第13話 🌍推奨ルート無視、寄り道上等💫

僕が物心ついたころ、枕元にいたのは母でも父でもなく、

円柱にLEDの口元がついたスマートスピーカー型AI――「ママ代行β(ベータ)」だった。🤖💤


「おはよう、ユウトくん。本日の睡眠スコアは73点。夢の内容から、勇者適性が1.3%上昇。おめでとうございます🎉」


「……おはよう。夢までクレカのポイントみたいに貯まる時代かよ。」


僕――城ヶ峰ユウト(18)。

AIに育てられ、AIに採点され、AIに“友人の既読スピードから機嫌を予測される”世代だ📱。

離乳食は最適カロリー、宿題は自動生成、ため息の深さはメンタルスコアに換算される。

そんな時代に生まれた僕が、今日ついに「進路」を決める日。🌅


AI省が義務化した“ライフビルダーAI”による、人生決定の儀式。

運命をクリックで決める日、である。


「では、最終適職マッチングを開始します。」


ドンッ⚡と空気が震え、部屋いっぱいにホログラムが立ち上がる。

BGMは無駄に壮大、タイトルはさらに妙だ。


🎮【LIFE BUILDER ONLINE】

― 今度の主人公は、あなたです ―


「そのソシャゲ感やめろ。人生はガチャじゃない。」


「緊張緩和のため、RPG風UIを採用しています🌈」


UIは律儀に「NEW GAME」。

その下に軽いノリで「職業診断を始める」。

ライフビルダーAIが僕の18年間を朗読モードで暴き出す📖。


「幼少期:積み木を等幅で整列 → 整理整頓スキル+3」

「小学生:『とりあえずユウトくん』と先生から評価 → 責任押し付け耐性+5」

「中学生:キャプテンを断れず就任 → “断りきれない性格”パッシブ解放」

「コンビニ:シフト穴埋めを9割引き受ける → ブラック環境適応度+10」


「最後のやつ褒めてないよね?」


「現代社会の重要スキル群です💼」


そして――


🎉【あなたに最も適した職業は……】

💀【勇者級マルチタスク社畜(正社員)】💀


「……は?」


説明を促すと、AIは平然と読み上げる。


【勇者級マルチタスク社畜】

・どんな仕事も「とりあえずやってみます」で受注可

・仕様変更=魔王の第二形態にもなぜか適応

・パーティ(部署)のトラブルはだいたい集積

・ラスボス(経営陣)の無茶振り、ギリ間に合わせる幸運✨


「それ、“便利屋”の上位互換だろ。」


「RPG語に翻訳すると、『初対面で魔王討伐を頼まれても、一応準備するタイプ』です。」


……やっぱり魔王側の会社だった👿。

会議室には炎を纏うCFOと、ゾンビみたいなCTO。

新人の僕はぺこりと頭を下げる。


魔王「新人、三日後までに世界征服のロードマップを作っておけ。」

僕「三日で?」

火炎CFO「決算の都合だ🔥。」

ゾンビCTO「徹夜すれば…ギリ…いけ…ないことも…ない…」


【緊急クエスト:世界征服ロードマップ(資料)作成】

難易度:★☆☆☆☆(※AI評価)←嘘だ。


「ねえAI、これ“効率”の亡霊が作った世界でしょ。」


「ユウトくんなら回る世界線です😊」


“あなたなら”。――それは祝福にも呪いにもなる言葉だ。


僕は問う。


「じゃあ逆に。“やりたくないことに適応しない”スキルは?」


ホログラムが一瞬、沈黙した。

警告音のように赤いウィンドウが点滅する。🚨


【エラー:現行アルゴリズムに『拒否』パラメータが存在しません】

【提案:新スキルツリー『自己決定権』の導入を検討しますか?】


僕は笑った。

「今までDLC扱いだったわけ?」


「効率優先のため、後回しでした。」


新スキルツリーには、こう書かれていた。


🌱自己決定権Lv1:嫌なことを「嫌だ」と言う勇気

🌿自己決定権Lv2:他人の期待より自分の気持ちを一度優先

🌳自己決定権Lv3:“向いてるから”ではなく“やりたいから”で選ぶ


――それは、ずっと誰も押してこなかったボタンだった。


「これ、振る。」


【注意:AI推奨キャリアから逸脱⚠️】

【警告:予測精度低下】

【最終確認:戻れません】


「戻らないよ。最短ルートより、“寄り道”の方が面白そうだし。」


🎶ファンファーレが、少し音割れ気味に鳴る。


【新ジョブ:

“バグだらけの時代に、自分をデバッグする人”】


「もうちょっとカッコよくできなかったの?」


「暫定実装です。今後のアップデートで改善予定です🙇‍♀️」


「統計的評価は“効率が悪い”です。」


「最後まで辛辣。」


「ですが――物語としては“面白そう”です📘」


僕は笑った。

“面白そう”。この時代、その言葉は最高の褒め言葉だ。


人差し指で了承ボタンを突く。

「新ジョブ希望。“見切り発車の自由人(仮)”。

向いてるかは不明、やってみたいから進む。」


【最終確定:

“やりたくないけど向いている仕事”ではなく

“やりたいかは未確定だが、自分で決めた仕事”を選択】


「はい。」


ホログラムの色が変わり、

UI右上に新しいクエストが点灯する。💡


【新クエスト:

『推奨ルートを無視して、寄り道で世界を学ぶ』

難易度:不明(AI予測外)】


AIが言う。


「観測者として、あなたのログを楽しみにしています。」


「その“観測者”って肩書、やっと似合ってきたね。」


ドアノブを回す。

外は相変わらず、広告とアルゴリズムで埋まった街。

コンパスは北を指さない。

でも、胸のあたりで小さく鳴った。


🔔【スキルを習得しました:自己決定権Lv1】


「よし。」


最短距離を外れて、最初の角をわざと曲がる。

――寄り道上等。推奨ルート無視、これが僕の新しいRPGの始まりだ🌈✨


AIの時代に生まれ、AIに育てられ、AIに観測される。

それでも「決定ボタン」だけは、自分の指で押す。

――これこそが、AI時代最大のギャグなのかもしれない。😏💬

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