第2話 地鳴り災様
「……今、揺れました?」
「そうかい? 気のせいじゃないかな?」
ローデンはそう言うが、ルピナは間違いなく揺れた気がしていた。
それに、周囲の大人たちの中には、一瞬顔を見合わせた者たちがいる。
「そろそろ地鳴り災様が来たかね?」
「ウチはもう準備万端さ。いつでも迎えられるぜ」
耳をそばだてると、そんな会話が聞こえてきた。
「先生、やっぱり揺れたんですよ」
「そのようだね。これはワクワクだよ!」
「いや、
ドン……ドン……
直後、今度ははっきりとした地鳴りが響く。
広場の空気が、一瞬だけ静まった。
さすがに、これは誰もが感じる揺れだったか?
これで一気に防災の警戒が――と思いきや。
しかし、次の瞬間誰かが手を叩く。
「おー! 来た来た!」
「今年も元気だな、地鳴り災様!」
拍手が広がる。
音楽が鳴り、踊りが始まる。
(頭おかしくないか!?)
とは、流石に口に出さずに――
「お祭りの余興扱いだ! でもこれ、慣れすぎで逆効果になってませんかね?」
「忘れていないんだ。知恵が目的通りの効果をあげている証拠じゃないか」
「そうかなぁ……」
ルピナは、胸の奥に引っ掛かる違和感を振り払うように、カメラを回す。
(まあ……備えは万全そうだし)
ファインダーには、心の底から楽しんでいる人々の様子が映っている。
(例年通りなら、大丈夫なのだろう)
そう思うことにして、ルピナは目の前の光景をしっかりと撮影した。
§
先ほどの揺れは、祭りの一部として完全に受け入れられたようだ。
その後も時折響く地鳴りに、広場では拍手が起きる。
少し揺れるたびに屋台の店主が「こぼれそうになった」と悪態を吐き、客はそれを見て笑っていた。
「今年は良いリズムだね」
「去年よりも元気なんじゃないか?」
そんな声が飛び交う。
だが――
(……段々と間隔が短くなってない?)
測ったわけじゃないので感覚的なものだが、短くなっているように思う。
それに、音だけじゃなく揺れる頻度も増えている気がする。
「先生。これ、本当に例年通りなんですよね?」
「周囲の反応を見る限りそうだと思うがね」
ローデンは口元に手を当て、少しだけ考えるように黙り込んだ。
ドン……!
再びはっきりとした揺れ。
近くの建物の壁から、パラパラと砂が落ちた。
それを見ても、住民たちは柱の金具を締め直すなど、落ち着いた様子だ。
「ちょっと早いな」
「そろそろ全員中央広場に集まる告知が出るかもな」
住民がまったくパニックを起こしていないのは、見ていて安心する。
でも、だからこそ胸の奥がざわついた。
「ふむ……。良くない噂も混じっているみたいだね」
ローデンが沈黙を破って呟く。
どうやら周囲の音を拾っていたようだ。
「どんな噂ですか?」
「地鳴り災自体は、月の潮汐力か何かで弱い地盤が動いているんだと思うのだが」
「なるほど。それで?」
「だから、定期的に発生し被害も同程度のものが続く」
「はいはい。それで?」
「つまり、いつも通りじゃない。祭りとは異なった噂に意味があるのだ」
考え事をしながらなのか、ローデンはやけにのんびりと話す。
そんなテンポにヤキモキしながら、ルピナは耳を傾け続けた。
「……んで、どんな噂なんですか?」
「数日前、近くの山で温泉が湧いていたそうだ」
「ダメなやつですよ、それ!」
思わず怒鳴るルピナ。
「やっぱりそう思う?」
「思うじゃないですよ! 地震で温泉なんて言ったら、出てくる答えはひとつじゃないですか!」
「そうなんだよね。しかし、どうしたものか……」
「避難でしょ! 町の皆さんは揺れに備えて広場までの移動は考えているみたいですけど。それじゃ足りないですよ!」
地震と温泉が結び付く場合、それは火山活動の活発化が一番可能性が高い。
しかし、ローデンは腕を組んで考えたままだ。
「魔界の『異界探索法』じゃ、過度の干渉は基本的に禁止ですが、災害等による大量死は例外だったはずでは?」
「そこなんだよ、ルピナ君。魔界の法は、意外と現場のことを考慮してなくてね」
ローデンは、諦めにも似たような口調で、そう呟いたのだった。
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