独り身で悪いか!

ミッシェル

第1話 仕事か? 愛か?


( いつだって女は損をしている。

どんなに男のように勉強して良い会社に入っても、結婚して子供が生まれたら意味がない。

結婚すれば幸せ? それは違う。

旦那は偉そうにして、主婦はその旦那に尽くさなければいけない。

家事は全て女性の仕事だ。

休みなんてない!

主婦は家政婦と何も変わらない。

愛があるかどうかの違いくらいだ。 )


ある会社を颯爽に歩くのはこの作品の主人公。

宇佐美梓うさみあずさ34歳独身。

商品開発部に所属する部長だ。

男にも負けずにリーダー的存在。


「 この企画書書いたのお前か?

直ぐにやり直せ!

新人じゃないんだからいつまでも言わせるな。

だからいつまで経っても出世しないんだぞ! 」


社内で部下に罵声を浴びせていた。

気は強くて眼鏡をかけている。

髪はロングで黒髪。

いつも綺麗に後ろにまとめて結んでいる。


「 ちっ! …… いちいちうるせぇんだよ。 」


部下の男がデスクに戻り舌打ちをした。


「 何だ? 女に言われて嫌なのか?

なら早く出世しろ。

お前がまだまだだから私はずっと上司なんだ。

それぐらい空っぽの頭で考えろ。 」


( 男に負けたくない…… 。

そんな気持ちで必死に仕事をした。

みんなが遊んでる間も必死にやった。

同期や先輩の男も追い抜かし、いつの間にか部長にまでなれた。

女性では最年少で部長になったらしい。

私が信じるのは自分の力だけ…… 。 )


自分に言い聞かせるかのように何度も思った。

梓はいつからか性格がキツくなっていた。

それはそうならなければ、部下に舐められてしまうからだ。

キツく叱りいつも完璧で、弱いとこを見せずに生きてきた。

周りからは当然浮いてしまっていた。


「 田中!! また記入漏れがあったぞ!

何年やってんだよ。

ここは学校じゃないんだ。

あまりにも続くのなら降格させるぞ? 」


モラハラと言われるような言動の数々。

当然許されるはずはない。

だけど皆は文句が言えない。

それほど彼女は優秀で偉大だったからだ。


「 宇佐美部長…… お茶です。 」


女性社員がお茶を置いていく。

梓はお礼も言わず出されたお茶を一口。


「 ちょっとちょっと!

これ真面目に淹れたつもり?

味は薄いしぬるい。

こんなのお客様に出してるのか?

入れ直せ!! こんな事言わせるな。 」


梓は怒って社内から出ていく。

叱られた女性も大きくため息をつく。

皆も梓にはうんざりしていた。


「 ふぅーー、旨い。 」


一人屋上でお茶を飲んでいた。

多きなビルの上から見る景色は格別だった。


「 またやってしまった…… 。

何故私はあんな言い方しか出来ないんだ。

また嫌われていくんだろうな。

気になると止まらないんだからしょうがないんだよ。 」


怒りたくなくても当たってしまう。

上に立つ者として成長したからこその、嫌な部分でもある。

いつも後になって後悔している。


「 もう…… 嫌!

くよくよしてても仕方ない。

ご飯でも食べよう。 」


サンドイッチを食べつつ缶コーヒーを飲む。

当然ブラック。

社内で食べれば良いのに、みんなが気を遣うと思って屋上で食べている。


「 出世しても恨まれたり責任ばっか重くて。

…… ん? 誰か来る! 」


咄嗟に見えない所に隠れる。

屋上にやって来たのは女性社員達だ。


「 本当あいつ最悪よね! 」


「 分かる分かる、本当嫌い。 」


明らかに自分の話をしている。

不満がかなり溜まっているのだろう。


( 本当勘弁してよ…… 。

隠れた私も悪いけど社内で悪口言うなって。

どうしよう…… 出られないなぁ。 )


梓は気まずくて出られずに居た。


「 君たち外まで丸聞こえだぞ。 」


そこに来たのは宣伝部の課長。

柳原圭介やなぎはらけいすけだった。


「 柳原さん! 違うんですぅ。

今日もまた宇佐美部長に叱られて。 」


「 そうですそうです。

お茶が薄いからってあんなに…… 。 」


女性社員の不満が爆発していた。


「 だからと言って上司の悪口は如何なものか?

それにあの人は理不尽に怒る人じゃないよ。

だからよーーく考えるんだね。 」


圭介がそう言うと納得して帰っていく。

それをしっかり確認する圭介。


「 やっと行ったな…… 。

おいっ! 居るんだろ?

そろそろ出てきたらどうだい? 」


圭介が言うと梓はゆっくり出て来る。


「 ごめんね…… 気を遣わせて。

本当に助かった。 」


「 俺の出来る事なら全然構わないよ。 」


圭介は梓に一個年上。

昔同じ職場で働いててその時から付き合っている。

この事は誰も知らない秘密だ。


「 同僚に聞いたよ。

また企画通って好調らしいね。

やっぱり梓は凄いなぁ。 」


「 全然…… 周りがダメダメだったから通っただけよ。

私は全然凄くないよ。

仕事しかないから頑張ってるだけだから。 」


「 そうか…… 分かった。 」


圭介はニッコリ笑って屋上から出ていく。

梓は少しほっとしていた。


「 いつも圭介には助けられっぱなしだ。 」


階段を下りる圭介は立ち止まり振り返る。


「 梓はいつも強いんだよ…… 。 」


悲しそうにまた下りて行った。


梓は仕事を終えて帰ろうとする。


「 部長…… この納品書の確認お願いします。 」


「 ちょっと! まだこれやってなかったの?

これで何度めよ? いい加減にしなさい。」


仕事が遅い部下に腹を立てていた。

確認を終えて納品をして貰おうとする。


「 部長…… 私…… 定時なのでそろそろ。 」


梓はその言葉に怒ろうとする。

でも思いとどまる。


「 えぇ良いわ…… お疲れさま。

私がやって置くから好きにしなさい。 」


「 はい…… 本当にすみません。 」


そう言い帰って行く。

梓は帰るのをやめて椅子に座る。

パソコンに向かい納品や取引先への電話をする。


( イライラするのがバカらしい…… 。

本当責任感ない人ばかり。 )


梓は分かっていた。

帰らないで終わらせてから帰れと言えば、ブラック企業とネットにあげられたり訴えられる可能性がある。

今の時代は良くなっている部分も多いが、窮屈になった部分も多かった。


定時から三時間以上かかって夜遅くになっていた。

部下の仕事を代わりにやり、疲れながらもやっと帰れる事に。

責任者は大変な仕事だ。


「 よし…… やっと帰れる。

ってやばっ!! 約束の時間とっくに過ぎてる。 」


急いで向かった場所は会社から近くの居酒屋。

中に入るとそこには圭介が待っていた。


「 圭介本当にごめん…… 。

仕事が長引いてどうしても終われなくて。 」


梓が謝ると圭介は表情一つ変えずにお酒を飲んでいる。


「 梓…… 俺達別れないか? 」


「 えっ…… ? 」


いきなりの事に梓の頭は真っ白に。


「 キミには仕事が一番なんだろう。

俺は結婚する人には辞めて主婦として過ごしてほしい。

そんな事…… 絶対無理だろ? 」


梓は深く考えていた。

結婚を前提に過ごしてきた。

だけどいつまでも仕事をやっていたいのが本音。

ずっと主婦をして父に頭が上がらない母のようになりたくなかったからだ。


「 ごめん…… 。 」


「 そう言うと思ったよ。

今までありがとう…… じゃあね。 」


圭介は立ち上がり店を出ていく。

その場で立ち尽くす梓。

梓は圭介の事を心から愛していた。

なのに仕事を直ぐに辞められない自分に腹を立てる。

これだけは譲れない思いがあった。


「 仕方ないじゃん…… 。

私は…… 絶対仕事辞めたくない…… 。 」


梓は絶対泣きたくなくて目を赤くして耐えていた。


外に出た圭介は振り返る。


「 やっぱり梓は止めないんだね…… 。 」


悲しそうに歩いて行ってしまう。

気持ちが大きくすれ違ってしまっていた。


梓はゆっくり席に着く。


「 ご注文どうぞ!! 」


「 生ビールジョッキで。

焼き鳥にホルモン。 」


注文してジョッキが来ると勢い良く一気に飲み干す。


「 ぷふぅーーーーっ!

すみません! 生ビールジョッキで! 」


梓は圭介にフラれてしまった。

0時になりその日梓は35歳を悲しく迎えた。

本当は彼氏が居て楽しい誕生日を迎えられると思っていた。

悲しい事に不満が溜まりフラれてしまい、梓は35歳で独り身になってしまった。


「 ごくごくっ…… ふぅーー 。 」


梓は泣く事なく一人飲み続けていた。

これは35歳で独り身になった、プライドの高い女の物語である。

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