詐欺師②

 あんた騙されたわね。


 ソニアさんのその言葉に俺は首を傾げた。

 騙されたって、何が?

 そりゃあ一度は金ネズの魔石をポッケナイナイされそうになったけど、ちゃんと見抜いて分配し直したんだし。

 何も騙されてないと思うけど。


「チュートリアルなら50ストーン払えば済むのに、それ以上に巻き上げられてるじゃないの」

「え、でも白ネズ10匹はダニエルさんが倒したし。宝箱の鍵開けしてくれたし」

「それでも払いすぎよ。いい? 白ネズの魔石は1個3ストーン、銀ネズの魔石は6ストーンなの」


 スライムの魔石は1個1ストーンだから、3倍と6倍だ。


「白ネズ魔石10個はあいつが倒した分として、余分に20個渡してるからこれでまず60ストーン払ってるわね。銀ネズの魔石と合わせて66ストーン渡したことになる。すでにチュートリアル分を16ストーン超過してる。宝箱は全部で23個出たわけだから、1個につき手間賃1ストーンとして23ストーン。差し引きして7ストーンだけ払えばよかったのに」

「え」


 宝箱開けるのってそんなに手間賃安いの?


「難易度高い罠付きならともかく、ネズミの宝箱なんか罠も鍵もないか、あってもちゃちな物なんだからタダでもいいくらいよ。なのにお金の代わりに金ネズのドロップアイテムで手を打ったのよね。多分それウルトラレアよ」

「ウルトラレア!?」

「未踏破エリアに入れるキーなんでしょ」

「そう言ってましたけど」

「未踏破エリアってね、まだ誰も足を踏み入れたことがないのよ。そこに入るためのアイテムをこの世界で初めて手に入れたとなると、オークションに掛ければ何千って値がつくわよ」

「何千!」


 日本円で言ったらウン十万円!


「売らずに自分で使えば手つかずのお宝を取り放題よ。どっちにしても大儲けね」

「それを俺は巻き上げられたんですか!?」

「合意の上で分配した形になってるから、処罰もできないし、アイテム現物を第三者が鑑定してないから『安物だ、値打ちはなかった』と主張されればそれまでなのよね」


 なんということだ。


「だから言ったでしょ。騙される覚悟で行けって。赤字にならなかっただけマシよ。これも勉強だと思いなさい」


 そうだよ……チュートリアルだったのに、なぜか一般的なパーティーの場合の分け方を説明されて……なんとなくそうするのが当たり前な気になっちゃって。

 騙された。

 シーフなんか、シーフなんか、大嫌いだぁー!!




「……ふう、飲んで忘れよう。エール下さい」


 グビグビ。

 ぷは~。


「仕事の後のお酒はウマい」

「それノンアルよ」

「え」

「肉体年齢15のお子さまに酒飲ますわけないでしょ」

「騙されたー!!」






『詐欺師』ダニエル

職業:シーフ

敏捷:最高

物理攻撃:やや強い

特技:鍵開け

使用武器:ナイフ、ピック

習得魔法:キャンディボイス

性格:柔和な態度で初心者を利用して美味しい所を掠め取って行くマイルド詐欺師。

雇用料金:50ストーン/日




『キャンディボイス』:甘い声を聞かせた相手に状態異常『魅了(微)』を付与する。付与された対象は軽微な魅了状態となり、術者の提案に乗りやすくなる。




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