第11話:前島さんに介抱されていく

 それから少しして。


「い、いてて……」

「無茶し過ぎよアンタ。ほら、顔こっちに向けなさい」

「あ、あぁ、わかったよ。いつつ……」


 俺は前島さんに半ば強制的に近くの公園に連れていかれて、そして公園内にあるベンチに座らされていった。


 それから前島さんはハンカチを水で濡らして俺の怪我してる所を綺麗にしていき、学生鞄から絆創膏を取り出して怪我の部分にペタペタと貼っていってくれた。


 という事で俺は今現在公園内のベンチに座りながら、同級生の前島さんに応急処置をして貰っている所だった。


(それにしても何だか不思議な感覚だなぁ……)


 13年前は接点なんて一つも無かったスクールカースト最上位のギャル女子に手当をして貰っているというのは、あまりにも不思議過ぎる感覚だよな。


「はい、とりあえず応急処置は終わったわよ。それとハンカチも貸してあげるから、それで患部をちゃんと冷やしときなさい。家に帰ったらしっかりと消毒して手当しなさいよ」

「あぁ。ありがとう、前島さん。ハンカチもありがとう。だけど俺の血でかなり汚しちゃったから、新しいのを買って返すよ」

「そんなの気にしないで良いわよ。ま、洗って返してくれればそれで良いわ」

「わかった。それじゃあ洗って来週中に返すよ」

「ん」


 そう言って俺は前島さんからハンカチを受け取っていった。しっかりと丁寧に洗って来週中には前島さんに返そう。


「それにしても警察に行かなくて良かったの? 私、アンタがアイツにボコられてた事余裕で証言してあげるわよ? アンタに有利になる事なんでも証言してあげるわよ??」

「いや、別にいいって。警察沙汰になると保護者とか呼ぶ必要になるだろうし、そうなると色々とメンドクサイからさ」

「ふぅん? よくわからないけど、まぁアンタが別にいいっていうなら気にしないわ。というか今更だけど、どうしてアンタはこんな所にいるのよ?」

「? こんな所って?」

「いや、アンタって学校帰りにフラっと新宿に来るようなタイプの男子じゃないでしょ。オタクなんだからアキバとかそっちに行くタイプじゃないの?」

「あ、あぁ、そういう事か。いや、まぁ何というかさ……俺もやっぱり年頃の学生だし、せっかく都内に住んでるから有名な都心駅を見てみたかったっていうか……まぁ、そんな感じだよ。だから今日は生まれて初めて新宿に来たんだよ」


 俺が新宿に来た理由を語っても絶対に信じて貰える訳はないので、俺はそれらしい嘘をテキトーに並べて誤魔化していった。


「そうなんだ? ま、確かにせっかく都内に住んでるんだから、普通ならこういう場所に行ってみたいって気持ちになるわよね」

「そうそう。そういう事なんだよ。そんで今日は初めて新宿にやって来たら、偶然にも前島さんと出会ったっていう感じなんだ。というか今更だけど、そういう前島さんこそ何で新宿にいたんだ? 放課後に遊びにでも来てたのか?」

「いや違うわよ。私はバイトがあって新宿に来てたのよ。私、さっきの道の裏通りにあるカフェで働いてるのよ。それでバイトに行く途中にアイツに出くわしたってわけよ」

「へぇ、そうだったんだ? ……って、え? それなら前島さんバイト行かないとマズイんじゃないか? 俺の看病なんてしてる時間は無かったんじゃないのか?」

「まだ時間はあるから大丈夫よ。あと10分くらいしたら流石にバイト先に行かなきゃマズイかもだけど……まぁでも助けて貰ったからにはアンタの手当くらいしないと人としてダメでしょ? 貰った恩はちゃんと返しなさいってお婆ちゃんにいつも言われてるしね」

「はは、そんな事を言ってくれるなんて良いお婆ちゃんだな。そしてそれをちゃんと守ろうとするなんて、前島さんって意外と律儀な人だったんだな」

「……どういう意味よそれ?」

「えっ? あ、い、いや、すいません……」


 前島さんはジトっとした目つきで俺の事を見てきた。今のはどう考えても俺の失言だったのですぐに謝っていった。


「ふん。まぁ別に良いわよ。アンタにはそう思われても仕方ないわけだしね。というか……そもそも何でアンタは私の事を助けたのよ?」

「ん? 何でって? どういう事だよ?」

「いや、その……だって私、今日とか学校でアンタに酷い事を言ったでしょ? アンタに嫌われても仕方ない事をズバっと言ったはずよね? それなのにどうして私を助けたのよ? 酷い事を言った私を助ける義理なんてアンタに無いはずなのにさ……」

「はぁ? いや前島さんが何を言いたいのかよくわからないんだけど……そもそも誰かを助けるのに理由なんていらないだろ?」

「……え?」

「何でそんなキョトンとした顔してるんだよ? いや普通に考えてさ、困ってる人が目の前にいたらさ……そんなの助けなきゃって思うのが普通だろ? だから俺は普通の行動を取っただけだよ。人を助けるのに理由なんて別に要らないって事さ」


 俺はキョトンとしてる前島さんに向かってそう返事を返していった。俺は見返りが欲しくて助けた訳じゃない。困ってる人がいたら助けようって思ってるだけだ。


 だからあの時も……子供が車にはねられそうになった時も、俺はあの子を助けなきゃという一心で身体が動いたんだ。そこに何か見返りが欲しくて助けようとした訳では決してないからな。


「……何よそれ? 見返りがなくても助けようとするなんて……アンタって変なヤツね」

「はは、そうだよ。前島さんは知らなかったのか? 俺って学校内では変なヤツって評判らしいんだぜ?」

「ふふ。何よそれ。アンタってそんなノリの良い冗談を笑いながら言えるヤツだったんだ? ふふ、まぁでも私がアンタを笑う資格なんてないわよね。今更になるけど今日は学校で悪口を言ってごめんなさい。それと助けてくれて本当にありがとう。今日はアンタのおかげで助かったわ」

「あぁ、どういたしまして。だけど前島さんは今日は酷い目に遭って災難だったな。というかあのチャラ男って結局一体何だったんだ? 前島さんの元カレっての本当なのか?」 

「えぇ、本当よ。アイツはちょっと前まで付き合ってた元カレよ。去年に東都大学の文化祭に遊びに行った時に知り合って、そこからしばらくして付き合い始めたのよ」

「へぇ、そうだったのか。あのチャラ男とは大学の文化祭で出会ったのか」


 という事でやはりあのチャラ男は前島さんの元カレのようだ。


 それと高校生の前島さんが東都大学の生徒とどうやって知り合ったのかなって思ったんだけど……なるほどな。あのチャラ男とは大学の文化祭で知り合ったのか。


「えぇ。それでアイツと付き合い始めてしばらくしてから同棲もしてたんだけど……一か月前にアイツが私に隠れてコソコソと浮気してたのが発覚したのよ。それで私がブチギレて大口論に発展していったんだけど、最終的にはアイツが“こんなしょうもない事ですぐキレる女は無理だ”とか言ってきて私を振ってきたのよ」

「え、マ、マジで? そ、そんな逆ギレみたいな事を言って前島さんを振ったとか……中々に最低な男だったんだな……」

「ふん、そうなのよ。まぁでも私もあんな最低男はお断りだったし別れられてせいせいしたから別に良いんだけどね。それでアイツの連絡先は全部ブロックしてせいせいとしてたのに……それなのに今日たまたま新宿でバッタリとアイツと出くわして、急に“やっぱりヨリを戻そう!”とか言ってきたから、それでまた口論が始まったという感じね」

「な、なるほど……そ、それはなんというか……ま、前島さんにとってはかなり災難過ぎる話だな……」

「えぇ、本当よ。はぁ、全く……なんか今までの事を思い出したらまたムカついてきたわ……最後にクソブス女とか言ってくるしアイツ……マジでふざけんなよな……」

「あ、あぁ、そりゃあムカつくに決まってるよな。まぁでも今回の件はアレだったかもしんないけど、でもそんな最低な元カレの事はさっさと忘れて新しい恋でも見つけなよ。前島さんなら次はもっと良い男と付き合えるはずだからさ!」

「……何よそれ? もしかして私を口説いてんの?」

「え? あ、い、いや、違うって! べ、別に口説いてる訳じゃないから!! た、ただその、俺は災難な目に遭った前島さんに早く元気になって貰いたくて、それで全力で応援をしていっただけというか……!」

「ふふ。冗談よ。そんな焦らなくていいわよ」

「へ? じょ、冗談……?」


 俺は焦りながら口説いてないと全力で弁明していくと、前島さんは笑いながら冗談だと言ってきた。


 さっきのチャラ男と同じナンパ野郎だって思われたら流石にショックがデカ過ぎるのでかなり焦りまくってしまったけど……でも冗談のようでホッと安心した。


「は、はぁ、なんだ。冗談か。それなら良かった……俺もさっきのチャラ男みたいなヤツだと思われたらショックだったから、それなら良かったよ……」

「私がそんな事を思うわけないでしょ。あんなクソ男とアンタを同じになんて思わないわよ。……って、しまった。そんなクソ男の話をしてたら、もう10分過ぎちゃったじゃないの。遅刻したら店長に怒られるから、私はそろそろバイト先に行くわよ?」

「あ、本当だ。そろそろバイトに行かないとマズイ時間だな。わかった。それじゃあ俺もそろそろ帰るよ。前島さんはこの後バイト頑張ってくれよ」

「えぇ、ありがとう。そういうアンタは帰り道は一人で大丈夫なの? 良かったらタクシーとか呼ぶ?」

「いや、そんなの平気だよ。普通にピンピンとしてるからこのまま電車で帰るよ。それじゃあまた明日な」

「え? あ、うん。そうね。ふふ、それじゃあ……うん、また明日ね。……大神」


 そう言って俺はベンチから立ち上がっていき、前島さんに軽く手を振っていってから一足先に帰路についていった。


 それにしても何というか今日は怒涛すぎる一日だった。流石にもう疲労困憊だから、今日はアパートに帰ったら風呂に入ってさっさと寝よう。

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