18日目
調査18日目 2021年12月3日
橘あかりの手記
記録日時:2021年12月3日 04:00
葵との接触で、呪いは私の理性を内側から崩壊させようとしていることがわかった。あのまま病院にいたら、私は間違いなく、誰にも止められない衝動に駆られて自己破壊的な行為をしてしまう。それは、あの「暗がりの鬼」が求めている屈辱の完遂に他ならない。
私は、あの衝動に抗うための方法を見つけなければならない。そして、呪いを断ち切るための「解放の儀式」を、誰にも邪魔されない、私の意志で行う必要がある。
私一人の力では、この呪いの論理を逆転させることはできない。私の知る中で、唯一、呪いの法則を理解している氷室葉月さんに助けを求めよう。昨夜、葵と会った後すぐに葉月さんに連絡し、緊急で上京して助けてもらうよう依頼した。葉月さんの助けがなければ、私はすぐに衝動に飲み込まれてしまうだろう。
◇
脱走の痕跡に関する清明総合病院の報告書
記録日時:2021年12月3日 06:00
担当部署:清明総合病院 警備・管理部
本日06:00時、精神科隔離病棟の患者橘あかり(20)の逃走を確認。巡回中の警備員が病室の窓ガラスの割れと拘束具が外されている状態を発見した。患者は自身の病衣とシーツを用いて結び目を作り、窓から脱走したと推定される。拘束具の解除や窓の破壊行動は、極度の精神錯乱によるものではなく、強い意志による計画的な行動であったことが示唆される。警察に緊急通報を実施。
◇
警察内部記録(非公式ログ:山崎 秀明)
記録日時:2021年12月3日 06:15
記録部署:警視庁捜査一課(非公式ログ)
監視カメラにノイズが走った。確認。橘あかり、逃走。
何故だ! 奴は隔離病棟に残るべきだったのだ。彼女の衝動は最大化していた。このままでは、彼女は「未完の屈辱」の真実を、不特定多数の目に晒してしまうかもしれない。それは、儀式の前提を崩壊させる。
逃走直前の通信ログを確認――非通知の番号が頻繁にやり取りされていた。奴の行き先は、最初の事件の現場(遠山里奈の自宅周辺)か、水元透のアパート周辺だろう。あの呪いを別の論理で完結させようとしている。阻止しなければ。
橘あかりの通信履歴抜粋(非公式)
2021/12/02 23:15:30着信 (非通知) 時間:02:45
2021/12/02 23:19:00発信 (非通知) 時間:05:10
2021/12/02 23:30:15ショートメール受信N/A
2021/12/03 03:50:00発信 (非通知) 時間:00:30
2021/12/03 04:05:00ショートメール送信N/A
◇
山崎から上層部への公式報告
記録日時:2021年12月3日 06:30
報告者:山崎 秀明 警部補
件名:重要参考人 橘あかり 逃走及び追跡要請
重要参考人、橘あかりが本日未明、隔離病棟より逃走しました。彼女は一連の事件の未公開情報を保持しており、それを公表する危険性があります。本件の捜査は特異性が高いため、特命捜査班による単独追跡を要請いたします。逃走ルートは過去の事件現場周辺と推定される。
◇
ボイスメモ / 橘あかり
記録日時:2021年12月3日 07:30
場所:世田谷区内の静かな公園
(録音開始直後、近くの樹木から微かな野鳥のさえずりが聞こえる)
氷室葉月:(低い、怒りを抑えた声で)あんた、連絡を絶ってから何日経ってると思ってるの!? 報告はこまめにって言ったでしょう!
橘あかり:ごめんなさい……病院に隔離されて、連絡が取れなかったの。でも、緊急なの。
氷室葉月:病院? 何があったの!
橘あかり:葵さんと再会して……呪いの衝動が、私たちを強制的に結びつけようとしたの。あのまま病院にいたら、私は衝動に負けて、取り返しのつかない行為をしてしまう。だからすぐにでも儀式をしないといけないの。
氷室葉月:(声を荒げる)危険よ! 私は「単身で儀式に挑むな」と言ったけど、葵という子との儀式では、不安定すぎるわ。
橘あかり:(強く、決意を込めた声で)うん。分かってる! でも、もしかしたら。里奈さんや葵の苦しみを全部受け止めることができたら……。
氷室葉月:どうしてあんたはいつも自分を犠牲にしようと……………………っ。……やめて、……あかり。私に…………っく、……嘘っ……。
(葉月が服を脱ぎ始める微かな金属音と布の擦れる音が続く)
橘あかり:(戦慄した声で)えっ、葉月さん!? 何を……。そんな、葉月さんまで?
氷室葉月:(虚ろな声)……晒さなきゃ。……あなたが穢れを……隠し持っている……罪を。……美しい贄になりなさい、あかり。
(葉月があかりの上着に手をかけてめくり上げる、布が擦れる音。続けて、葉月があかりの肌に唇を押し当てる、生々しい濡れた音が数回記録される)
橘あかり:(身体が硬直し、悲鳴を抑える声)やめ、て……動けない……! 誰、か……。
(小さく、歯がカチカチと鳴るような震えを抑えられない音)
氷室葉月:(陶酔的な低い囁き)いいよ、あかり。もう、我慢しなくていい。
(葉月があかりのスカートを下ろし、地面に落ちる微かな布の音がする)
橘あかり:(困惑と絶望の微かな嗚咽)……うそ……。
(葉月があかりのショーツに指をかけ、ゆっくりと下ろし始める音)
橘あかり:(悲鳴のような高い声)やめて! 本当に!
(下着が肌に張り付いていることによる、抵抗のある、粘着質な布の擦れる音が、ごく短く、区切られるように続く。ショーツが腰のあたりまで下げられた音)
橘あかり:(抵抗の混じった、微かな呻き声)いやぁ……。
氷室葉月:(虚ろな声。息を飲む音)ああ……可愛い……。
(ショーツがさらに脱がされ、太もも付近まで下げられた音)
橘あかり(Akari.T):(震えながら、声にならない喘ぎ)っ……ぁ……。
氷室葉月(H.H.):(恍惚とした、低い笑い声)これよ……完璧な形ね。
橘あかり:(完全に声にならない、絶望的な吐息)……っ。見……な……い…、で。
氷室葉月(H.H.):(恍惚)ええ。見るだけじゃないわ。……触らせて。(柔らかな摩擦音と湿った皮膚の摩擦音)
橘あかり:(悲鳴のような吐息)……っ。い、や……ぁ。
氷室葉月:(ハッと息を飲む音! 一気に理性が戻る)……っ! ……くっ……なんて……強力な呪いなの! ごめんなさい、あかり!
橘あかり:(下着とスカートを慌てて直す。荒い衣擦れの音)葉月さん……大丈夫、だったの……?
氷室葉月:(荒い息遣い)ダメよ、あかり。この呪いは、私たちが思っていたレベルじゃない。近づいた者を、強制的に晒し合いをさせたがる危険な現象が発生している。あなたの呪いは、今や媒介者を選ばない。
橘あかり:(震えながら)やっぱり……。
氷室葉月:……。(冷静さを取り戻し、強い意志を持って)分かったわ。あんたの命がけの脱走、無駄にはしない。この呪いは、一瞬の理性でしか止められない。今から、最終的な解呪の計画を練るわよ。
◇
目撃証言(匿名・付近住民)
記録日時:2021年12月3日 07:55
憔悴した女性(あかり)と、服を乱したまま話し込む女性(葉月)が、一つの携帯端末を真剣に見ながら、世田谷区内の静かな公園で話し込んでいる姿が目撃された記録。
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