第12話 魔法少女ミラクルン その1

「ここが私の部屋よ、入って」


 孔雀くじゃくさんにふすまを開けてもらい、わたしは部屋に入る。


「失礼します」


 中は畳張りの部屋になっていて、部屋の真ん中に机と座布団が置かれていた。

 それ以外は勉強机と本棚だけという何とも孔雀さんらしい部屋である。


「適当に座ってて。飲み物は何がいいかしら?頼んでくるからあるなら教えて」


 頼んでくるって使用人さんとにかな?そりゃいるよなこんな家だし。


「えっと、孔雀さんと同じのでお願いします」


「分かったわ、少し待ってて頼んでくるから」


 襖を閉めると孔雀さんはどこかへ行ってしまった。


 敷いてあった座布団に座り、一人残されたわたしの心は以外にも落ち着いている。

 緊張していないといえば噓になるが、趣のある和の空間が心落ち着かせてくれた。

 それよりもわたしはこの部屋に入った瞬間から気になってしょうがないものがある。


 おそらく孔雀さんの私物と思われる紙のようなものが、押し入れから少しはみ出している。

 わかっている。見てはいけないということくらい。

 だが人は、やってはいけないことをやりたくなってしまう生き物なのだ。


「くうー」 


 わかっている頭ではわかっているんだ、でも体が勝手にその方向に行ってしまう。


 ごめん、孔雀さんわたしの理性は本能に負けたよ。


 わたしは手を震わせながら押入れを開け、はみ出していたもの正体を見る。


 それはアニメキャラが描かれているポスターだった。


 五人の女の子たちが、ピンク、青、黄色、緑、紫のそれぞれに対応した色のフリフリの衣装を着ていて、ステッキを持ちながら可愛らしくポーズをとっている。


「あ、これって……魔法少女ミラクルン」


 魔法少女ミラクルンは戦隊ものや仮面ライダーと同じ、所謂いわゆるニチアサというやつである。


 わたしが幼稚園年長くらいの時にやっていた魔法少女シリーズの中の作品の一つで、シリーズの中でも人気が高く、十年近くたつ今でも語られることの多い作品。(妹情報) 


 わたしも最近、妹の付き合いで子供の頃以来に見返して思いのほか面白くハマってしまった。


 押し入れの中にはポスター以外にも、フィギュア、変身アイテムなどの様々なグッズが飾られていた。


「これ全部孔雀さんが集めたのかな?」


 かなりの量がある。一朝一夕で集められる量じゃない。


 多種多様なグッズが丁寧に飾られていて。そこには作品に対する愛が見えた。


 孔雀さんでもこういったものにハマるのか、なんというか孔雀さんも普通の女の子なんだなぁ。

 そんなことを思いながら飾ってあるグッズを眺めていた。


「……よし、そろそろやめるか」


 ひとしきりグッズを眺め満足した私は孔雀さんを待つことにした。


 そして押入れを閉めようとした瞬間。


「おまたせ、少し時間がかかってしまって、ごめんなさい」


 襖が開いて、孔雀さんが入ってきた。  


 あ、終わった……。


「み、水萌みなも、あ、あなた何をしているの?」

 押入れを閉めようとするわたしの姿を見て動揺した声で孔雀さんが聞いてくる。


 わたし……死んだな。


 水萌陽花 享年十五歳 死因 友達のプライバシーを見たため

 きっとこんなニュースが明日流れることになってしまう。


「水萌、もしかしてあなた見たのね?」


 孔雀さんが鋭い目つきでわたしを見てくる。

 やばい!あれは完全に人を殺す時の目。

 このままでは孔雀さんが人殺しになってしまう、わたしのせいで。

 そうさせないためにわたしができること、それは!


「申し訳ございませんでしたー!」


 わたしは土下座のプロも真っ青の完璧なスライディング土下座をかました。


「それは、見たとゆうことでいいのね?」


 氷山のように冷たく重い声がわたしに伸し掛かる。


「はい、一切の言い逃れをするつもりもございません、死ぬ以外どんな判決でも受け入る所存でございます」


 孔雀さんに嘘ついたってばれるのがオチ、ならば一切のウソ偽りなく正直に話して誠意を見せる。そして殺人以外の対価をこちらから差し出す。

 わたしは畳に頭をこすりつけ判決をまった。この判決がどんなものでも受け入れる所存しょぞんである。


「はぁ、見てしまったならしょうがないわよ、とりあえず顔上げなさい」


 わたしに与えられた判決は、有罪ではなくまさかの無罪だった。


「え?怒ってないんですか?」


「もちろん怒っているわよ勝手に見られたもの、でもあなたがなんでも受け入れるというから、それを手に入れたと思えば安いものよ」


 なるほど、執行猶予付しっこうゆうよつきでしたか。


「後で何かしてもらうから、とりあえず今は座りなさい」


「はい」

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