第7話 優斗は前へ進む
優斗は学校帰りに真庵に立ち寄って、さつまいもの天ぷらを食べていた。店の前に椅子が三脚並べてあるので、一つに荷物を置き、一つに座って食べていた。真庵のさつまいもの天ぷらは、優斗にとってはどこの店よりも、衣がサクサクで中のさつまいもがしっとりで甘かった。
「優斗、そこは待っているお客さんが座るところなんだからね」
「来たら、すぐどく」
食べるのに夢中だった。
「ふん。勉強の調子はどう」
「悪くはないと思うんだけど、よくわかんない」
「推薦入試ってのは受けないのかい。最近はそれが流行りなんだろう」
優斗は返事をせずに口を動かし続けると、口の中のものを飲み込んだ。そして、勢いよく立ち上がった。
「よく知ってるなあ」優斗は苦笑した。「オレ、推薦してもらうほど学校の成績が良くないんだよ。成績が関係ない推薦もあるんだけど、まあ、それもいろいろと難しい点があって。それに、まだ、ここを出ることを決心できたわけじゃないんだ。何をしたいのかもわからない。だから、とりあえず、これまでの不勉強を取り返すつもりで、入試までは一生懸命に勉強をして、それで合格できたら、そのとき考える」
「そうかあ、えらいね」
「何がだよ」
優斗は唇を突き出した。
「前向きだと思うよ。なんだかんだと言って勉強もしてるようだしね。私も見習わなきゃねえ」
「マーちゃんが俺なんかを見習うことは、何もないよ。反対はあっても」
「どうだかねえ」
いつもと違って煮え切らないマーちゃんの反応を、優斗は意外に思った。
「オレ、この前、マーちゃんと話して思ったんだよ。オレ、母さんに甘えてるのかなって。あ、何を言ってるのか、わかんないよね。母さんはオレが小六のとき死んだじゃない。覚悟してたつもりだったけど、本当に悲しくて、でも泣けもしなくて、それがずっと胸の奥にしこりみたいに固まってたわけ。だから、心の中のどこかで、学校に行けないのもしかたない、勉強が手につかないのもしようがない、って自分に言い訳してたんだと思う。そうして、母さんがいた頃の思い出に浸っていたんだ。それを、この前、マーちゃんに教えられた気がする。このままじゃいけない。前に進まなきゃいけないって」
「私、そんなこと言ったっけね」
「いや、はっきりそう言われたわけじゃないんだけど、母さんに説教されたような気分になったんだよ。おかしいよね」
「優斗、あんたは偉いねえ。本当に偉い。それは、あんたの胸の内から湧き上がってきたもんで、私が言ったことじゃないよ。本当に偉い」
「いやあ、語っちまった」
優斗は照れて、頭を掻いた。いつもの癖だった。優斗は、語るだけ語ると、鼻歌を口ずさみながら帰っていった。
マーちゃんは、誰もいなくなった店頭に視線を彷徨わせると、ひとり珍しく物思いに耽った。
「前に進まなきゃいけない、か──」
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