『努力の銀行』の俺は、残高一兆EPで凡人を天才化。世界経済にざまぁを仕掛け、裏から支配します。

@powarin

第1話 残高一兆、絶望の瞬間に能力は発現する

神崎ユウト、32歳。総合商社の平社員。 彼の人生は、誰にも報われない努力の連続だった。特にこの一年は地獄だった。体調を崩した母の治療費を稼ぐため、ユウトは睡眠を削り、上層部からの特命であるこの重要プロジェクトにすべてを注いだ。


先週、徹夜で完成させた企画書。それが、今日の朝礼で田中部長によって、全社員の前で引き裂かれた。


「神崎!お前の企画書は、努力が足りん! 顧客も市場もまるで見ていない、ゴミだ!俺の若い頃は寝る間も惜しんで……」


ユウトは立ち尽くした。心臓が凍りつき、怒りよりも深い、絶望的な虚無感に支配された。この企画は上層部の指示だった。その努力が、直属の上司に無意味だと断罪された瞬間、彼の「希望」は完全に砕け散った。


視界がぐらつき、強いめまいに襲われる。ユウトは意識が遠のきそうになり、思わずデスクに手をついた。


その時、ズン、と頭の中で何かが起動する鈍い音が響いた。


「努力が足りない?ふざけるな」


ユウトの目つきが、かすかに動揺した。彼の視界に、半透明のパネルが出現した。


努力値(EP)バンク

残高1,034,201,887,552 EP

最終入金企画書作成の努力(+5,000 EP)


ユウトは能力の「使い方」を直感的に理解した。


EPはユウトが今まで費やしてきた「真の集中力と労力」を数値化したものであり、他人に注入でき、その対象の才能を覚醒させることができるようだ。


同時に、このパネルに接続された『世界の真実』が、一気に脳内に流れ込む。


田中部長は引き裂いた企画書をユウトのデスクに投げつけた。


「さっさとゴミを片付けろ、神崎。お前の無能さにはほとほと呆れる」


ユウトの視界に表示されたパネルが、田中部長を自動的にターゲッティングし、「インジェクト(注入)」のコマンドを促すように激しく点滅し始めた。まるで、憎らしいこの上司を最高の実験台として使えと、パネルが叫んでいるようだった。


ターゲット:田中 秀樹(55歳)

ポテンシャル B+ (埋もれた戦略家)

スキルリスト 【ゴルフ Lv.8】【愚痴 Lv.MAX】【責任転嫁 Lv.9】

欠落才能 【リーダーシップ Lv.0】【決断力 Lv.0】

推奨EP 500万 EP


ユウトは、パネルに手を伸ばすのを止められなかった。憎らしい田中部長に、このチートな力が本当に効くのか、本能的な好奇心が勝った。


「500万EPを、田中部長の【リーダーシップ】と【決断力】にインジェクト」


【残高:1,034,196,887,552 EPに減少。田中秀樹へインジェクト完了。能力初使用。】


EPを注入した瞬間、田中部長は「ぐッ……」とオフィスに響く呻き声を上げ、その場に崩れ落ちた。彼の眼光は、長年眠っていた巨大なエンジンが起動したかのように、鋭い光を帯びて光った。


「神崎……お前、俺をなんだと思っている」


田中部長は立ち上がり、ユウトのデスクを殴りつけた。彼の批判は、驚くほど的確だ。


「このゴミ企画書は市場のニーズを捉えきれていない!貴様の努力は認める。だが、この会社という旧態依然とした枠の中で、お前が徹夜したところで、この程度の『凡庸な良作』しか生み出せない!」


ユウトが覚醒に驚く間もなく、田中部長は全員が沈黙するオフィスの中央へ歩み出た。


「いいか、聞け!この腐りきった組織の全員!我々はもう、この会社にいられない!」


田中部長は、誰もが知るが口にしなかった会社の裏の不正会計や、役員の無能さを、的確な事実を突きつけながら、大声で糾弾し始めた。彼の【決断力】は、組織の腐敗を切り裂く刃と化していた。


そして、田中部長は取締役会が座るフロアを見上げ、叫んだ。


「貴様の企画は、上層部の無責任な『流行への追従』が生んだものだ!彼らは市場を理解せず、お前の努力を保険として利用した!この腐敗した組織に、お前の無駄な努力を踏みにじられた俺自身に、真のざまぁを見せてやる!神崎、今すぐ俺のデスクにある機密資料をすべて持ち出せ!我々はここで終われる人間じゃない!」


ユウトは息を飲んだ。田中部長は、彼の復讐の感情に呼応して覚醒したが、その暴走ぶりは手に負えない凶器のようだ。この言動では、彼らは確実に会社から追放される。退職は、もはや必然となった。


ユウトの目に、初めて強い光が宿った。


「(暴走させるな。こいつは、俺の復讐のための最高の道具だ)」


ユウトは立ち上がり、田中部長の狂気に満ちた眼差しをまっすぐ見つめた。


「分かりました、部長。ですが、私に指示を出させてください。機密資料は不要です。我々が持つべきは、我々自身の頭脳だけです。明日の朝までに、山村課長を密室に連れてきてください」


ユウトは、覚醒した上司を道具として掌握し、次の駒を打った。


残高一兆 EP。


ユウトの静かな「世界審判」が、今、始まった。

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