第5話 鳳条さんと天敵の襲来

 鳳条さんといろいろあった一週間が終わり、土日の休みがあった。

 俺の土日は特になく、呆然と時間を浪費した。


 だが、頭の中には鳳条さんがいた。彼女はどんな休みを過ごしているんだろう。街に出ているのだろうか。趣味みたいなものはあるのだろうか。

 ふわふわした考えが俺の身体に微熱を灯す。


「……。聞く、か」


 単純な話だ。これからもきっと彼女との関係は続く。時間をかけて知っていけばいい。

 ……で、そしたら、俺は、彼女と、つ、付き合う、とか。


 ——好きになっちゃったかも!


 その言葉で狂わされたのは、俺の方、なのかも、しれない。


 ***こけこっこー


 月曜日。

 多くの人が憂鬱に沈む中、申し訳ないが俺は浮足立っていた。

 登校中にもキョロキョロと鳳条さんを探している。……犬っぽいのは俺の方かもしれない。


 が、登校中に出会う事は叶わなかった。いやいや、教室で会うし。


 授業中。彼女がいる。

 喋ったりは出来ないが、見る事は出来る。かわいいな。

 早く昼にならないかな……。


 昼休み。飯だ。鳳条さんと一緒に——。


「かれ~ん。お昼食べよ~」


「うん! いいよ~」


 ——、ああ。

 鳳条さんは俺と違って人気がある。変な噂があることと孤立は別だ。

 彼女には、彼女の世界がある。


「おい、ひさしぶりだな、タカ」


「日向か」


 霞沢かすみざわ日向ひなた。高校からの友人だ。


「なんか最近、あの鳳条さんに付きまとわれて大変そうだったが」


「いや、大変とかはないよ。……うん」


「元気ねぇな。どれ、話聞こか?」


「……、そう、だな」


 この日は友人と昼を過ごすことにした。鳳条さんで頭がいっぱいだった俺には涼やかな風が通り抜けるような、そんな気持ちよさがあった。


「日向」


「おん?」


「ありがとな」


「おう」


 ***学業終わり


 帰る時間だ。鳳条さん……は用事があるかもしれない。


「タカ、帰るか?」


「そうだな」


 友人と帰る事にした。こういう日があるのもいい。

 下駄箱に向かう。ロッカーを開け——。


「ん?」


「なんだどした」


 靴の上に紙切れ、手紙? なんだ、こんなラブレターちっくな——。

 ラブレター? まさか……。すぐに開封する。


「おいおい大変だなぁ?」


「なになに……」


 手紙を覗き込む二人。


『拝啓、鷹取正晴様。お伝えしたいことがあります。放課後、旧化学準備室にてお待ちしております』


「おいおいモテ期すげぇな」


 茶化す日向。だが妙だ。鳳条さんはこんな変な書き方はしないだろうし、用事があるなら直接言うタイプだろう。

 でも場所は旧化学準備室。ここは鳳条さんと俺との隠れスポットだ。ならそこにいるのは彼女のはず。——こういうこともしてみたかった。みたいな理由じゃなかろうか。


「日向——」


「皆まで言うな。行ってこい」


「すまん」


 というわけで旧化学準備室に向かった。


 教室前の廊下から人気が無い。別にやましくはないが、逢瀬にはちょうどいい場所ではあるか。

 ドアを開ける。中に——。


「鳳条さん?」


 ——人がいない。いやまだ来てないというだけかもしれない。待つか。

 と、適当に座った。その時だ。


「——ようこそおこしくださいました。鷹取、正晴様」


 教室の奥。暗がりから一人の、女生徒が現れる。鳳条さんじゃ、ない?


「君が、俺を呼び出した?」


「はい。間違いないです。”あの鳳条かれん”を手玉にとったという——正晴様」


 彼女は一歩ずつゆっくり歩み寄ってくる。

 やや紫掛かったショートボブの髪にちゃんと着た制服。要素的には清楚なのに、纏う雰囲気は怪しげなものを持っている。

 鳳条さんのギャル味を知っているので、爪やら耳やらを見るが、とくに何もしていない。逆に言えば模範的な生徒像ともいえる。


「私は一年、紫峰しほう柑奈かんなと申します」


「一年? なんで二年の俺の事を?」


「それは——有名ですから」


 彼女は不敵な、しかし優し気な笑みを向けながら話しかけてくる。

 年下に抱く感覚として不適切だろうが、妖艶、というべきか。


「ふふ……、化学準備室の噂は真実でしたのね」


「? で、わざわざ呼び出して、何の用だ?」


「ええ、それはもう。先輩にしか頼めないお願いがございまして」


 よよよ、とわざとらしい演技を交えながら話を続ける。……しかし先輩か。悪くない。


「先日、お付き合いしていた殿方に。彼は休学中なんです」


 ……。……? なんだって?

 は。葉。歯? 歯が当たって、って何の話なんだ?


「聞くところによると、先輩は、正式なお付き合いはまだされていないのですよね?」


「え、ああ……、まあ」


「でしたら、ええ、クスクス」


 紫峰さんがさらに一歩、距離を詰める。香水か? 花の甘い匂いがした。


「——私と、になってくれませんか?」


―――――――――――――――――

お読みいただいてありがとうございます。

よければブクマや最新話から評価をつけて応援していただけるととても嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る