リセット5,000回しても全能力1なので、あきらめて創造主としてパラメーターをイジリます

玉川稲葉

第1章

第1話

「異世界って、北海道の麦畑みたいなんだな……」


 と、まだ17年しか生きてきていない、秋野剛は思い耽っていた。


 目の前には青々と実っている穂が一面に広がっていて、先の方には風除けのような木々が並んでいる。


 どうしてそれで「異世界」だとわかったのかというところだが、剛の目の前に、角の生えたウサギが飛び跳ねている。


 腕を組み、考え込むが、おそらくいままで生きてきた現実ではないどこか、ということで、仮定として異なる世界であることを認識するに至った。


 ちなみに、北海道に行ったことは無く、テレビ番組で見たことがある程度の知識である。麦畑もラベンダー畑も剛は現実に見た事がない。住んでる東京ではないということは間違いなかった。


「それで、なんで俺はここにいるんだ?」


 穂の間から、角の生えているウサギがニコニコ可愛くこちらを見ている……状況ではなく、目は三角で血走っていて、歯茎むき出しに牙を出し、よだれを垂らしつつ、グルルルと睨んでいる。


 それゆえに、剛は目を離すことができない。逸らした瞬間に襲ってくるのではないかという危機感がプンプンしている。


「……たぶん、戦ったら負けるよな」


 初期装備であろう棍棒すら持っていない。もちろん他の道具もない。


 急に出現した剛がイレギュラー過ぎて、角の生えたウサギは興奮していると予想できるが、剛も好きでここに出現したわけではない。


 つい10分ほど前は、夜の学校に忍び込んでいた――はずだった。


「バイトの前に、忘れ物を取りに門を登って飛び降りたら、この麦畑にいたわけで、そしてウサギが怒っている?」


 冷静に整理しているが、事実なのだが、頭が追いつかない。


 時間も夜だったはずが、ここは朝っぽい空気を感じる。


「畑の匂い、自然の香り、あぁマイナスイオン……って場合じゃないよな」


 目の前のウサギは警戒モードを解いてくれない。ポケットには気を散らせるお菓子も入ってない。


 普通のウサギなら警戒心が高いだろうから、目の前に人がいると噛みついてくるよりも逃げるはず。だがこのウサギは闘争心が溢れている。剛は本能的に勝てる気がしなかった。


 一歩、後ずさりをしてみた。目の前のウサギはまだ剛を見ているだけで動く気配はない。さらに一歩下がってみたが追いかける様子がない。


 さらに睨み合いが続くかと思われたが、角の生えたウサギは警戒を解き、振り返り、剛とは違う方向へあっさりと引き下がっていった。


「ふぅぅぅぅ」


 深いため息をついた。剛はなんだかよくわからない世界に来て、いきなりゲームオーバーだけは勘弁したかった。


「もしかして、異世界転移ってことか? なんてね」


 とテンプレワードを言えるくらい余裕のがある自分におかしくなった。


「しかし……さっきのウサギはホーンラビットみたいな存在ってことか」


 おそらく駆け出し冒険者レベルのモンスターなのか、と思うと、それすら躊躇してしまう自分はここで生きて行けるのか、今になって不安が襲ってきた。


「なんでこんなとこに飛ばされたんだ? 俺は高校に通う17歳。年齢誤魔化して深夜のコンビニバイトで生計を立てる苦学生だったはず。人生ハードモードと思ってたが、神はさらに異世界でベリーハードモードを生きろと?」


 悩もうと思ったが、後ろで穂が揺れる音が聞こえたので、振り返った。


「あ……」


 そこにいたのは、二本足で立ち上がっていた熊。


「あぁ……なんだっけ、モンスターだったらグリズリーとか言うんだっけ?」


 今度は目線を逸らさないなど考えている間もなく、瞬殺だった。


 グリズリーは右手を振り下ろし、剛の頭を跳ねのけた。


 ウサギが逃げたのはこのグリズリーを察知したからだった。


 17年の走馬灯も見る間もなかった……はずだったが、剛の頭の中に語り掛けてくるものがあった。


「やっぱ幸運も無いからダメか~。うーん、どうもうまくいかないので、リセットしますね」


 グリズリーの手で頭が飛ばされたはずなのに、痛みもなく、今の状況もわからない剛は、ため息交じりの声に誘われ、ふわふわとした気分で記憶が途切れた。

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