第17話

 上長らしき人はギルドマスターだった。


「正直、登録はせずに、お世話してくれる方と一緒に平和に過ごされるのが一番よろしいかと」


 完全に諭すモードになっている。


「この相棒(パトラッシー)もいるので大丈夫です!」


 剛は別室にも付いてきている相棒の頭をドヤ顔で撫でた。こういう時は堂々としてるのがむしろ良いのではないかという考えである。コンビニでも頭がおかしそうなお客は、ほどほどの注意で帰ってもらうこともあった(だいたいが警察を呼ぶのだが)。


 ではなく、5,000,000G(日本円で50億円)で買った【神々の野望ーアップグレードキットー】というアイテムがあるから何とかなるんだけど、それは言えず。


 ギルドを開設以来「断らない」とモットーにしてきた良識あるギルドとギルドマスターだが、剛の数値を見ると、1回目の冒険で帰宅できない可能性しかない。ギルドマスターは受付嬢に耳打ちして、退出させた。


「ふぅ……どうしても、ということであれば、弊ギルドは断らないことを信条にしているので登録いたしますが、条件を出させてください」


 ギルドマスターは大きなため息をつき、いくつか提案を話し始めた。


「冒険に出るときは、必ず他のパーティに参加いただいて、その随行として参加すること。パーティのリーダーの指示に従うこと。それでも何か事故があった場合、パーティが責任を負わず、アキゴーさんの自己責任とする。その際、弊ギルドは責任を負わない……と言っても何かしら処理はあるのですが。また能力を上げる際に犯罪行為はしない」


 要は一人で冒険行くな、責任は自己責任ということである。


「わかりました! そちらで大丈夫です」


「……本当に良いのですね? あまり例に無いのですが念書をいただいたもよろしいでしょうか?」


 指示を出されていた受付嬢が戻ってきていて、その書類をテーブルに差し出した。剛は迷わず、ギルドマスターの気が変わらないうちにとサインをした。


「これで、弊ギルドが登録したことになります。ランクは当然ですが最低ランクのFスタートにさせてください」


「問題ないです。では……」


 剛は色々とバレる前に席を立ち、去ろうとしたのだが「最後に」と止められた。


「少し気になったのですが、各パラメーターは1なのですが、Lvだけ4になってるのはなぜですか?」


「それですか……」


 ここで躊躇して答えないと、怪しまれると踏んで、剛は口から出まかせで答えた。


「この町の手前でホーンラビットに出会ってしまって、落とし穴に落ちてくれたおかげで、それで俺のレベルが上がったみたいで」


 剛は証拠に魔石を取り出して「可能なら監禁していただけるとありがたいです」と渡した。


「たしかに……魔石ですね、倒したのに、各パラメーターは上がらなかったと?」


「そういう体質なのかもしれません」


「体質ってことは無いと思いますが」


 ギルドマスターは受付嬢に確認したが「鑑定ボックスは壊れていませんでした」とのことだったので、剛の数値は確定したものということだった。


「……うーん、まあ悩んでも仕方がないので、くれぐれも無理はしないでくださいね。約束ですよ?」


「了解しました!」


 受付嬢はFランクカードを渡して、剛とパトラッシーをつれてロビーへ案内した。出て行くときもギルドマスターは「こちらの言ってることが理解してくれているようだし、会話も問題ないから、INTの数値が1ってことは無いと思うんだけどな……」とブツブツつぶやいていたが、剛にすると、これでやっとこの世界を楽しめる、とワクワクしていた。


 ランクはSSS、SS、S、AAA、AA、A、B、C、D、E、Fなので本当に底辺であるが、剛はそれでも嬉しかった。


 ロビーに降りると、特別扱いされたからなのか、ギルドメンバーたちが一気に剛へと視線を向けた。


「おう、聞いたぜ、坊主」


 筋肉馬鹿っぽい大男が声をかけるとき、ギルドでこういうからみは、バカにされてしまう展開である……が、そうじゃなかった。


「おい、お前たち!」


 さらに周りのギルドにいた人物たちを煽る。


「みんなも知ってるが、今日から俺たちの仲間になったこのアキゴーは、数値が1ばかりと判明した!」


 剛が「恥ずかしいのでやめてくれー」と思っているが、この大男は止まらない。


「俺たちがサポートしなくて、何がギルドメンバーだ!」


「え?」


「少しでもみんなでこの挑戦者を盛り立てようじゃないか!」


 他のギルドメンバーは盛り上がる。


「え、え?」


 剛は絶対馬鹿にされて酒の肴になると思っていたが、真逆だった。メンバーからは「死ぬなよ」「お金なかったら奢るからね」「魔法覚えられるようになったら教えるね」など励ます声が止まらなかった。


 剛は照れ臭くなってしまい、「ありがとございやす、ありがとございやす」と愛想笑いをして、そそくさとギルドの外に出た。


「逆に目立ってしまったな」


 パトラッシーの慰めは剛にとって悲しいだけだった。


「レベルが高いと注目されるとかって展開はあるけど、低くてもここまで目立つと思わなかったわ。バカにされるとか、喧嘩売られると思ってたけど、それも無かったし。ってかギルドの依頼掲示板見れなかったし……」


 といっても、これだけギルドで目立ってしまったので、当分はギルドでも依頼受けるの難しそうに感じたし、何をやろうか、剛は悩んでしまった。


「所持金も25Gしか無いしな」


 さっき魔石を売って1Gを得ていたが、心もとない。「何とかしないと」とブツブツ言ってたら、周囲がざわつき始めた。


「昨晩の奴だ」


 パトラッシーの鼻が利き、昨日見たシゲキなる加藤茂樹がそこに居るとわかった。


 偉そうにしていた昨晩と違って、両手は縛られて警備兵に囲まれていた。


「あのゴロツキ、やっと捕まったんだ?」


「また盗みをしたんだって?」


「なんで今回は捕まったんだ?」


 遠巻きに見てる者たちの反応を見ると、あまり好ましく思われてなかったのがよくわかる。今までは逃げ切れてたのだろうだけど、剛が数値を弄ったことにより逃げ切れなかったんだろう。もしかしたら何も取れなかったかもしれない。捕まるのも容易だっただろう。


「しかし、どうして加藤だけ捕まってんだ?」


 剛は不思議がって見てた中、背中に何か鋭利なものを突き付けられた感覚があった。


「おいお前、黙ってついて来い」

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