第3話 アシュニという男 その2

 なんか目が覚めたら全裸だった件。


 アシュニの最期の記憶は嫁に手を握られながら他愛の無い話をしていた所だ。

 「息子は元気にやっているか」「娘はどうだ」「孫に会いたい」などなど、子供達は俺を軽くあしらう癖がある、それは恐らく俺の性格のせいだが、そんな俺に対しても嫁は律儀に返事をしてくれるのでそれが嬉しくて最期の時まで何かを話していた。


 それが最期のはずなのになんで全裸なんだよ、あと身体の気怠さが感じられない、腰痛持ってた筈なんだが?ここがあの世?

 目の前には十数名の黒装束達、これが死神ったやつかい?そんなふざけたことを考えていると、ふと何か繋がりを感じた、そして危機感を本能が訴えかけてくる。

 コチラにまだ気が付かない黒装束を注視していると、その内の1人が地面に手を伸ばす、その先には──


「おいおい、よってたかってイジメか?」


 考えるより先に言葉が出てきた。おかしな話だ、俺が庇った娘は魔族だ、俺が魔族を庇うなんて有り得ない。

 つまるところ俺をここに呼んだのはこの魔族で、俺に対して精神支配か何かを掛けているのだろう、ふざけやがって、精神支配解いたらぶっ殺してやる。ふとここで疑問に思う、殺意は抱けるのか……


 幸いなことに俺を召喚したことで魔族の娘は魔力枯渇で気絶しているようだ、目を覚ます前に片を付ければいい。まずは邪魔な黒装束達から気絶させよう。


──強制入眠魔術、気絶電流おやすみなさい


 この魔術は後遺症が出やすいが、まあ魔力耐性の低い奴が悪い。魔族を相手取るなら耐性の高い装備ぐらいは用意しとけよ、怠惰な奴らだな。

 入眠と言いながら気絶させると言うカスの所業にこの場では誰も突っ込まない、ツッコミ不在は悲しいなぁ。勇者の辛辣な方ハミルが居ればなぁ……まあ、そもそも声に出していないが。


 さて、切り替えていこう。まずは精神支配をなんとかせねばなるまい、と言っても精神支配の原因は既に解析済みだ。

 これは精神支配と言うより生存本能に近い、あの魔族が死ねば自分も消える、故に生命が脅かされそうになれば反射的に守ってしまうのだろう。この手の術者との繋がりは消すと不都合が多いので上書きするしか無いのだが、生憎と思考誘導系の魔術しか扱えない。


 ふと、一つ気になっていた事を思い出す、気絶している魔族の娘、そいつの身体を調べてみる。魔力が回復する気配が無い、と言うより回復した側から俺に流れていっている。

 どうりで魔力回復速度が速いと思ったんだよな。だが現在俺の魔力は満タンにも関わらず、魔力がコチラに流れているのは俺を召喚し続けるためか?


 あくまで仮定だが、この説は納得できる部分が多い、いかに魔法と言っても無法では無い、それは魔術にも言える事で、制限、制約が必ず存在している。

 数千年の歴史がある魔族の魔法でも死者の蘇生は異能でしか再現できなかった、それをこんなガキ、ガキだよな?が使えるとは思えない、つまりこれは異能による蘇生だ。


 一応肉体の年齢調べるか。魔族も肉体の大まかな構造は人間と同じだ。羽が生えていようが、角があろうが、尻尾があろうが、骨の状態を見れば大体の年齢は推測できる。

 魔力を流し、骨を確認する、成長板を見るにまだ成長期であることがわかった。


 しかし、コイツの魔力の質には違和感がある、どこか濁っていると言うか、魔族の魔力はもっと澄んでいて、最高効率で魔法が使えた筈だ。


 まさか、人とのハーフか…?

 実例は知らないが有り得ない話では無い、実際帝国ではそんな実験がされていた。俺が昔、研究施設を文字通り消滅させた筈だが。


 要は魔族の魔力に耐えられる身体や子種が必要で、実際エルフとのハーフは成功していた。

 只人でも魔法使いなら可能性が高いだろうが、魔法使いは大抵国に囲われていてプライドも高い、魔族と交わるなど言語道断だろう。


 魔族に人の心など理解できないが、ハーフなら可能性はある。実際保護したエルフとのハーフは人殺しに忌避感を感じており、魔族嫌いのエルフの国に押し付けた。あいつ元気にしてるかな。


 とにかくこのハーフらしき奴に『命令をする発想に至らない』という風に思考を誘導しておく。

 これで文字通り命令という発想がしにくくなる、つまり『命令』ではなく『お願い』などに置き換わる。まあ無いよりはマシ程度だ。

 ついでに言うと俺は精神支配と思考誘導の解除の仕方を知らない、あんな高等術式面倒で覚えたくもない。

 仮にこのあと異能の未知の効果で精神支配を受けたとしても、解除を『お願い』されたなら殺してしまうのではないだろうか、怖すぎだろ俺。


 それに本当にハーフなら保護してやるのもやぶさかでは無いしな。ただこの俺を召喚した事は許せない、生意気なガキだったらハーフであろうが殺してやろう。


 魔族の娘が目覚めてから事情を聞いた、本当にハーフだったようで、今まで母親と2人で暮らしていたらしい(その母親は生首になっていたが)。

 現在地は帝国領で、魔族の娘は異能については知らなかったようだ、と言うか魔法も使ったことが無いと言う、それでも魔族か?

 それと名前はミフォスと言うらしい、贅沢な名だね、あんたは今日からミだよ。


 冗談はさておき、驚いたのは俺が亡くなってから100年以上は経過しているらしい、なんかワクワクしてきたな。

 どれだけ魔術が発展しているのか見るのが楽しみだが、ここは帝国領で、未だに魔法に縋っている時代錯誤な国らしいので、さっさと南下して王国を目指す事にした。


 自分の曾孫とか見たいしね。ん?曾孫でも結構歳いってそうだな、まあいいか。正直曾孫の時点でほぼ赤の他人のような気がするが、自分の残した子孫の行く末は少し気になる。

 ミフォスは俺以外に頼れる相手が居ないらしいので着いてくる気満々だった。俺の信頼できる友人はまだ生きているだろうし、そいつに会ったらミフォスを押し付…預けようと思う、子守りとか面倒だわ。



 数日休みながら歩いた結果、ようやく街が見えてきた。そしてその間に自分の行動方針についても考えがまとまった、今後はあまり人と深く関わらないようにするつもりだ。

 ミフォスには事前に伝えていた通り、森で待機するように指示しておく。夜は外套にくるまってろと伝え街へ歩き出す、別れ際に寂しそうな顔をしていたのだが、鼻で笑っておいた。


 今は全身真っ黒な服を着ているが、案外簡単に街に入れた、冒険者とかこういう格好好きそうだもんね〜。

 帝国領で冒険者登録する予定は無いが一応冒険者ギルドの位置だけ把握して、弱々しそうな雰囲気を発しながら路地裏へ向かう。

 早速絡まれた。男2人、体躯が大きいせいで逆に小顔に見える男とヒョロガリ、とりあえず挨拶ついでにタコ殴りにして金品を奪う。


 あの時の倒した黒装束達はロクに金を持っていなかったので非常に助かる。

 ヒョロガリの方は質の悪い剣を持っていた、大した金にはならないだろうが一応貰っておこう、さらばだ金ヅル共よ。

 しかし服や武器を買うには少々心許ない、そう考えた時、ふと思いつきで先ほど奪った質の悪い剣に魔術回路を刻印した、これで火球の出る魔導具の完成だ。


 これを魔道具屋に売っぱらうと多少は金になった、先ほど魔道具屋で相場を確認したところ、未だに魔道具の大量生産などは行われていなさそうだ。

 まあ単純にここが田舎で、流通量が少ないだけかもしれないが。そして持ち金で3本ほど剣を購入し、追加で魔道具を作る。

 今度は雷撃、氷結、風刃の3種。剣の質と魔術のレベルが高くなったおかげで、最初の5倍程度の値段で3本とも買い取ってもらえた。これ以上荒稼ぎすると価値が暴落しそうだし、この程度でいいだろう。


 社会貢献も終わったし、服屋で子供用の服を見繕う。服の調整用にハサミに針と糸も購入し、今度は武器屋へ向かう。

 革製の胴当てで最も小さいサイズのものを購入し、余った金で剣と手斧を購入した。食料品を買うのを忘れていたが、もう金もないし、自分で猟をするので別に構わないだろう。

 魔術回路の刻印に時間がかかったせいで既に日が暮れている、眠っているミフォスが獣や魔物に喰い殺されると目覚めが悪いし、俺が消えてしまうので帰る事にした。


 案の定眠っていたミフォスのそばで火を起こし暖を足る、俺がそばに居れば多少目立とうが問題は無い。目撃者には気絶電流おやすみなさいしてもらうだけだ。

 他人の生活より俺の暖が優先される、これは自然の摂理で仕方のない事だ、うんうん。


 そんなこんなで、目が覚めたらミフォスに手斧以外の荷物を押し付け、着替えさせた。

 なぜかコチラの様子を伺いながら背嚢に元々着ていた服を入れていたが、あれはなんだったのだろうか?

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