第18話
背中に突き付けられたのは何かわからないが、パトラッシーの様子を見ると、あまり良い状況になさそうなので剛は諦めた。
「騒ぐとここで刺す」
物騒過ぎるし、いざというときのパラメーターの数値も振り分けていない。剛は機会を見て何とかできないか探りながら、その者の指示に従って、人の目に憑かない路地脇に移動した。
「お前、秋野だな? その犬は昨日の夜に会った駄犬……そう、前の世界にもいた駄犬」
フードをかぶっているが体つきは女。そして剛のことも前の世界の犬のことも気づいていると考えると、タイミング的に加藤茂樹の女・多田敦子しか考えられない。
剛はウインドウをシークレットモードにして確認すると、やはり多田敦子だった。窃盗が2件増えて14件になっている。併せて所持Gも300ほど増えている。ついでに加藤茂樹を確認すると殺人が2件と所持Gが増えていたので、やはりクズなのだろうと確信した
「……」
「だんまりかよ。でもな転移しても顔は変わらないから黙っててもわかるんだよ。高校でも有名な貧乏人の秋野だってな。ショボい同士学校でもお前たちは一緒だったよな?」
多田敦子の言う通り、異世界転移しても顔は変わらなかった。見られるとバレるのは仕方なかった。もちろん加藤や多田もシゲキやアツコという登録にしても変わりはない。
「じゃあ、お前も多田敦子だってことで良いんだな?」
剛はわかっているが、フードをかぶって正体を隠しても「俺はわかってるぞ」とけん制するために応えた。貧乏と言われたのも事実だが、改めて言われると腹が立っていた。
「……やっぱ、昨日、駄犬と一緒にいたのはお前だったのだな」
フードは脱がず、剛に顔を近づけ、にらみを利かせ声色を低く威嚇するように多田敦子は寄ってきた。
姿を隠さなければならない、正体をバレてはだめなのは、窃盗と加藤の仲間としての警戒感からだろうと剛は感じ取り、下手に出る必要はないと考えた。
「加藤と一緒に悪事を働いてるのは俺の耳に入ってるから、このまま突き出しても良いんだが?」
自分のパラメーターがバレていることは無さそうというのも感じた剛だったので、あくまで対等、もしくは犯罪をしてる方が困るだろう、と言葉で威嚇した。
「……っ!」
優位性が無くなってるのを感じた多田敦子は「チッ」と舌打ちをしてフードを外した。剛は思う。どうしてヤンキーに分類されて持てる女はそれなりに美人なのかと。二重で鼻筋も通って、異世界に来たからなのか髪の毛は綺麗な金髪になっていて、もちろんスタイルも良く、スレンダーではあるが程よい女性らしい肉付きで、この現地衣装なのか、胸の谷間が見え、胸の立体感もわかる恰好をしている。
舐めまわすように見てたわけではないが、視線を感じた多田敦子は改めて舌打ちと「キモ」という言葉を足した。ヤンキーとはいえ、剛も高校生で一人暮らしと生活を何とか回している人間なので、それなりに筋肉も精神年齢は同学年より上にある。「キモ」くらいでは堪えない。
「広場でその駄犬と加藤を見てただろう?」
パトラッシーのことだが、直前喋ってたのを聞かれたのならマズイ。昨日のことが色々筒抜けになってるとか、疑われることも増えるので面倒だと剛は思った。しかし、そういうことではなさそうだった。
「昨日の夜、その犬と会ってから調子が出ないんだ……茂樹も。駄犬のせいならこっちに引き渡してもらおうかと思ってな」
「はぁ? 犬が何かできるわけないじゃん。お前大丈夫か?」
剛はしらばっくれることにした。パトラッシーも空気を読んで、壁に放尿したり、穴を掘り始めたりアホであると証明する行動をとり始めた。
幸いなことに多田敦子のINTの数値は1のままである。何か考えたい様子があるが、まったく考えがまとまらず頭を抱えている。
「……そう、だよな。でもな……」
それ以上考えることはできない。INTが低いとどこまでの頭脳なのかが剛もわからない。ただ犯罪者に情けは感じないので、だからと言ってパラメーターの数値を戻してやろうとは思わない。
ある程度の経験があると、それを活かして純粋な1という数値以上の考えはできるんだろうと思った。が、しかし、剛自身、自分が全て1なのにそこまで馬鹿ではないのは何故なのか、いずれしっかりと考えなければならないと思っている。
「それで、お前は何で俺たちに声をかけてきたんだ?」
「茂樹が捕まった……」
「あぁ、そうだな」
「芋づる式に私が捕まって、秋野、お前が転移者とバレたらどうなる?」
「……それは脅しか?」
剛もバレて詮索されたら困る。できればまだ静かに生きたいと思っている。ギルドに登録したものの、それは生活費を稼ぐための手段で、「俺ツエー」みたいな展開をしたいわけではない……できれば隠れて稼ぎたいと今のところ考えている。
「どう取ってもらっても良いが、私も茂樹と同じく昨日から調子が良くない。そしてこの世界で食っていける手段が欲しい」
この「良くない」と言っても窃盗が増えているので、剛は全く信用していない。もっと地獄へ落とせないかと考えてしまっている。その中、非人道的だが、犯罪者にはうってつけがあるのではと思ったのが、風俗落ちだった。古(いにしえ)の職業なので、調べていないがおそらくこの世界にもある仕事だろう。人に頼ったパラサイトな考えを持った多田敦子を、自分の力で稼げるようにするのも剛にとって優しさなのでは、と。また地下マーケットに紹介することで、剛は得られるGではあるのでは……とダークな考えに至った。改心しそうな様子もあるが、犯罪が消えるわけではないというのが剛の考えである。
「食わしても良いが、俺は転移者とバレたくないし、行動を制限されたくないので、俺の行動を邪魔しなければ」
それを聞いたパトラッシーは剛を「どういうつもり?」と二度見した。剛もそれに気づいて、大丈夫と目配せした。
「すまない……」
やや不貞腐れているが、多田敦子も現状納得するしかなかった。盗みを2件したが、危うく捕まるところだった。さらに考えがまとまらず、どうも冴えない。その調子が戻るまでは、頼れるものは頼りたかった。
剛は飯でも食わせて、数値をさらに奪ってとにかく弱くしておけば何とかなるのではと。できれば今日中。剛は自分のステータスと能力がバレる前に地下マーケットか闇風俗へ紹介できないか探ろうと思っていた。
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