20日目①
調査20日目① 2021年12月5日
資料:警察内部記録 山崎 秀明の私的な記録
時間: 2021年12月5日 00:15
記録場所: 清明総合病院 廃材置き場
深夜0時15分。警備員の巡回スケジュールと警視庁保管の非公式院内図を利用し、清明総合病院への単独先行侵入を完了した。
侵入には、深夜零時の職員交代による警備の手薄なタイミングを狙い、資材搬入口の電子錠を物理的に解除した。警備員と鉢合わせした際、刑事の身分証を利用し、捜査名目で回避することは可能であったが、今回の潜入は極秘裏に行う必要があるため、職員専用の非常階段を経由し、目撃されることなく、ターゲットの302号室がある病棟階へ到達した。
302号室の裏手に位置する管理用の廃材置き場を設置場所に選定。病室に隣接する壁の通気口内部に、高精細記録機材一式(高感度・高精細カメラ・広域高感度マイク)の設置を完了した。
この手記は、機材の設置を終えた今、この資材置き場にて記述している。儀式の完遂と、その記録を確実にするため、私はこの場で不測の事態に備え待機する。
記録は既に開始されている。この機材は、302号室内部の映像と音声を完全に捉えている。
私の刑事としての地位と知識は、全てこの「屈辱の記録」を完遂し、鬼を継ぐ者たちへ届けるためにある。贄たちがこの舞台へ集うのを待つ。
◇
資料:清明総合病院 院内警備ログ 橘あかりの無断外出
時間: 2021年12月5日 00:30
記録形式: セキュリティカメラ(地下通用口)およびドア開閉ログ
深夜0時30分。地下通用口の扉が開放されたログが残る。開閉記録は、入院患者の橘あかり(記録ID: 8874)によるもので、彼女のID認証により扉は正常に開閉されている。
しかし、これは深夜における病棟からの無断外出である。
彼女は、薄い病衣の上にカーディガンを羽織っただけの姿で、エレベーターホールへ向かう。複数の監視カメラの映像を時系列で追うと、彼女の歩行は迷いがなく早足である一方、その動作はどこかぎこちなく、自身の身体を制御しきれていないかのような不安定さが見て取れる。
橘あかりは警備員との接触を避けるように最短経路を選択し、自らが本来いるべき病棟ではない別エリアへ踏み込んだ。
この記録は、患者の重篤な病状下での無断外出および不正エリアへの侵入を示す。
◇
資料:氷室葉月の呪術的記録
時間: 2021年12月5日 00:45
記録者: 氷室葉月(手書きメモ抜粋・院内での即時記録)
橘あかりが先行し、呪いの核である302号室へ向かった。あかりは解放の贄として、私は術師として、呪いに対抗する。私の役割は、重い呪具の運搬と結界・術式の準備・実行であるため、また、理性の維持のために、あかりとは別行動をとった。
侵入の遂行:あかりが地下通用口の扉付近にIDカードを残置したことを利用し、私も計画通りに院内への侵入を完了した。
葵の病室から漏れ聞こえる呪いの力の増大を感知した。これは、里奈の魂の穢れが最高潮に達していることを示しており、儀式の開始タイミングが来たことを確認した。
最終準備として、廊下にて術式を構築する。
1.強制除霊の準備: 呪いの連鎖を断ち切ることに失敗した場合に備え、即座に起動させる、里奈の魂を強制消滅させるための術式を組み込む。
2.結界の基点設置の待機: 解放儀式を成立させるための術場は、葵とあかりの二人が病室に入った後でなければ完成しない。私は、この術場の基点設置を完了させるために、病室へ向かう。
◇
資料:清明総合病院 302号室内部映像
時間:2021年12月5日 01:00
場所:清明総合病院 入院棟 302号室
記録形式: 高感度・高精細カメラ映像
(記録者「Y」が匿名チャットルームへ配信)
映像は、清明総合病院 302号室の内部を、夜間の暗闇下にもかかわらず、高精細なカラー映像で捉えている。
ベッドの上の森葵は、不自然なほど沈静化している。病衣は几帳面に整えられており、拘束具は見当たらない。彼女は上半身を起こし、静かに座っている。画面には砂嵐のようなノイズが薄く走る。
(高感度マイクは、荒い呼吸と、室内の静寂を拾っている。)
彼女は、目を見開き、視線を病室のドア一点に固定している。その表情には、狂気と冷たい確信が浮かんでいる。
(唇が動き、微かな囁きが漏れる。)
「……来る。橘あかり……」
「……曝け出す。贄よ…… 舞台へ。」
この記録は、呪いの核である葵が、あかりの到着を冷徹に待ち受けているという、極めて不穏な状況を、色彩情報まで含めて克明に捉えている。
◇
ボイスログ/橘あかり
時間: 2021年12月5日 01:05
記録者: 橘あかり
(かすかなノイズ。荒い息遣い。周囲の静かな廊下の音が録音されている。)
橘あかり:「302号室。この中に、葵が、そして里奈さんの彷徨う魂がいる」
(一瞬、息を詰める音。)
橘あかり:「頭の中で、声がうるさい。『曝け出せ』『裏切りを暴け』……呪いの声だ。理性が限界を超えそう。このままドアを開けたら、私は本当に、屈辱を求める贄になってしまう」
橘あかり:「葵を、里奈さんを、そして私を、呪いから解放できるのは、まだ、理性を保てている、今、この瞬間だけだ。」
(病室のドアノブに手をかける微かな音。)
橘あかり:「必ず、連鎖を終わらせる。」
(深く、決意を込めた一呼吸)
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