3日目

調査3日目 2021年11月19日


ボイスメモ / Aoi 都内・Aoiのアパート居室


 2021年11月19日 00:16:00


(激しいノイズとAoiの荒い息遣い。周囲で「サッサッ、サッサッ」という不気味な物音が不規則に響く)


Aoi:「(震える声、部屋の隅を凝視しながら)どこ……どこにいるの……誰もいない。誰もいないはずなのに……」


(物音が突然「タッタッタッ」という子どもの足音に変わり、レコーダーの周囲を速く回り込む)


Aoi:「(悲鳴)やめて! 来ないで! 私じゃない! 私は裏切ってない!」


(足音が止み、代わりに「ニヤァ……」「みーつーけーた」という子どもの囁き声がレコーダーの至近距離で聞こえる)


(直後、激しいものが床に落ちる音と、Aoiの絶叫……)


Aoi:「ああああああぁぁぁぁ! ……つか……まった……、

 ……ま、負け……た……の?」


(荒い呼吸の音。Aoiが防犯ブザーを握りしめ、ボタンを強く押そうとするが、指が小刻みに震える音)


Aoi:「(かすれた声)押さないと、早く!……(呪いの抵抗に抗おうと、力を込めるうめき声)……動か、ない……指が……!」


(ブザーが鳴らないまま、突如、Aoiの口調が不自然に変わる。硬く、感情のない、別人の声)


Aoi(強制):「……連敗が確定した」


Aoi:「ひとり鬼隠しのペナルティとして、ひとりエッチを公開する。……え? わたし、何言ってるの? やめ……やめて!  止められない!」


(携帯電話の起動音とアプリの通知音、ストリーミング開始の電子音)


(Aoiの嗚咽が響く)



 ◇



【独立資料】拡散された配信動画のアーカイブ抜粋

ファイル名: [公開停止済] ひとり鬼隠しのペナルティとして、ひとりエッチを公開します。


配信開始日時: 2021年11月19日 00:24:00


配信時間: 00:03:00


配信者: Aoi (ユーザーアカウント凍結済)


アーカイブ抜粋:


 画面はAoiの携帯電話のインカメラによるもの。配信開始時、Aoiの顔は極度の緊張により引きつった笑顔となっており、まだ涙は流れていない。


 彼女は自らの意思に反し、不自然なほど高いトーンの声で画面に向かって話し始める。


Aoi(強制された声): こ、こんにちは……。裏切り者の私による、ひとり鬼隠しのペナルティ配信です。これから……ひとりエッチをします。上手くできるかよく見ていてください。


 彼女はゆっくりと、時間をかけて上着に手をかけ、一枚ずつ脱ぎ始める。その動作は硬く、不自然なほど機械的で、まるで他者に遠隔操作されているかのようだ。


Aoi(抵抗): いや……! やだ、脱ぎたくな、い!


Aoi(強制された声): 嘘つきは脱ぐ。みんなが待ってる。


Aoi(拒絶の台詞): ああ、見ないで……!


 服を脱ぎ終え、下着姿になると、彼女の白い素肌が画面に映し出される。その素肌に宿る恐怖が、強制的な笑顔と不協和音を奏でる。


Aoi(驚愕の叫び): うそ……!?  視聴者数が、一気に……!?


 画面に映る自分を嘲笑う大勢の視聴者のコメントと、露出した身体を交互に見て、限界を超えた羞恥と絶望に打ちのめされる。しかし、硬い笑顔を無理やり貼り付け、自らを貶める行為を演じ切ることを決意したように見える。


Aoi(嫌悪を押し殺した声): 大きくはないけど形の良い胸が、私のお気に入りです……。お尻は少し大きくて恥ずかしいですけど、このお揃いの下着も、よくみてください……。


 画面を注視し、自分の姿とコメントを確認している。


Aoi: そうだよね。ちゃんと……取らないと……ね。ひとり……えっちなんだから。


 彼女は自分のブラジャーに手をかける。ホックが外され露わになった箇所がカメラの照明を反射して艷やかに輝く。


Aoi(弱々しい拒絶): いやぁ……。


 Aoiの顔には極度の羞恥と、呪いに支配された諦念が混ざり合っていた。


Aoi(自棄的な声): わかったわ。これも……よね。


 彼女は、ショーツのゴムに手をかけた。


Aoi:えっ、嘘っ? …… これ以上は……!


Aoi(強制された声): 裏切り者は、自分で自分を罰せよ。


Aoi(驚愕と絶望): いやなのに……どうして、止められないの……みんな、裏切り者の私を、見て、嘲笑って……。裏切り者の私を、もっと嘲笑って?」


 彼女は画面を見つめ、涙と羞恥に打ちのめされている。


 しかし、直後。配信は、第三者の介入を思わせる強い衝撃音(鍵を破る音)が響き渡ると同時に、強制的に遮断された。



 ◇



ボイスメモ / 橘あかり 都内・Aoiのアパート居室


 2021年11月19日 00:20:55


(激しいノイズ。あかりの叫ぶ声)


Akari . T:「(激しくドアを叩きながら、焦燥した声) Aoi! 開けなさい! いつ鍵をかけたの? おかしな配信が始まってるわ!」


(Aoiの不自然な行為の喘ぎが微かに聞こえる。ブザー音は一切ない)


Akari . T:「くっ、鍵が!……(重い金属を何度も叩きつけるような音)」


(「バキン!」という鈍い破壊音。そして、勢いよくドアが開く音)


(携帯電話を乱暴に床に叩きつける音)


Akari . T:「Aoiさん!(荒い息遣い)しっかりして! カメラは止めた! 大丈夫よ!」


Akari . T:「もう、誰も見てない。大丈夫だから、そんなことやめて……えっ!?」


(直後、激しい組み付き音と、あかりの短い悲鳴が混ざり合う)


Aoi(強制、奇声):「アアアアア!!!」


(Aoiの荒い息遣い。Aoiがあかりに襲いかかる音)


Akari . T:「やめっ! Aoi! やめなさい! 私を巻き込もうとしているの? ……離れなさいっ!」


(Aoiの甲高い奇声が一度だけ響き渡り、その後、荒い息遣いだけが残る)


Akari . T:「(荒い息遣い)Aoi……あなたの意志じゃないのは分かってる。でも、どうして……」


Aoi:「……。………………。」


Akari . T:「(荒い息遣い、震える声)えっ……(電話を取り出し、震える声)救急車をお願いします! 至急! 意識不明です!」



 ◇



橘あかりの手記

日付/場所: 2021年11月19日 02:30 / 都内・病院前


 Aoiは救急車で病院へ搬送された。私が鍵を破って突入するまでの間、彼女は凄惨なペナルティを晒してしまった。


 呪いは、Aoiの自己否定の感情を突き、自らの手で尊厳を剥奪させるという悪魔的な方法を選んだ。配信はわずか3分ほどの記録で済んだが、私が止めると意識を手放して昏睡状態に陥った。


 最後の抵抗。呪いに操られた、あの正気を失った目が脳裏に焼きついて離れない。


 もう傍観者ではない。私は、この呪いを追う「鬼」だ。拡散源を突き止め、停止させるまで、私の「鬼ごっこ」は終わらない。




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