第5話 呪う男
尾上に呼び出され、俺と紗奈、凪は社の前に来ていた。
まるで探偵の推理ショー直前のような緊張感がある。
「やあやあ、お揃いで。これから君にかけられた呪いを解いてあげよう」
三白眼で、睨め付けられるとまるで容疑者の一人になった気分だ。
そんな俺への態度とは打って変わって、凪さんへは、初めましてなんて言いながら笑顔を浮かべて、軽い握手を交わす。
「紗奈さんの呪いは、本人が解き明かすのが筋だ。君が自力で辿り着きたまえ」
「そんな」
探偵役は俺だった。
「呪いというのは、感情の発露だ。その時の気持ちによって色が決まるのだよ」
「混ざり得ない複雑な気持ち……」
「複雑な気持ちなら、色味もまた、ごちゃ混ぜになっているものだよ」
「混ざらない時点で特異性がある」
「ならば何故、混ざらないのか、答えたまえ」
「知るかそんなも……まてよ、容疑者は二人……二色は混ざらない。感情と色の相関」
「同じ人を見ても、見た者が違えば抱く思いは異なるものだ」
ああ、そうか。二色とはそういうことか。整合性はとれる。が、信じたくない。どちらにせよ凪さんに動機はない。ならば
「第3の容疑者は……」
「役者は揃っている。次の質問だ。トリガーは何かね」
「ページを捲ること」
「捲ると何が起こるのかね」
「そんなの腹痛に決まっている」
「ふむ。実証しようではないか」
言い終わるよりも早く、メモ帳を取り出しパラパラとページを捲りやがった。
ふわりとリンゴの芳香が緊迫した空気に紛れ込んでくる。
「紗奈の匂い……っ」
遅れてやってくる腹痛。
「理解できたかね」
言いたいことは分かった。だが、やり方が乱暴すぎる。
パンと尾上が柏手を打つとリンゴの匂いも腹痛も消えた。
「話は変わらないが、プルースト効果というものを知っているかね」
「私知ってる。香りを嗅ぐと記憶が呼び起こされるっていうやつだよね」
「そういえば、確かに……なら、香りで紗奈を思い出すのが呪い?」
「ご明察。それこそが第一の呪いの正体だ。そうだね? 紗奈さん」
「信じたくないって顔しないでよ。私だって怒ることはあるんだから」
「何で」
「お家デートの時、私を忘れてずっと本を読んでたでしょ。なら本を捲る度に私を思い出させようと思ったの。お家デートで放置されるって寂しいんだよ」
「第一の呪いはトリガー、動機、術者。呪詛返しには十分な情報が集まった。返されるか、解くか。選びたまえ」
「うー。解く。解き方はこっそり伝えるから」
「ふむ。信じよう」
日は傾きだし、血のように赤い陽光が裏庭に差し込んできた。
「さて、第二の呪いだが話をしてくれるかい、凪さん」
「推理小説ではないのですから、話すわけないじゃないですか」
尾上は、閉じた扇子を左手首に押し当て鋭く引いた。
流れ落ちる赤い血液が血の雫となってポタポタと水たまりを作り上げる。
「偽りを刃と成し、痛みで呪わん」
「先輩何を」
「嘘をつく度に、傷口が開く呪いをかけた。質問に答えてくれるね」
凪さんの手に刻印が浮かぶ。呪いが成立したんだ。
「だから、さっき握手してたんだ」
紗奈は身震いしながら左手を摩っている。
さあ、質問したまえと促される。
「トリガーは、匂いを嗅ぐことで間違いないね」
気づけば、ずっと腹痛の前には紗奈の香りがしていた。
「そうよ。何なら呪いの効果も教えてあげるわ。痛みの正体は生理痛よ。どう? これで満足?」
「肝心の動機は?」
「誰でもよかったのよ。必要とされていない時間が怖いのよ。だから、傷ついている奴が必要だっただけよ」
「代理ミュンヒハウゼン症候群か……同情の余地はない。オガミ部が部長として、拝み屋として職責を遂行する。
腹痛の呪い、全て返させていただこう」
「待って」
二人の気持ちを否定する気にはなれなかった。
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