第37話 なんだか解放的な気分になった

 メイド服を着る俺の目の前に、今、ニタァ~!と笑いながら立っているのは俺の親父、勇一郎ゆういちろう


「ち、違うんだ! 親父! こ、この格好で朗読会をしたのは、文芸部の出し物であって! 俺の意思はだな!」


「好きなもの目覚め着こなした。そして、なお。堂々としている我が子を馬鹿にする親がどこにいるか」


「お、親父?」


 お、親父が俺を褒めてくれている? 勇一郎が俺を?


「馬鹿息子をそれでも愛想。誇れ! お前は強い!」


「お、親父どうしたんだよ?!」


 あ、あの俺を厳しく指導する事で快楽かいらくを得ている親父が俺を抱き締めて褒めてくれているだと?……これは夢なのか?


「……俺の愛する息子から出ていってもらおうか。特集呪物とやら。去れ! このれ者があぁ!!」


 親父が右手を俺のひたいに手を当てて大声で騒いだ? く、くそ。鼓膜こまくが……


(………………)


「ふんっ! ゆーちゃんの身体が固すぎて、れさせる事ができなかったか? ウチの愛する息子を本当に惚れさせたくば直接出迎いて来たらどうだ? ゆーちゃんを取り合う女の子達の様に積極的になぁ……建宮式武術……『真脚しんきゃく』!!!」


 お、親父が普通の技を遣った? 建宮勇一郎たてみやゆういちろうが普通の技を……床に?!


「うお?! 揺れて……いや、違う?! これは親父が真脚をした事で旧校舎全体が揺れているのか?!」


「ふん! このままでは、壊れてしまうか……建宮式固定術『スクルノッキング』」


「と、止まった?! 今度は親父が起こした真脚が止まった! すげえな親父」


「当たり前だぜ! ゆーちゃん。それじゃあな! ゆーちゃんに付いていた悪い虫やら、この旧校舎ってヤツに住み着いてたのは消し飛ばしちまったからよう! ちゃんと文化祭を楽しめよ。馬鹿息子よう!……ちゃんと誰かは選んでやれよ」


「……あ……はい!」


「ふん!……ママ~! ゆーちゃん。可愛いかったんだぜ~!」

「……アナタって本当に親バカよね。ゆー君。あんまりお馬鹿事しちゃ駄目よ。黒歴史になっちゃうんだからね~!」


 母さんと親父はそう告げると。何事も無かったかの様に、グラウンドの出店へと向かって行った。




 その後、メイド服を着たい衝動は突然、消え。急いで制服に着替え直した。


 秋月部長から貰ったメイド服は今日、家に帰ったら着心地を確かめる為に必ず着るけどな。


「建宮っちのパパ。マジでユウジロウみたいだったし。化物なん?」


「ん? 何を言ってんだ。七宮、俺の親父の名前は勇一郎ゆういちろつだ。間違えんな。俺の尊敬する親父なんだぞ」


「……建宮っち。ファザコンなん? 以外なんですけど」


「誰がファザコンだ。俺は家族愛が強いだけだ。普通の家庭の家族よりもな」


「へ~! 建宮っちは良い旦那さんになりそうな感じ……かと思ったけど。建宮っちは優柔不断だから、そもそも彼女できるか不安だし」


「なんだとアホ宮。なんでそこまでの事を七宮に心配されないといけないんだっての」


「ん〜? そりゃあ。ウチは将来的に建宮っちと子作りする予定だし。そりゃあ、建宮っちとの将来の事とかちゃんと考えるっしょ」


 コイツは本当に冗談なのか本気なのか言ってる事が、分からなくなるんだよな。まぁ、この雰囲気からしていつもの冗談……だよな?


「……そうか。それよりも。これからどうするか? 文芸部の朗読会は午前中で終わりなんだよな?」


「そうそう〜! 後は展示物みたいな特級呪物を飾って……痛ぁ?! な、なんでいきなりチョップするし? 建宮っち!」


「冗談でもそういうの止めろよな。お前が言うとまた俺が変な感じになるかもしれんだろう」


「は、はぁ〜?!だし。そんなのなるわけ……メイド服の件もあるから何ともいえんばいし」


「おい。言葉が詰まって変な方言みたいになってるぞ」


「ヤバし~?! マジ?」


「マジ……しかし午後からは、クラスの演劇をまた見に行くだけだし暇になったな。七宮、暇だし一緒に昼飯でも行くか」


「……マジ?」


 ……七宮のヤツ。顔を赤らめて変な反応してるけど。大丈夫なのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る