第20話 ノスタルジックなマスカテルフレーバー

「そうだ陽花はな、この後空いているかい?もし空いてるなら少しお茶でもしていかないかい?」


 帰り道、ふと閃いたみたいに美月みつきから提案をされる。


「お茶?いいよ、今日はなんも予定ないし」


 断る理由もないため、即答で返事をした。

 美月からお茶の誘いなんて、なんだかんだ始めただよね。


「そうか、なら、ここから距離はあるが、私の行きつけの喫茶店があるんだ。そこに行こう」

 

 美月の行きつけか、多分、高級感漂うラグジュアリーな場所に違いない。

 なんか怖くなってきた、わたしみたいなモブが行っていい場所なのかな?  



「ここが、私一人でよく来る、行きつけの喫茶店さ」


「おー」


 美月に案内された場所は、どこか昭和の香りが残る

 ノスタルジックな雰囲気漂う空間だった。

 店内にはアンティークなティーカップや食器なんかが、ショーケースに飾られている。


 想像してたところとは、だいぶ真反対な場所なんだけど。

 でも、こういうレトロな雰囲気のほうが、落ち着くし、安心できるよ。


「なんか意外だなあ、美月のことだから、もっと派手な感じの場所だと思ってたよ」


「そうかい?陽花の私に対するイメージが、どんなものかは分からないけど、私だって、一人落ち着きたい時だってあるさ」


 嫣然えんぜんと笑う表情とは裏腹に、美月の声には少し哀愁あいしゅうを帯びている気がした。


 ほどなくして、店員さんに案内され窓際のほうの席に着く。


「まずはなにか頼もうか。

 ここは紅茶が美味しいんだ、特にダージリンがおすすめだよ」 

 

 定員さんに渡されたメニューを見る。え!たっか!

 

 メニューには、高校生が放課後お茶するには、似つかない金額が書いてある。

 そうだ。忘れてたよ。美月も孔雀さん同様とんでもお嬢様だったことを。


「ちょっと美月、こんな高いなんて聞いてないよ!わたしそんなお金ないよ」


「ああ、そのことなら安心してくれ、私が誘ったんだ、ここは私が奢らせてもらうよ。君は値段のことは気にせず、好きに頼むといい」


「いやさすがに遠慮はするよ」


 お金持ちの人からしたら一杯数千円の紅茶なんて普通のもなのかな。


 わたしは値段に恐怖しながら、美月におすすめされたダージリンを注文した。


 注文してからは割とすぐに来た。時間帯的に人が少ないからかな。


「それじゃ、さっそくいただこうか」


「お、おう。い、いただきます」


 こ、これが高級紅茶。


 まだ飲んでいないのにこの時点で香りがとてつもなくいい。


 カップを持ち上げ紅茶を口にする。


「うわなにこれ、美味しい」


 なんか勝手に高い紅茶は苦味が強いのかな、なんて偏見があったけど、全然そんなことない。渋みはあるけどすっきりしているし、フルーティーで飲みやすい。


「ふふ、そうれならよかったよ」


 カップを持ちながら嬉しそうに美月が笑っている。


 窓から差し込む光に充てられた美月が、

 神々しいまでに輝いていて見惚れてしまう。


 美月って本当に神様だったりしないよね、

 じゃなきゃ説明がつかないくらい輝いてんだけど。


「そうそう、陽花、最近菊乃と何かあったかい?」


 あ、危ねぇ。あやうく紅茶が霧になって、美月に吹きかけるところだったよ。


「い、いきなりなに?べ、別になんもないです……よ?」


 焦った勢いで声が思い切り裏返ってしまう。

 

 こいつまさか、わたしと孔雀さんのことについて何か知っている?


 だとしたらどこまで知ってる?正直知られていい内容はほとんどないぞ。


 わたしは反抗する容疑者みたいに、顔を上げ美月を見つめる。


「ああもちろん、何があったかは知らないよ。ただ、最近の陽花はどこか、菊乃を意識してるように見えたから」 


「マジ?そんな感じに見えたの?」


「ああ、向日葵ひまわり蘭音かのんにどう見えたかは知らないけど、少なくとも私には」


 嘘だろ、わたしって結構顔や態度に出やすいタイプだったのか?。


 隠してるつもりだったんだけどなあ。じゃあ二人にもばれてる可能性も高いよね。



「二人の間に何があったかは知らないし聞きもしないが、それが菊乃きくのに対して良いことなら、私としてはとても嬉しいかぎりだと思ってね」


「なんで孔雀くじゃくさんの事なのに、美月が嬉しいのよ?」


「なぜだろうね、多分昔の菊乃を知っているからかな」


「え⁉二人って知り合いだったの⁉幼馴染的な?」


 ここにきてまさかの新事実発覚!


 全然期待していない所から、探し物を見つけたみたいだ。


「幼馴染というわけではないよ、ただ昔、会ったことがあるだけさ」


「どこで会ったの?気になるんだけど」


「そうだな……陽花は菊乃の家柄のことを、知っているかい?」


「孔雀さんがお嬢様なことだよね?知ってるよ」


「なら話が早いな。私が菊乃と初めて会ったのは、幼少期の頃だ」


 美月がカップをソーサーにおいて話を始める。

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