第13話 魔法少女ミラクルン その2
わたしは先ほど座っていた座布団に座り直し、
それからほどなくして、孔雀さんが頼んだ飲み物が運ばれてきた。
運んできた人は丈の長い黒のワンピースに白いエプロンのメイド服を着ていて、長い髪を後ろでまとめている美人さんだった。
運ばれたお茶を一口飲んで孔雀さんが口を開く。
「あの押し入れの中を見てあなたはどう思った?」
孔雀さんの問いに体がビクッ!となった。
「どうとは?」
「そのままの意味よ、あれを見てあなたが感じたことを話して」
あれを見て感じたこと?そんなものいっぱいあるけど、まぁしいていうなら。
「すごく愛を感じました、それとすごく意外だなぁと」
「そう、ありがとう」
わたしの答えに孔雀さんがはにかんだように微笑んだ。
そしてどこか遠い空を眺めるみたいに話し始めた。
「私の家は厳しくてね、今は私も高校生だし、昔に比べればだいぶ優しくはなったけど、昔はほんとすごかったのよ」
「そう……なんですね」
「私はね、生まれた時から完璧を求められていたの、そのために必要な礼儀やらマナーなんかを叩き込まれて、他にも色々厳しく躾けられたわ、何回も泣いたし何回も逃げ出したわ、今思い出しても辛かったと言わざる負えないわね」
切なく語る孔雀さんに対してわたしは何の言葉もかけられなった。
孔雀さんが過去にどんな辛いことをしてきたかはわからないし、ここで「大変だってね」っていうのは簡単だ。
でもなにも知らないわたしが言うには少し無責任すぎる気がしたから。
「そんなある日ね、たまたまテレビでやっている魔法少女ミラクルンを見たの、凄く面白かったし、初めての感覚だったわ」
先ほどの切ない表情とは打って変わって楽しげに話す孔雀さんは夢を語る子供のように楽しそう。
「私よりも年上の女の子が悪に立ち向かっていく姿に、幼いながらに感動したわ、気づけば作品にハマっていて毎週の楽しみになっていたわ。父はそんなもの見るななんて言ってきたけど、反抗してやったわ。今思えばあれが初めての反抗だったかしら」
満面の笑み語る孔雀さんが楽しそうで、わたしまで楽しい気分になっていく。
「よっぽど好きなんですね作品のことが」
「もちろん、初めて自分から夢中になれるものだったの、誰かに与えられたものじゃなくて初めて自分が心の底から好きといえるものなの。だから私は魔法少女ミラクルンが好きなの」
なんというか孔雀さんがとても身近に感じられた。
自分の好きな物について話す孔雀さんは、いつもの大人びた感じなんてなくて、子供みたいに無邪気だったから。
「ありがとね孔雀さん」
「急になによ?」
何でかはわからない。多分孔雀さんを身近に感じれて嬉しかったんだと思う。
「何でかな?」
お互いに笑いあいながら、場の雰囲気が満たされていくのを感じる。
「じゃ、この話は終わり。私に何か聞きたいことはあるかしら?」
蚊を潰すみたいに手をパン!と叩きながら孔雀さんが問いかけてくる。
「なんですか?今すごくいい雰囲気じゃありませんでした?」
あまりに唐突すぎることに戸惑いが漏れてしまった。
「いい雰囲気になることが目的じゃないからよ、私を知ってもらうことが目的なのよ」
「知ってもらうって具体的になにするんですか?」
待ってました、と言わんばかりの勢いで孔雀さんが私に指をさす。
「あなたが私に聞きたいことを質問して、可能な限り私が答える。シンプルなものよ」
「質問ってなんでもいいんですか?」
「ええ、何でもいいわよ、今
「それは大丈夫です」
「あらそう」
残念そうな顔をするな。
まぁわたしとしても聞きたいことは山ほどあったので、こういうのはありがたい。
手始めにあれについて聞いてみようかな。
「孔雀さんはラブレターになんで差出人を書かなかったんですか?」
何気に気なっていることだ。
差出人が分かった以上、必要ないことかもだけどやっぱり気になる。
少し首を傾げたのち、孔雀さんが答える。
「何でと言われても特に理由はないわね、しいていうなら達成感?」
「達成感?」
「そうね、何かをやって終わったときに、達成感を感じてしまって一番大事な部分を忘れてしまう、そんな感じよ」
なるほど、わたしも経験がある。気の緩みというやつなのだろうか。
多かれ少なかれこれと似たような経験した人は多いよな。
「納得してくれたかしら?」
「はい、一応納得できました」
とりあえず変な理由とかじゃなくてよかった。
「そう、ならよかった。じゃ次の質問行きましょうか」
テンポが速いな!
次の質問か。う~ん。
聞きたいことが多すぎて何を聞くか悩む。
「孔雀さんはなんでも答えてくれるんですよね?」
「そうね、私についてなら何でも答えるわよ」
なんでもか……。
よし、なら聞きたいことは決まった。
わたしがずっと気になって仕方なかったこと。
「なんで、孔雀さんはわたしのことが好きなんですか?」
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