コミック書評:『この空は、どんな音?』(1000夜連続5夜目)

sue1000

『この空は、どんな音?』

色と音と匂い、触感や味までもが、ひとつの旋律となって教室を満たす──。


主人公・蒼井律は、赤を「ド」に、交響曲を甘味に、柔らかい風を芳醇な香りに置き換える<全五感の共感覚を自在にコントロールする能力>をもつ。彼女の言語表現は、色彩と音階、匂いの調べが複雑に絡み合った詩のようで、言葉の壁を超え、読む者の感情にも微細な共振を呼び起こす。

その独特なモノローグは、ページをめくるたびに感覚のパレットを広げ、世界の輪郭をゆらぎの中に解き放つ。


第1巻では、編曲家としての本職を抱えつつ、高校の芸術学科に一年間の臨時教員として赴任した律が、高い感受性で生徒一人ひとりの内面に触れていく。音楽好きの生徒には色のグラデーションでリズムを、絵画に没頭する生徒には旋律で色彩を響かせるワークショップを仕掛け、感覚の垣根を飛び越え、新しい世界を彼らに提示する。その影響は、戸惑いから創作への飛躍をもたらし、漠然とした想いを鮮やかな表現へと結晶させ、次第に生徒の心にも、小さな光が灯る瞬間が折り重なる。


本作の核を貫くのは、“個人の世界<感覚>の断絶”と“深い理解”の相克だ。五感で世界を捉える人々のあいだには、同じ赤や同じ旋律が異なる意味を帯びる断絶が生まれる。しかし律は、その断絶を否定せず、あえて異なる感覚を並置することで、読む者の中に「他者の世界に触れる」余白を残す。断絶は共鳴の前奏となり、互いの感性が交わるとき、静かなカタルシスが教室を包む。


また、本作は「世界のとらえ方」と「自己との対峙」を問いかける。律自身もまた、自分だけの感覚世界に引き込まれそうになるたび、他者の前で自我と対話を迫られる。五感で感じるに揺れる自分自身を見つめ、どこまでを手放し、どこまでを言葉に託せばいいのか──その迷いと覚悟が、物語に深みを与える。


緻密なコマ割りと独特なマンガ表現が、読者自身の<感覚>を呼び起こし、その刹那、余白に刻まれた沈黙のひと呼吸が読者自身を内面へと向き合わせる。


──空の色は、いったいどんな音を奏でるのか?その問いかけと共に、五感の交響が誘う未知の感覚世界へ、ぜひ身を委ねてほしい。次巻で待つさらなる共振に、期待が高まる一冊だ。








というマンガが存在するテイで書評を書いてみた。

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