第10話:何とか元カレ男を追い払っていく

「……ア、アンタ……本当に大丈夫なの……?」


 俺は余裕そうな態度で地面から立ち上がったんだけど、前島さんは不安そうな顔をしながら俺にそう言ってきた。


 まぁそりゃ前島さんも不安な顔をするに決まってる。だって俺は今までずっとボコボコにされてた訳だし。


「余裕だって言ってんだろ。心配なんかしなくて全然大丈夫さ」


 でも俺は前島さんに心配をかけないようにするために、笑いながら大丈夫だと言っていった。


 俺はダメージを全然受けてないから元気いっぱいだという様子を頑張って装っていった。まぁでも……。


(くっそ、滅茶苦茶いてぇ!! こ、この野郎……本気でボコスカ殴ったり蹴ったりしやがって!!)


 もちろん俺の身体には滅茶苦茶にダメージが入っている。全身クソ程痛かった。このチャラ男が本気で殴ったり蹴ったりしてきたのが良くわかる程の痛さだった。


 でも俺はその痛みを全力で我慢した。理由はもちろんあのチャラ男に弱いヤツだと舐められないようにするためだ。一種のブラフだ。


 こういうチャラ男みたいなタイプは相手が弱いヤツだと思ったら一生舐め続けてくるからな。そして社会人経験からしてこういう“人間”は舐めてる格下相手の話なんて絶対に聞く耳を持たねぇからな。


 “クソ上司”とか“クソ取引先”とか……マジで舐めてる相手の話なんてアイツら全然聞こうとしねぇからな……!


 だから俺は舐められないようにするためにも、本当はかなり強いヤツなんだと思わせる必要があった。


 そのために俺はチャラ男に幾ら暴行されても、全然ダメージなんて食らってないというフリをしながらずっと笑い続けていったんだ。


 そしてそんなブラフ効果を少し食らったようで、チャラ男はちょっとだけ動揺しながら俺にこんな事を言ってきた。


「ジムで身体を鍛えてるって? はは、そんなのどうせ嘘だろ? それじゃあ何でお前は俺に何にも反撃もせずにボコボコにされていってたんだよ? どうせ本当は身体なんて鍛えて無くてただの弱い雑魚男なんだろ??」

「はぁ? 俺が何でお前に反撃しなきゃいけねぇんだよ? ジムに通ってる理由は暴行したくて通ってる訳じゃねぇよ。身体鍛えるために通ってるんだよ。ってか意味もなく暴行したら犯罪だろう? そんなのもわかんねぇのか?」

「犯罪だぁ? ぷはは、それこそ何言ってんだよ? 俺がお前を殴ったり蹴ったりした証拠なんて何処にもねぇだろ? お前が怪我した理由なんて階段から落ちただけかもしんねぇだろ? ってかテメェさっきから口答えしまくってて生意気過ぎだろ! もっとボコボコに殴ってやろうか!」

「もっとボコボコに? いやもう殴らなくて大丈夫だよ。これだけボコボコにした証拠を残してくれたんだからさ……だからもう殴らなくて十分だよ」

「は、はぁ? 証拠を残したって? 何をいってんだよお前?」

「ん? あぁ、実は俺さ……この状況をずっとスマホの動画で隠し撮りしてたんだ。ほら、あそこに学生鞄置いてあるだろ? ちょっと回収してくるから待っててな」

「……へ?」


 そう言って俺は地面に置いてた学生鞄を回収していった。そしてすぐにスマホのカメラを確認した。ばっちりと俺がボコボコにされてる様子が撮れていた。


 という事で俺はこのボコボコに殴られたり蹴られたりしてた現場をずっと動画撮影してたんだ。そして仰向けで倒れた理由はボコられてる俺の顔がちゃんと動画に残るようにするためだ。


(はは、まぁやっぱり予想してた通り、あらかじめ動画を撮影しておいて正解だったな)


 俺は前島さん達の喧噪の中に突っ込んだら絶対に危ない目に遭遇するという予感があったので、自衛手段としてあらかじめ今までのやり取りをコッソリと動画撮影しておいたという訳だ。


「え……は、はぁっ!? 隠し撮りなんて犯罪じゃねぇか!! な、何を勝手に俺の事を動画に撮ってんだよ!!」

「いや隠し撮りも何も自分の姿を録画してただけだからな。それに今時は自衛のために録画とか録音をするなんて当たり前の時代だろ……って、あ、そっか。そういえばここはまだ13年前だから、今の時代はそんな事をする人はまだまだ少なかったのかな?」


 現代だったら車にドラレコを搭載したり、何か事件とか起きそうになったらとりあえずスマホを手にして録画とか録音とかする人がかなり多いと思う。


 でもこの時代だとそういう自衛手段みたいな事を考える人は、まだそんなには多くなかったのかな?


 まぁ13年前なんて昔過ぎて全然覚えてないけど、でもそういえばこの時代はSNSとかをやってる人はまだまだ少なかった気がするな。だから現代みたいに気軽に動画とか写真を撮ったりする人もまだそんなにいなかった時代なのかもしれないな。


「うんうん、なるほどな。多分まだそういう時代なのかもしれないな」

「お、おい! 何を一人でうんうんと頷いてるんだよ! 俺の話を聞いてるのかよ!?」

「ん? あぁ、すまん。ちょっと昔の事……ってか今の事を考えてたんだ。それでまぁ話を戻すけどさ……俺の盗撮が犯罪だって言うんなら、アンタが俺の事をボコボコに殴ったのも立派な犯罪だからな? こうして証拠もバッチリとあるんだから言い逃れは出来ないだろ??」

「……へ?」

「まぁアンタはただの世間知らずな根暗な高校生のガキだと舐めてたから、調子に乗ってなんも気にせずボコスカと殴ったんだろうけどさ……はは、そんな楽しそうにボコスカと殴っている証拠が綺麗に残っているんだよな? それじゃあどうするよ? ここから歩いて5分くらいの所に交番あるけど一緒にそこまで行くか? こんなにもクッキリとした動画証拠が残ってたらさ……流石にアンタは捕まっちゃうんじゃないかなぁ?」

「っ! そ、そうよ! 私も見てたんだから! だから一緒に交番に行ってアンタが暴行したって証言してやるわよ!!」

「なっ!? か、香織!?」

「前島さんも援護してくれるなんて助かるな。あ、そうだ。そういえばアンタ東都大学に通ってるんだろ? 超優秀な一流大学に通ってるんだな。でもこんな暴行事件が公になったら一発で退学になっちゃうんじゃないかな……?」

「え……えっ!? た、退学!? そ、それはっ……!?」


 俺が東都大学の事を口に出していくと、途端にチャラ男は顔面を青くしていった。どうやら退学になるのは相当嫌なようだ。


 ま、それじゃあここが落とし所になりそうだな。


「はは、まぁやっぱり退学は嫌だよな? それじゃあさ、もしも前島さんに二度とちょっかいをかけないって言うんなら……俺は警察には行かないしアンタの事を見逃してあげてやっても良いんだけど……どうするよ? 警察に行くか前島さんの前に二度と現れないか……どっちでも好きな方を選んでくれて良いぜ??」

「……え? ア、アンタ……それって……」

「テ、テメェ……ぐ、ぐぎぎっ……!」


 俺は最後まで徹底して不敵な笑みを浮かべ続けながらチャラ男に向かってそんな提案をしていった。これで俺達の格付けもバッチリと済んだだろう。


 という事でこうしてチャラ男もようやく負けを認めたようで、ギロっと俺達の方を睨みながらこう言ってきた。


「ぐ、ぐぎぎ……く、くそ! わかったよ! もうちょっかいかけねぇよ! ってかこんなクソブス女に二度と話しかけるわけないだろ! ふん、マジで不愉快だ!! もう帰る! 俺に会ったとしても二度と話しかけてくんなよ! このクソブス女がっ!!」

「なっ!? は、はぁっ!? ク、クソブス女!? って、ちょ、ちょっと!」


―― ダダダダダッ!!


 チャラ男はそんな典型的な捨て台詞を吐いて走って逃げ去っていった。


(ま、見た限り悪ぶってるだけの普通な大学生っぽかったし、結果はこうなるに決まってるよな)


 暴行の証拠はあるし“警察”という単語を聞いたら普通の大学生なら絶対にビビるはずだよな。それでアイツはオラついてはいたけど普通の大学生っぽい感じだったからな。


 だから前島さんに二度とちょっかいをかけないと約束するなら警察には行かないと提案すれば、アイツもその提案に乗ってくれるだろうなと思ったわけだけど……うん、俺の作戦通りに上手くいったようで本当に良かったな……はぁ、まぁでも……流石に……。


「はぁ……流石にしんどー……」

「え? あ、ちょ、ちょっと!?」


―― ドサッ……


 流石に身体の痛みに限界がきたので、俺はその場でペタリと座り込んでいった。


 するとそんな俺のしんどそうな様子を見て、前島さんはビックリとした表情になりながら俺の方に駆け寄ってきてくれた。

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