第4話 橋の上での出会い
優斗は大鷺川にかかる白戸橋の上で、川が流れてゆくその行き先を眺めていた。橋の欄干に両肘をついていた。白戸橋は、大鷺川に沢山かかっている橋の中で一番河口近くにかかる橋なので、流れる先に目をやると、海と川との区別がつかなくなる。
橋の上では、凪の時間を除いて、風がいつも吹いていた。優斗は幼い頃から、その風に吹かれるのが好きだった。言葉にできない気持ちが入り乱れる時は、この橋の上で、辿り着く先の見えない川の流れを見ていた。
「優斗じゃないか。どうしたの」
優斗はその声に驚いて、聞こえてきた方角を振り返った。
「マーちゃんこそ、どうしたの。お店はいいの」
「土曜日だよ。午後は店を閉めてるよ」
マーちゃんは悪戯っぽく笑った。
「そっか。俺も今日、午前中、授業だったんだわ」
「じゃあ、どっかで遊んで来たのかい」
夕方に近かった。マーちゃんは、優斗の横に来て欄干に寄りかかった。優斗は、それを意外に思った。
「暇なの?」
優斗はマーちゃんの方に顔を向けて尋ねた。マーちゃんは笑ったままだった。凪が終わったのか、マーちゃんの髪が風に揺れた。二人ともその場から立ち去ろうとはしなかった。優斗は、それを不思議と気詰まりには感じなかった。
「優斗は、お母さんと、よくここに来てたんだよねえ」河口を見つめたままで言った。「あ、この話はしてもよかったのかな」
「もう小学生じゃないから」
優斗は苦笑した。
「高校生も終わるよね。卒業したら、どうするの」
マーちゃんは川を見つめたまま言った。優斗は、マーちゃんが横に来たときから、進路のことを訊いてくるような気がしていた。そして、優斗自身も、今、そのことを訊いてほしいと思っていた。マーちゃんに話すことで、気持ちを整理することができるような気がしたのだった。
「担任がさ、東京か関西の大学に行けって言うんだよ。びっくりするでしょ。通るかどうかもわかんないのに」
「へえ、すごいねえ。あんた、頭いいんだねえ」
「いやいや、全然そんなことないって。東京とか行けって言われても、これから勉強してからの話だし。そもそも、地元を出ることなんて考えてなかったし。オレ、ここが好きなんだ。離れたくないって気持ちが強い」
「じゃあ、悩む必要ないじゃない。ここにいればいいよ」
「そ、そうだよね。オレ、地元好きなんだよ。さっき、マーちゃんも口にしたけど、小さい時は、母さんとここによく来たよ。ほら、あっちの川べり」優斗は、マーちゃんが来た方向と反対を指さした。「母さんは、あそこで夕焼けを見るのが好きだった。オレもずっと、そうしていたいんだ」
「そうかあ。じゃ、あっち行ってみようか」
マーちゃんは、そう言うと、返事を聞かずに歩き始めた。
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