお灸をすえてやらないとな」
正義の味方という言葉を絵に描いたような笑みを浮かべ、まるで世間話のような調子で右京が言う。
人としての属性で言うならば間違いなく光。征十郎よりもよっぽど勇者らしく、善性の塊のような印象の男だが、断じてただの甘ちゃんではないことを征十郎は知っている。
実際のところ筋金入りの善人ではあるのだが、どんな世界であろうとも、善人であることは悪人であることより遥かに難しい。終わりかけたこの世界なら尚更だ。理想だけで善や義を貫けるほど、この世界は優しくない。
善人を全うできるだけの勇敢さと冷徹さ、判断力、決断力、そして見た目までも兼ね備えた男。それがこの右京という男である。
「灸の火加減を間違えて焼き尽くすなよ」
「ははっ、お前じゃないんだから、そんなミスはしないさ」
征十郎の軽口に、右京が気持ちの良い笑みで言葉を返す。
「さて、そろそろ行くとするよ。また今度飯でも行こう」
「良いね。いつでも誘ってくれ」
「ああ! また連絡する」
片手を上げて颯爽と歩き去る右京を、征十郎も手を上げて見送った。
「さて、俺もやることを済ませますか」
右京が廊下の角を曲がるのを見届けて、征十郎は再び夜景の執務室へ向けて歩を進めた。
終末世界を救う、勇者様の方法論 夢路 桜花 @kotodama168
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