その穴のものら。〈Room-12〉

柊野有@ひいらぎ

Room - 12 : The game

大陸にふる雨

001:蒼空(Sora)

       ••✼••

 

「Room-12。ここが地獄だって? いや、もっと地味だ。だが、Wi-Fiだけはある」


 俺がいるのは、会議室の残骸みたいな部屋だ。


 俺は、ソラ。Room-12の翻訳担当。
名簿上は「JPN-04」。

 しかし、ここでは名前なんて意味がない。
起きて、翻訳して、飯を食って、寝る。
三交代制のルール。

 
寝るまえに、次の担当に引き継ぎノートを残すのが日課だ。


 No.027、今日ラーメン写真、香港の夜景
——そんなメモを残して、俺は寝る。


       ••✼••

 

 薄汚れた
土っぽい壁。適当に置かれた会議用テーブルが三つ。パイプ椅子が六脚。


 パソコンが五台。ひとつは、もう画面が焼けついている。使い古されて、フロントにはラベルがベタベタ。廃棄寸前なオンボロのパソコンだが、ストックの画像を検索するには、その程度で十分だ。

 壁際には、これまた廃棄されていたのを拾ってきたような、二段ベッドが一つ。白っぽいカーテンが天井から垂らされている。そこに、上下二人ずつ寝ている。

 今寝ているのは、四人。幸せな夢のなかだ。


 その奥に、会議用テーブル、裸電球。扉は外から施錠、もう一つの扉はトイレ。トイレには、十センチ角の小さな窓。それが、唯一の外とのつながり。

 歪みのある古いガラスで、外なんて見えやしないけどな。


 天井から裸電球が、ぶら下がっている。
光は黄色くて、時間の感覚を狂わせる。


「あーもう。ここ、昼か夜か分からんっちゅうねん」と、リョウが毎日つぶやく。


 こいつはリョウ、いちばんの古株。文章を整える。元編集者だ。今は、俺たちの日本語添削係。

 リョウは、ヒョロリとした青白い長身に、眼鏡。
短髪、細い眼、塩顔。

 この部屋では、英語がベースだが、彼は微妙に関西弁なまり。


「ソラもご存じ、ここでの日本語マスターは俺。AI翻訳って、味がないやん? 俺がそれを整える」


「隣のナイスバディな美女は、メイ。香港出身。電話担当。彼女の声だけは天使の歌声やって、上から言われてる」

 おいおい。ナイスバディな美女なんて、だいぶ盛ってるって。


 メイは、その言葉を聞いてにやりと笑い、ヘッドセットをはずした。今のは、日本語だったのに理解してるのか。


「愛の言葉なんて、どれも嘘よ。でも、声のトーンで信じる人は多いわ」

「そんなもんやて。要するに、メイは声も美人シンってことやろ。そこの坊主頭の少年、チャン。十二歳。最年少。
プログラム担当。アカウントの自動生成を仕切ってる。
あの年で、完璧に使いこなす。まじで天才や」


 彼は真面目な顔を俺たちに向け、首をこくりと下げた。

 時々、冷蔵庫の中身を数える。


「食料、あと三日分です」
それが口癖みたいになってる。

 それを、食料補給のときに伝えにいく。考えたくないが、食料が足りなくなったことがあったのか?


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