花束のような恋をする

虹色タニシ

第1話 ラブレターをもらいました。

 六月も下旬になり、夏の到来を感じつつある今日この頃、このわたし、水萌陽花みなもはなにすこし遅れた春が到来した。


 わたしは人生で初めてのラブレターを貰ったのだ。

 今朝上履きを取る際に、下駄箱を開けると中にそれは入っていた。

 ピンク色の封筒にハートのシールで閉じている、とても可愛らしいラブレターだった。


 わたしはラブレターを下駄箱から取り出すと、スパイ顔負けの潜伏技術で、だれの目に触れることもなく、人気のない階段の踊り場に漕ぎつけた。

 そして今、ラブレターの中身を確認するべく、恐る恐る開封しようとしている。


 というか、わたしが勝手にラブレターと決めつけているだけであって、これがラブレターではない可能性は大いにある。

 むしろそっちのほうが可能性が高いんだよな。


 平凡という言葉を鍋で煮詰め、余分なものを蒸発させ最終的に残ったもの、それがこのわたし水萌陽花である。

 特別な才能もない、基本的に何処をとっても平凡。それがわたしである。


 そんなわたしが手紙、ましてやラブレターをもらう義理なんてものはないわけだ。

 正直、この手紙の中に書いてある内容が『ドッキリ大成功!期待した?期待した?全部うそだよー、やーいひっかってやんのバーカ』と、書かれていても特別驚きはしない。

 まぁもちろん傷つくけどね!


 いやなんでわたしこんな卑屈に考えてんの!初めてもらったラブレターだぞ、もっとポジティブな気持ちで開けよう。

 うん。そうしよう。


 わたしはラブレター(仮)を持ったまま、両手をグッと握り開ける決意を固める。

 だがわたしという人間は、相当優柔不断らしく、開けるぞ!と思えば思うほど、接着剤を付けられたみたいに指が動かなくなる。


 そうしてわたしはしばらくの間、一人で葛藤をしていた。

 ……えぇい!考えたって仕方ない!後のことは後になって考えよう!

 わたしは今度こそ、固く決意を持ち、半分やけくそになりながら、手紙を開封する。

 ハートのシールを剥がし、封筒の中から二つ折りになっている便箋を取り出して、思い切り広げ内容を確認する。


『水萌陽花さんへ 

 突然お手紙で驚かせてしまったらごめんなさい。

 どうしても伝えたいことがあって、このお手紙を書きました。

       私はあなたのことが好きです。

 いきなりこんなこと伝えられて、きっと困らせてしまうと思います。

 でも、少しでもわたしの気持ちが届いてくれたら嬉しく思います。』


「──────っ」


 あわや、叫びそうになる口元を両手で抑え、私は心の中でめいいっぱい叫ぶ。

 ほ、本物のラブレターだぁぁぁぁ!

 嘘⁉ホ、ホントに!?このわたしが⁉


 興奮のあまりその場で踊りだしてしまいそうな衝動を抑え、わたしは何度も喜びを噛みしめるようにラブレターを読みかえす。

 一文字一文字が、まるで伝統工芸のように端麗で端正な文字で書かれていて、これがまぎれもなくラブレターであることを証明していた。

 

読み返せば読み返すほど、口元のにやけが止まらなくなっちゃう。

なんといっても人生で初めてもらったラブレターなんだ。

にやけるなというのが無理な話でしょ!

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