重たい運命が静かに置かれたところから始まり、淡々とした語り口のまま、少しずつ世界の輪郭が見えてくるお話でした。
時計塔という閉じられた場所や、「管理人」という役割の描写が具体的すぎない分、読者の想像が自然に広がっていきます。男の置かれた状況も、感情を過剰に説明するのではなく、身体感覚や視線の揺れとして描かれているのが印象に残ります。
暗闇の中で出会う存在との距離感や、その気配の描き方も静かで、恐怖や哀しさが前に出るというより、避けがたく寄り添ってくるような感覚がありました。何かを「理解する」というより、「触れてしまった」という読後感に近い気がします。
読み終えたあとも、時計塔の内部の静けさや、時の流れをふと考えてしまう一編でした。