第28話 冗談

 私は家に帰ってからお風呂でボーッと考えていた。


 あの人は羽山さんとどういう関係なんだろう。


 羽山さんのあの表情。

 きっと何かあったんだ。

 凄く気になる。

 でも、聞くのはやめておこう。


 私は着替えて髪を乾かして、その日はもう寝ようと思っていた。


 だけど、羽山さんから連絡がない。

 羽山さんと話したい。

 あの二人が気になって仕方がない。


 その時、スマホに着信があった。


 羽山さんだ!


「はい!お疲れ様です!」

『ごめん。来たんだ……』


 来た?


「どこにですか?」

『瑠美の家……』


 ──え!?


 ドアの穴から外を見ると、羽山さんが見えた。

 直ぐにドアを開けた。


「どうしたんですか!?」

「今日まともに話してないし……どうしても会いたくて」


 羽山さん……!

 こんな時間に会いに来てくれた!


「私も会いたかったです!」


 羽山さんを家に入れた瞬間、抱きつかれた。

 その勢いで体が傾いて、玄関先で二人で倒れ込んでしまった。


 少しお酒の匂いがした。


「は、羽山さん酔ってるんですか……?」


 羽山さんは何も言わない。

 ただ、表情が暗かった。


「ごめん。嫌な事があって、一人でいたくなかった」


 あの女の人と関係があるのかな……。


 羽山さんを部屋に連れていき、椅子に座らせて水を飲ませた。

 疲れてるのかボーッとしている羽山さん。


 何か元気が出そうなものはないか──。

 その時、いい事を思いついた。


 私は羽山さんの意識が逸れている間に準備をして、そっと机の上にコントローラーを置いた。

 羽山さんがそれに気がついた。


「羽山さん、どうぞ、あまるを操作して下さい!」


 テレビ画面を見せた。


 きっと喜んでくれる!


 ──と思っていたのに、羽山さんの表情は特に変わらず。


 羽山さんは、コントローラーを持って操作しだして、あまるの装備を全部外した。

 あまるは下着だけにされてしまった。


「羽山さん何してるんですか……?」

「なんとなく見たくなっただけ」


 あの理性的な羽山さんはどこへ?


 羽山さんがじっと私を見てる。

 目が座っている。


「瑠美のも見たい」

「はい?」


 なんだかよくわからないけれど、とりあえず要望に応えてみた。


「いかがでしょうか?」


 さっきより羽山さんの表情が落ち着いた気がする。


「冗談で言ってたのに、本当にするとは思わなかった」

「え?」


 羽山さんが笑っている。


「冗談だったんですか……?」


 私、真面目にやってたのに!!


「酷いです!もう私寝ます!」


 私が服を着ようとすると、それを阻まれてしまった。


「元気でた。別の意味でも」


 羽山さんが元気になってくれたのは嬉しかったけど、そのままそういう雰囲気になってしまった──


 ◇ ◇ ◇


 羽山さんは穏やかな表情で私の髪を撫でていた。


「突然ごめん」

「謝らないでください。私も会いたかったんで嬉しいんです」


 羽山さんが私の手を握った。


「今日営業部に来た女、見ただろ?」

「はい。帰る時羽山さんを待っていました」


 羽山さんが止まった。


「俺の元カノって、あいつなの」

「え!?」


 私は飛び起きてしまった。


 あの人と羽山さんが──


 二人が仲良くしている姿を想像したら、辛すぎて部屋の隅っでうずくまってしまった。


「もう何とも思ってないし、俺はあいつのせいでこういう性格になったんだよ」


 確か、パワハラ上司のせいだって前は言ってたような。


「あの人も関係していたんですね」


 羽山さんに隅っこから引っ張り出された。

 そして、羽山さんの腕の中に。


「色々あって、感情を捨てて無理やり仕事を続けてきたけど、頑張ってよかった」


 羽山さんにキスされて、モヤモヤをリセットされてしまった。

 私は単純な女だ。


 今日会いに来てくれた事が嬉しくて、お互いの気が済むまで一緒にいた。

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