第10話 大炎上

「えええええぇぇぇぇ!? なんでなんでなんで?」


 ルピナの脳裏をよぎる、城の奥での光景。

 マグマの川のほとり。

 ゴールを外して転がった、4発の魔導爆薬。


(……あれ? さっき活性化でマグマが増水したような。

 あのまま水位が上がったら、転がった爆薬はどうなる?

 もしかして、あの一帯が今頃マグマに沈んで……)


「……あ゛っ」


 ルピナの全身から嫌な汗が噴き出る。


(全部誘爆したんだ!)


 轟音を立てて崩れる城壁。

 吹き飛ぶガラス。

 立ち昇る巨大な炎柱。

 熱風がビリビリと肌を焼き、焼けた石の匂いが鼻を刺す。


 観客は悲鳴と怒声で大混乱、スタッフは半泣きで走り回る。

 今やカメラには、元魔王城というなの巨大な聖火台が……


「ルピナ君……?」


 ローデンの困惑した声が背後から聞こえた。

 振り返れない。


(ど、どうしよう、どうしよう、どうしよう……!?

 大会中止どころじゃない。歴史的建造物? 文化財?

 え、私? 私が、やっちゃったんじゃないの……!?)


 喉がキュッと締まり、呼吸が浅くなる。

 手が震える。足も震える。

 硝煙の匂いがしたような気がして、胃がキリキリ痛んだ。


「えーっと、あの……、不可抗力なんですけども……すみません」


 蚊の鳴くような声で謝り、深々と頭を下げた。

 涙目だ。


 どうしてこうなってしまうのか?

 何故綺麗に終わらないのか?


(あああああああ! 弁償とか言われたらどうしよう? 一生ただ働き?

 ヴァンパイアの一生なら返せそう……って、そうじゃない!)


 しかし――


「おい! 今年のアート部門、マジで最高じゃねぇか!!」

「超ド派手!! 歴代で一番スゲェ!!」

「うおおおお、燃え方が違う! 迫力がエグッ!!」


 次々と周囲でそんな声が上がる。


「え゛っ?」


 思わず変な声が漏れた。

 いや、出してしまうくらい周囲が変だ。


 いや待って。ちょっと待って。落ち着いて。

 なんで? なんでそうなるの?


 伝統あるお城が燃えちゃっているんだよ!

 絶対けが人、最悪死人が出ていてもおかしくないんだよ!

 というか、逃げなくていいの!?


 しかし観客は――逃げない。

 どころか、歓声のボルテージが急上昇。


「前回大会のマラソン選手がゴールしたぞー!」

「山林で迷ってたが、あの火柱で場所がわかったらしい!」

「すげえ……今年のアート、マジで神アートじゃん!」


 そんな声まで聞こえてきた。


(意味が……わからない……アハ、ハハハ)


 完全に思考が停止するルピナ。

 一方ローデンは、一転して興奮の色を帯びた顔でルピナの肩をゆする。


「ルピナ君! 感動のゴールだ! 撮影しに行こう!」


「は、はい。先生!」


 周囲をかき分け走り出す二人。

 ルピナの心はモヤモヤでいっぱいだ。


(これ……良かったのかな?

 いや、きっと良かったんだ。

 良かったことにしてしまおう!)


 そんなことに悩んでいる場合じゃない。

 今は、目の前に撮影お仕事があるのだ。


  §


 ゴールした選手は疲労困憊状態で、簡易ベッドに寝かされていた。


「すみません。ゴールした感想を頂戴していいですか?」


 ルピナがカメラを向け、インタビューを開始する。


「奇跡さ……。森の中をさまよって、正直もう駄目かと思っていたんだ。でもその時、天からの導きの火柱が見えたんだ。あれは、勇者の導きだ!」


(すみません。導きって言うよりは、事故なんですよ)


「あれがアート部門の作品だって言うのなら、きっと勇者に導かれていたのだろう。深く、お礼を言いたい……」


(どういたしまして。でも、名乗りたくないんです。すみません)


 その後は、近くの宿に運んで休ませると言われ、インタビューは打ち切られた。


 選手を見送るルピナ。

 その胸には、色々な意味での罪悪感がひしめいていた。


「ルピナ君」


 後ろから声をかけられ、ビクッと跳ねるルピナ。


「は、はい……」


 ローデンのことだ。

 おそらく何も言わなくても、すべて解っているだろう。


 しゅんとしてローデンに向き合うルピナ。


「そろそろ戻るとしようかね。今回も良い画がたくさん撮れた」


 しかし、ローデンは優しい口調でそう告げる。


「え? あの……」


「起きたことは仕方ない。それに、結果オーライになったみたいじゃないか」


 優しく笑うローデン。


「……はい、先生」


 二人は歩き出す。

 こうして、今回の撮影は幕を閉じたのであった。




【 マッスルヘイム連邦・転生五輪祭 了 】











「えーっと、あの……特別ボーナスは?」


「すまない。ちょっと考えさせてくれたまえ……」


「はい……」

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